日帰り手術の不安を解消し、スタッフの業務負担を減らす”術後日記アプリ”

Profile

森 康治

江戸川橋胃腸肛門クリニック 院長

臨床肛門病学会 技術認定医
東京医科大学 兼任講師
日本外科学会 専門医
日本消化器外科学会 専門医
日本大腸肛門病学会 専門医
日本消化器内視鏡学会

1995年東京医科大学卒業後、同病院消化器外科・小児外科に入局。東京医科大学外科 助教。
2011年辻仲病院柏の葉勤務を経て、2013年7月より医療法人社団 尚高会 西新宿きさらぎクリニック非常勤勤務。2016年1月より常勤。
2019年4月江戸川橋胃腸肛門クリニックを開院。
HP:https://www.edb-ichou.com

日帰りの内視鏡治療および肛門手術に力を入れている江戸川橋胃腸肛門クリニックは、2019年4月の開院とほぼ同時期に、日帰り手術を受ける患者さん向けのスマートフォンアプリ「術後日記」を使用開始した。

患者さんが術後の経過を自宅から手軽に医師に伝えることができる機能により、患者さんの漠然とした不安や心配に対処しやすくなったのはもちろんのこと、看護師や受付スタッフの心理的な負担を軽減する効果が見られたとのこと。

江戸川橋胃腸肛門クリニック森康治院長に、日帰り手術を開始した経緯と、アプリの活用方法、患者さんからのアプリの評判について伺った。

患者さんの負担を考えると、日帰り手術の方が好ましいことに気がついた

−日帰り手術の提供を始めた理由を教えてください。

まず初めに大腸ガンの手術に15年ほど携わったのち、内視鏡治療と肛門科診療を専門とする病院に勤務しました。その経験の中で、患者さんが痔の治療等ではなるべく入院をしたくないという要望を持っていることを知り、日帰り手術の可能性について検討し始めました。そして、クリニックに勤務していた時に実際に取り組んでみると、入院を必要としない日帰り手術で対応できる症例も多いことに気がつきました。

時が経つにつれて手術手技や道具が発達し、身体への負担を抑えられやすくなった背景も相まって、現在まで特に日帰り手術に注力してきました。

一般的ないぼ痔の手術では術後約1週間の入院が通例となっていて、切除が不要な硬化療法であっても、国内に存在する1/2程度の医療施設が入院を伴う治療をおこなっています。さらに、切除をおこなう手術であれば2/3以上の医療施設が入院治療で対応しています。しかし、日帰り手術であれば会社員の患者さんでも治療日程の都合を付けやすく、また入院費用がかからないので金銭的な負担も抑えることが可能です。今後は患者さん一人ひとりの症状や体調に合わせて、可能であるのであれば入院不要の日帰り手術で対応する、というケースも当院だけに限らず全体的に増加していくのではないかと考えています。

日帰り手術後の不安を軽減するために、医院独自のスマートフォンアプリ「術後日記」を開発

−術後経過アプリについて教えて下さい。

日帰り手術であれば、毎日仕事や育児など忙しい生活を送っている患者さんでも治療を受けやすいですが、「術後に体調が急変したらどうしよう」という多くの患者さんが持つ不安に対して、医師として何かしらのケアをおこなうべきだと考えました。また、医師や看護師としても当然ながら患者さんの体調変化に関して気にかけているので、簡単に体調を伺えるに越したことはありません。そんな患者さんと医院側、双方の思いに対応するために、医院独自のスマートフォンアプリ「術後日記」を開発し、実際に運用を開始しました。

具体的な使い方としては、患者さんがアプリ画面で「患部の出血具合」、「痛みの度合い」、「便の状態」、「薬の服用確認」などいくつかの項目をタップするだけです。その情報を元にそれぞれの患者さんの状態がスコア化されて、自動で医師に経過情報が届く仕組みになっています。

また、もし万が一患者さんの体調に大きな変化があった場合には医師側にアラートが表示され、同時に患者さん側には来院を促すメッセージが自動で表示されるようにアルゴリズムを組んでいます。なるべく急ぎで対応するべき事態が起きたときには、お互いが優先して確認しやすいように配慮した機能を搭載しました。

医師側からもスマートフォンやPCがあれば任意のタイミングで患者さんの状態を確認でき、必要に応じて患者さんに個別メッセージを送信できる機能を備えています。

患者さんとの信頼関係が強くなり、より繋がっている感覚を持てるようになった

−患者さんからの評判はいかがですか?

