情報工学の観点から見たオンライン診療のあるべき姿、今後進むべき方向

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黒田 知宏(くろだ ともひろ)

京都大学医学部附属病院 医療情報企画部 教授

医療・福祉情報学、特に仮想・融合現実感(VR・MR)、マルチメディア通信、ウェアラブル・ユビキタスコンピューティングの医療・福祉応用に関する研究に従事。近年は、遠隔医療通信基盤、VR/MR医学教育環境、コンテキストアウェアな病院情報システム、生体信号計測用e-Textile等の開発を行っている。

オンライン診療を運用するにあたって、診療で得られるデータをどのように扱うかは重要な課題だ。大学病院で医療情報システムの運用に長年携わっておられ、医療情報学分野のオピニオンリーダーとして知られる黒田知宏氏(京都大学医学部附属病院 医療情報企画部 教授)に、情報工学の観点から見たオンライン診療のあるべき姿、今後進むべき方向などについて伺った。

オンラインでできること、できないことを切り分ければ、可能性は限りなく増える

診療のプロセスは、処方箋のように「情報のデリバリー」だけでまかなえること、触診のように直接会わなければできないことに分かれると思います。きちんと考えれば、前者に分類できるものは相当多いのではないかと思います。例えば最初に認められた遠隔医療である画像診断は、ネットワークの中だけで完結している。見るのは画像データだけですよね。

今回、「遠隔モニタリング加算」の対象が拡大されましたが、こちらに可能性を感じています。医療機器から上がってくるデータだけに基づいて、医師が患者さんの状態を判断するような「オンライン管理」の適用拡大です。今回追加されたSAS(睡眠時無呼吸症候群)に対する在宅持続陽圧呼吸療法(CPAP)はまさにそうで、患者さんが装用するCPAP装置からのデータで、治療効果やアドヒアランスを判断している。それで管理に必要な情報の多くが早急に得られるのであれば、対面診療に拘るべきではありません。アドヒアランス管理では早期に介入することが重要ですから、診療機関に本人が来るより前にデータが来ることによって、診療の質があがるわけです。

京都大学デザインスクールというプログラムがあるのですが、その中で京都大学工学研究科の富田直秀教授、京都大学経営学大学院の山内裕准教授、京都市立芸術大学 美術研究科の辰巳明久教授が行われた「Anshinのデザイン」という取り組みの中で学生とアイデアを出し合って作られた「子どもがひとりで行ける病院」というシナリオなどは良い例です。

今はお子さんが病気になると、親御さんが送り迎えや付き添いなどをしなければならないので、仕事を休まざるを得ないのですが、これは社会的に見ると労働力の総量を減らしてしまうので明らかな「損失」なんですよね。

「子どもがひとりで行ける病院」では、予め登録されたタクシー会社などに、幼稚園や学校と診療所の間の送り迎えをやってもらって、親御さんはテレビ電話などで診察を見守り医師の説明をうける。子どもがひとりで行けるので、親御さんが拘束されるのは説明を受ける本質的な時間だけにできるわけです。そういったアイデアが、情報科学を学んでいる学生さん達からは自然に出てくるんです。技術的にも制度的にもできないことは一切ない。このように割り切って整理していくと、様々な場面でオンライン通信技術の使い道がある。

このように、物理的移動を伴わない「情報のデリバリー」を行うことでより良い治療や医療サービスを提供出来るのであれば、どんどんそれをやっていくべきだと思います。もちろん対面診察にしかできないこともたくさんありますが、オンラインで可能なものは、できるだけオンラインに移していくことが、社会全体にとって有益です。本当に対面でしなければいけないのか、「情報のデリバリー」だけでまかなえるのかを冷静に切り分ける議論が必要なのではと思います。

冷静に、広いモデルでの検討が必要だった

今回の診療報酬で納得のいくかたちになったところは、通信機器にかかるコストは別枠で申し受けて良いとしたことです。これまで遠隔医療の普及活動に携わってこられた方々は、通信にかかるコストを診療報酬でカバーするべきだとおっしゃって来られたわけですが、それには違和感があります。

オンラインであろうと無かろうと、提供される医療は変わらないわけですから、選定療養費と同じ発想で、患者さんから直接とればいい。地域事情によってオンライン診療がないと医療体制がもたないのであれば、その患者負担分を自治体や国が負担すればいいですし、オンライン診療の活用で従業員が診察に行く時間の損失を低減できるのであれば、福利厚生的な意味合いで企業が負担してもいいわけです。

一方、良くないのが「30分以内に駆けつけられる」要件。突発的な病状変化は常に起きる可能性があるわけで、診療中でなければ救急医療で対応されるわけですから、オンライン診療だけに特別な条件が課せられるのは不自然です。この部分は冷静な議論が足りてないところだと思います。

もう一つ今回の改定でがっかりしたのが、オンライン診療において、外来診察では普通に取られている検査料や管理料等を取ることが認められなかったことです。オンライン診療の普及への非常に大きなブレーキになるのではないかと懸念しています。

また、今パブリックコメントに付されているオンライン診療のガイドラインが、オンライン診療と定義されるのは、医師と患者が1対1で向き合う場合だけであるとしているのもいただけません。患者側に訪問看護師や介護士が居て、診療を介助する場合も当然考えられるので、もう少し広いモデルで検討していただきたかったなと思っています。

