日本版Tele-ICU(遠隔ICU)の課題と将来性

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髙木 俊介先生

横浜市立大学附属病院集中治療部

1964年、順天堂大学付属病院に開設されたのが日本のICU(集中治療)の幕開けと言われている。日本のICUの歴史は決して長くはないが、複数の病院の集中治療室(ICU)をネットワークで接続し、ひとつのコントロールセンターで監視するTele-ICU(遠隔ICU)が注目されている。そこで、横浜市立大学附属病院集中治療部の髙木俊介先生に、Tele-ICU(遠隔ICU)の構築に関する課題と将来性について話を伺った。

ICUにおける集中治療医の供給不足を解消するためにスタート

ご存じの通り、米国では、医療の需要と供給のバランスの崩壊が叫ばれて、大きな社会問題化しています。ICUへの医療の供給は2020年に22%の供給不足となり、2035年には35%の供給不足が予想されています。そこで、2000年頃、オバマ政権下でICUの供給不足を補うためにスタートしたのがTele-ICU(遠隔ICU)です。

米国のTele-ICU(遠隔ICU)システムは4~5つの病院をネットワークで結び、電子カルテ、生体情報モニター、画像情報などをコントロールセンターで一括管理し、各施設のICU(集中治療室)患者(100人程度)を24時間365日観察するというものです。コントロールセンターは、空港でいえば管制塔の役目を果たすもので、そこに勤務するのは非常勤の医師1名、日本の集中ケア認定看護師に相当する看護師が3名。彼らが必要に応じて現場の医療従事者にアドバイスします。

具体的には心臓や中枢神経、感染、呼吸など患者さんの状態をコンピュータが点数化し重症度を判定し、とくに診るべき患者さんを抽出。同センターが現在の治療プランなどをチェックして診療の支援をしています。現在、保険診療で認められているオンライン診療は医師(D)と患者(P)が1対1対応のD to Pという遠隔診療になります。

一方、Tele-ICUはセンターにいる医師(D)や看護師(N)が現場の複数患者(multi P)を監視し、現場の医師(D)や看護師(N)を診療支援するという D or N to D or N to multi P という複雑な体型を取る事になります。また、遠隔モニタリングや遠隔監視、遠隔画像診断、Web会議など遠隔診療の複数の要素を組み合わせたシステムとなっています。こうしたTele-ICUシステムは2010年の時点で全米の249病院が導入し、41のコントロールセンターのもとに、年間30万人以上の患者が治療を受けています。導入後、予後の改善、合併症の軽減、ICU平均在室日数の短縮、社会復帰率の上昇などの成果も報告されています。

Tele-ICUのメリットとしては、

①安全管理(コントロールセンターと各病院のダブルチェック)

②医療の標準化

③スタッフ教育

④サポート体制の充実

⑤医療コストの削減

⑥ビッグデータの管理・活用

などがあります。また、米国のICUは基本的に個室管理となっているため24時間面会が可能です。そのため家族が何か気になったときもセンターに連絡して患者の状況を報告してもらえるので、家族の満足度の向上にもつながっているようです。

実現には課題も多いが、Tele-ICUは超高齢社会で急性期医療の需要が増している現状において、少ないリソースで複数患者をサポートするために不可欠なシステムと思われます。

しかし、こうした米国のシステムを日本にそのまま取り入れるのはいくつか課題があるのも事実です。

①コントロールセンターと現場との関係構築(責任の所在や人間関係)

②集中治療を専門とする医師や看護師の不足

③ICUの病床の少なさ

④財源(設備投資や維持費を負担割合)

⑤個人情報保護の取り扱い

など、さまざまなハードルがあります。なかでも大きな課題となるのはコストの削減でしょう。米国の場合、二交代制で看護師 1人が30人の患者を担当。患者の呼吸、循環、中枢、感染、腎機能、血液などのデータをモニタリングして、患者のトリアージを行い、診療支援をする仕組みをとっています。まさに人海戦術です。3億円とされている年間維持費のほとんどが人件費で占められているそうです。ちなみにコントロールセンターで勤務する看護師は、現場での経験を積んだ認定看護師クラスが現地病院のサポートをしており、キャリアアップに繋がっています。

こういった人材を集約する事は、日本で実施するのは不可能に近いため、ベテラン看護師に頼らずにすむようにデータの見える化の実現が非常に大切です。そのため、患者のバイタルサイン(血圧、心拍、呼吸数、酸素飽和度、体温)や画像情報などをリアルタイムにスコアリングを行い、重症度判定を行いトリアージするシステムが望まれています。それにより患者の重症度判定が簡便にできるようになり、結果的にコストの削減にもつながるからです。

日本では2009年に超高齢社会に突入。高齢患者の増加に伴い医療費の増加、医師・看護師の人手不足が病院運営の大きな課題になっています。現在、横浜市立大学附属病院では横浜市医療局の補助金を用いて「人工知能による重症化予測モデルと遠隔集中治療の融合による診療支援システムの構築」をテーマに、横浜市脳卒中・神経脊椎センターと連携して下記の計画をしています。

①遠隔病院の集中治療室における診療情報をネットワークでクラウド上に転送し、データの監視を行う。

②多くの患者のデータを集めて、データの二次利用を行い、人工知能を用いた重症化予測モデルを構築する

③アプリケーションを用いたタブレット端末による患者管理システムの構築

これらの要素技術を統合して日本版Tele-ICUの構築を目指しています。大きな課題となるデータの見える化のためには、総務省 戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)の補助金とコニカミノルタとの共同研究により、「生体情報と画像情報の機械学習による重症化予測モデルを組み込んだ医療用監視カメラの研究開発を進めていく方針です。

地域包括ケアや医療データの利活用の観点からも、将来的には病院だけでなくクリニックや福祉施設などと患者のデータを共有化し、治療にあたることが必要不可欠になるはずです。こうしたことからも、Tele-ICUの構築に早急に取り組む必要があり、そのためにも学会やマスコミを通じて、Tele-ICUの重要性と必要性を訴求し認知度を高めたいと考えています。