「術後日記」アプリ開発に関して、高齢の患者さんでも使いやすいように操作の簡単さと利便性の両方を追求してきました。その甲斐もあってか、患者さんからの評判は非常によく、アプリの使用を強制しているわけではないにも関わらずほぼ全員の日帰り手術患者さんに利用いただいています。高齢の患者さんは、使用するにあたってはじめは抵抗があったり、「難しそう」といった感想を持たれたりすることもありますが、一度使い始めるとむしろ高齢の患者さんの方が真面目に長い期間利用していただける傾向が見られます。術後2ヶ月ほど経っても毎日きちんと体調を報告し続けているというケースもあることから、特に使いやすさについては幅広い年代層の患者さんに実感いただいているようです。

アプリの導入後に感じた変化としては、医師として日帰り手術を受けた患者さんの体調を確認しやすくなったという最大の目的に加えて、術後の定期診療にいらっしゃる患者さんとより親密な関係を築きやすくなりました。「術後日記」の情報をもとにコミュニケーションをとることで、一人ひとりの体調にまつわる会話がとても円滑に進むため、患者さんが「自分のことをしっかり気にかけてくれている」という信頼感を深めていただくきっかけになっているのではないかと推測しています。

患者さん、スタッフ、医師三方の負担を軽減。患者さんが完治するまでフォローしやすい態勢になりました。

−クリニック経営の視点からアプリの効果についてお聞かせください。

日帰り手術後に関して、患者さんははっきりと口に出さないまでも合併症のリスクについて多少気になっていると思います。しかし日帰り手術で対応する症状であれば、術後に急に大量の出血があるという重い合併症が起こることは稀で、微熱や下痢などの軽い体調不良などを我慢することで重症化してしまう傾向にあります。

アプリで体調をこまめに送信していただければ、万が一そんな合併症の予兆が現れても医師側から早期に受診を促すことできるので、重症化を未然に防ぐための対策を取りやすいです。

実際にアプリの利用開始以降、突然患者さんから「手術後に体調が悪くなったが、大丈夫でしょうか?」という問い合わせの電話が医院にかかってくることは、ほぼゼロになりました。患者さんの日帰り手術に対する漠然とした不安や、知らず知らずに抱えているストレスといった精神的な負担を抑えつつ、患者さんが安心して生活を送れるようになるまでしっかりフォローする態勢を整えられていると実感しています。

また、患者さんからの「体調が悪くなった」という電話が激減したことで、医院で勤務するスタッフの働きやすさの向上にも繋がっていると感じています。そういった電話は受付スタッフが初めに応対することがほとんどですが、来院患者さんの数が多くて忙しい時など、すぐに医師と相談できないこともしばしばあります。とはいえ、受付スタッフや看護師自身が判断を下すことが難しいケースなので対応に困り、不安になったり焦ってしまったりという緊迫した心理状態になることも珍しくありません。医師以外では対処できないような術後の問い合わせが減ったことで、受付担当者や看護師が必要以上にストレスを感じてしまうことが少なくなったことも、クリニックを経営する上で喜ばしい効果の一つです。

引き続き患者さんが安心して治療を受けられる医院を目指し、工夫していく

−今後目指していくクリニックはどんな姿でしょうか?

「術後日記」アプリは、2019年4月の開院とほぼ同時期に利用開始となったばかりで、まだまだスタート段階であると言えますが、今後も日帰り手術を受ける患者さんに貢献できるように工夫しながら継続していきたいです。テレビ電話を利用した機能やそれらを活用したオンライン診療など、アプリの機能を発展させていくことについては、現在のところ特に具体的には考えていません。ただ、「術後日記」アプリでこだわっている「誰でも気軽に簡単に使える」というポイントを踏まえたものであり、なおかつアプリ機能としての技術的なハードルをクリアするものであれば、トライしていく余地はあるかもしれないと考えています。また、こちらも具体的なところは決まっていない部分もありますが、他のクリニックでも同様のアプリを使用したいところがあれば、紹介していきたいとも考えています。

さらに当然の事ながら、患者さんの個人情報や症状などセンシティブな情報をお預かりしている以上、そちらの管理にも引き続き気を配っていきます。

日帰り手術へ力を入れてきたことも、「術後日記」アプリを使用開始したのも、患者さんの治療や通院に関する様々な負担を軽減し、リラックスして通える場所を目指して進めてきました。これからも開院当初から持っているビジョンである「患者さんとの繋がりを大切にする」という姿勢を忘れずに、患者さんが気兼ねなく治療を受けられるような環境を整えていきたいです。