総じて言いますと、今回の改定でオンライン診療の扉は開かれたのですが、あまり冷静でない論拠に立脚して制度を組み立ててしまったのかなという印象ですね。

広めるためのエビデンスを積み上げる。それは科学者の役割

漏れ伝わっているところでは、厚労省はエビデンスがあればやぶさかではない、というスタンス。今回の保険収載においても、オンライン診療や遠隔モニタリングに基づく診療が、対面診療に対して非劣性であるということが分かった事例を認めたということです。ですので、まずはそれぞれの疾患について、オンラインで診察を行っても対面診察に劣らない、非劣性ですよと示していくことが必要になります。エビデンスを積み上げるのは、科学者である私たちの課題ですね。

静止画像による診断については、オンラインで行っても非劣性であることは証明するまでもありません。動画や聴診器の音などをオンライン経由で受ける時、通信環境の影響によって、対面診察時と比較してどれだけ劣化するのか、医学的にどの程度ならば許容できるものなのか、といったテクニカルな評価はまだされていない状況ですね。もちろんそれぞれの診療の経緯も関係してくるので、こういう診療ならばこれくらい劣化してもアウトカムは変わらないね、と確認するプロセスを踏まなければならないわけです。

私どもでいま取り組んでいるものに、滋賀県長浜市の中山間地域で行っている遠隔診療の実験があります。訪問看護師に患者さんのところへ機器を持って行ってもらい、遠隔で医師がそのデータを確認するというプロセスです。機器の操作は看護師さんが行うので正確性は担保できている。そうして取ったデータを医師が見て診断するという流れなんですが、その機器の中に電子聴診器があります。いまそのデータが通常の聴診器と非劣性かどうか確認しようとしています。小さな作業ですが、やはりそういうものを積み重ねていかなければならないと考えています。「この条件なら非劣性ですよ」と示してあげれば、医師も安心して使ってくれるのではないかと。

そういう意味では、検査はオンライン診療に取り入れやすい。例えば、コンビニに血液検査キットが置いてあって、それを使って血液サンプルを取って検査センターで調べてもらい、その検査結果を医師が見て診断し処方する。私は、これを糖尿病の診療で取り入れても何の問題もないと思います。

家庭で検査をすることで、細かい検査値の変化が追跡できる。情報科学の観点でいうとこれはまさにサンプリング、標本化定理でモデル化ができるわけです。標本化定理というのは、例えば何かが1秒に1回起こっているとするならば、それを確実に計測するためには、1秒間に2回写真を撮らないと捕捉できない、そういうことを証明したものなんです。つまりデータは細かく、常時取っていた方がいいというわけで、それを計測するためだけに何度も対面診察していたら間に合わない。ですので、対面診察ではなく取っているデータをオンラインで管理すれば、データとして質が高いし、患者さんの状況を把握するという意味でも、むしろもっと詳細に把握ができる。(対面だけでは)把握できなかったところが把握でき診療の質が上がるわけで、意味があると考えています。

京大の内科の先生方はありだなとおっしゃっておられますね。内科の治療はアドヒアランスにかかっているところが大きいので。アドヒアランス管理がオンライン診療でできるのであればアウトカムが上がるかも、という期待があるようですね。ただし、その場合、データを全部医師が見て診断しなくてはいけないの?これは大変だというご意見もありました。検査結果は基本的に別に置いたデータ管理専門の担当者が管理して、医師はサマリーを見て判断するというスキームを組まないと、医師が(体力的に)もたないね、とおっしゃる先生方が多かったですね。

データサイエンスにどう取り組むか。成功している国は必ず方針を決めている

オンライン診療を進めるにあたっての無理のないビジネスモデルを、それぞれのロールをきちんと分けて作り上げられるかということ。それがないと医師はもたないし、社会的にもコストがかかりすぎてしまいます。また総コストの中で、どこを診療報酬でまかない、それ以外を患者さんや自治体が持つのかといった冷静な議論も必要だと思います。

データ漏えいのリスクですが、これをゼロにすることはできません。これは医療そのもののリスクがゼロにならないのと同じです。ですので、そのことを正直に語った上で、リスクはあるけどベネフィットも大きいからやりましょう、やりませんか、そういう議論を逃げずに社会としてできるかが課題ですね。いわゆる「リスクリワードレシオ」というものですが、データサイエンスが根付いている国は必ずこれをやっている。日本はいつもリスクの議論が先行して「リスクがたくさんあるからやめましょう」となってしまう。そうならないように、法律の建て付けも含めて社会全体で取り組まなければならないと思います。

今回の保険収載をチャンスだと捉えている方ももちろんいらっしゃいます。患者さんを奪われる可能性はありますが、患者さんに対していいサービスを、医師に負担がかからないかたちで、看護師や介護士の方を活用するなどの役割分担をかちっと組んで提供できれば、関連する非医療サービスも含めてビジネスチャンスになりうるでしょう。

保険でカバーする真ん中の診療の部分は診療報酬の仕組みの中でやらなければだめですが、それ以外の部分は、市場経済に任せてもいいのではないか。チャンスだと捉える先生方が、様々なモデルをトライして作っていくことが必要で、それが揃ってくれば一気に広がるのではないかなと。

自分自身は、さきほど申し上げた長浜市での研究をより進めて、訪問看護師さんが患者さんのところへ行った時に役立つようなカバンが開発できたらと思っています。カバンを開けたら医師の顔が映るようなディスプレイがあって、小型のエコーや電子聴診器も入っていて、普通に診療ができて、診療が終われば閉めて次のところへ行きます、といったことができる世界でしょうか。看護師さんができることはたくさんあると思うので、そういったモデルを広げる活動ができればと思っています。