クリニックの未来と起業・アントレドクター

Profile

加藤 浩晃

デジタルハリウッド大学大学院/京都府立医科大学

2007年浜松医科大学卒業後、眼科専門医として眼科診療に従事。2016年厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社の取締役や企業のアドバイザー、厚生労働省「医療ベンチャー支援(MEDISO)」非常勤アドバイザー、経済産業省「スタートアップ支援 J-Startup」推薦委員、一般社団法人日本医療ベンチャー協会理事、千葉大学メドテックンクセンター客員准教授、東北大学・東京医科歯科大学・横浜市立大学で非常勤講師などを務める。

医師の間で評判を呼んだ「医療4.0」の著者であり、医師でありかつ起業家であるという生き方、アントレドクターとして多くの発信をしている加藤浩晃氏に、医師の起業への考え方と、クリニックの未来像についてお話を伺った。

眼科医からベンチャー企業設立に至った経緯

もともと私は眼科医としてキャリアを積んでいました。眼科の手術がうまくなりたくて一所懸命取り組んでおり、特に緑内障の専門として京都でトップレベルに近づくようにと研鑽を積んでいました。

たくさんの患者さんが自分に紹介されて来院されるようになると、失明に近い状態で紹介されてくる患者さんもとても多く、そのような失明に至る前の段階、早い段階で来院できるように、眼科医以外の先生やプライマリーケアの先生と次第に連絡をとるようになっていきました。

写真などをメールで送ってもらって診断の助言を返信する、今でいえばDtoDの遠隔医療のようなものもやっていたわけなのですが、どうしても仕事の時間以外で自分のメールアドレスを使ってやっているとプライバシーの問題やセキュリティーの問題なども生じてくる。そこでヘルスケアベンチャーと一緒にサービスを立ち上げて解決していこうと考えるに至りました。

 

大学生時代にも家庭教師グループをつくったり、予備校講師をしていたり、後に眼科医となってからも手術器具を作ったりと、ビジネス領域への関心は元々高かったと思います。臨床の現場から出てきた問題を解決するためにベンチャーを立ち上げたわけで、大きな意味での医療であって、社会実装を行っているという認識でいます。

かつて学生の頃は、将来毎日臨床、手術をやろうという気持ちでいたので、今やっていることは当時には思ってもいない状況です。数年前の自分の記録を振り返ってみても今とはだいぶ違うなと感じますからある意味大きな変化だったのかもしれません。

ヘルスケアベンチャーを立ち上げるに至ったきっかけは、2016年に厚生労働省に出向した経験が直接的なものだと思います。特に今は第4次産業革命のテクノロジー、政策を作る側から見た医療制度、サービスを継続させるためのビジネスの視点、この3つがヘルスケアベンチャーにおいて重要だと思うのですが、特に医療制度を直接みるということはなかなかできないことなので、そこを厚生労働省でじかに身につけたのが大きいと思っています。

10年後の自分はどうなっているかと考えると、現在医療機器を開発する会社を将来的にも医療現場でこういうものがほしいというのを手伝う仕事をしながらも、自分は臨床の現場が好きなので臨床医としての軸足も残しておきたいと思います。

クリニックの未来

例えば2025年、クリニックはどのようになっているのかと考えると、3点考えられます。

①医療者が働きやすくなっている。

まだまだテクノロジーが医療現場に入ってくる余地はありますし、医師や看護師でなくともできることを切り分けていくことで働きやすい環境になってくると思います。逆に言うとそれができないクリニックは厳しい環境になってしまうのではないでしょうか。

②診断と治療方針においてはクォリティーの高い医療を提供できる環境が整ってくると思われます。

AI画像診断やダブルチェックの見逃し防止など、人とAIがダブルチェックするというところにおいては正確性が増して省力化が図られるのではないでしょうか。医療、とあえて言わなかったのは医師と患者さんとのコミュニケーションという部分についてはAIで代替できないと思うからです。

③患者さんと医療が近くなっていく。

何らかの形で患者さん自身が自分をセンサリングして記録することによって、ここでPHR(Personal Health Record:生涯型電子カルテ)が有用かもしれませんが、患者さんというように病気になった人だけでなく、一般の方が医療を身近に感じてくれるようになるのではないかと期待しています。この先としてはセルフケアなどに可能性もあると思うのですが、まず患者さんの意識として自分の健康状態への意識付けが進むと思います。

 

AIの診断についていえば、オリンパスの大腸内視鏡(狭帯域光拡大観察を含む人間による操作及び観察、撮影した写真でAIが診断)で、がんか非がんかということについて補助診断することについて認可がおりましたし、日本でもAIが医療に入ってくる流れになると思われます。

将来的に国の構想としてはクリニックを患者さんに近いものとして予防の領域も含めて期待されてくるのではないでしょうか。医療保険の財政の問題があるのでOTC(Over The Counter:市販医薬品)で済む領域に関してはクリニックの仕事ではなくなるかもしれない。しかし、患者さんが半年分ぐらいの健康ログをクリニックに持って言って医者とお話をして診てもらう、そういうところで保険診療以外として予防と早期発見をしていく、そういったクリニック像が考えられます。

クリニックは今後自分のクリニックをどういうクリニックとしたいかの分岐点に差し掛かっていると思うのですが、そこでどう判断するかは医師の年齢や、立地や競争環境、地域性、などの問題に左右されると思うので一概に言えないところはあります。しかし例えばジムを作ったり、病児保育を行ったりなどの付加価値をクリニックで提供することを通して、医療だけではないコミュニティの場になっていくことも今後クリニックに期待される部分なのかもしれません。

増加するアントレドクター

アントレドクター(医師であり、かつ起業家である人)が増えています。テクノロジーが発展するちょうど良い時代にめぐりあわせが来ています。今までの課題についてインターネットの普及、インターネットでできることについては2005年ぐらいまでに医療現場に入ってきた(医療3.0)と思われていますが、その後の段階、今の第4次産業革命時代のAI、Iot、ビッグデータ、ロボティクスなどのテクノロジーの進歩を利用していこうというのが「医療4.0」です。

このような時代に医師として未来を見据えて起業(事業)によって社会を健康にしようとしている人が東京や大阪、他の地域でも増えてきている印象があります。

自分でもやれそうだな、と思えることが1点目、そして実際に資金が回ってくるようになる時代になったことが2点目、この2点が重要なことだと思います。資金調達は昔に比べると容易な時代になっていると言われています。

大企業であってもはじまりはベンチャーで社会の要請としてもベンチャーをやることは国も推奨していますし、学校教育法の83条の2項は、研究の成果を社会に還元しましょう、とされています。それが大学でもようやくできるようになってきたのが今の時代ではないでしょうか。

未来の自分にパスを出している

今も自分は異端だと思っています。東京ではアントレドクターとしてのキャリアはかろうじて理解されますが、他の地域では理解されにくいと感じることもあります。私はいま37歳ですが、未来を見据えて動いていて未来にパスを送っている気持ちです。

ビジネスの世界も楽しいだけではなくてもちろん厳しいところがあるので、熱い思いを持って入ってこないとしんどいと思います。ただ、アントレドクターという生き方があるんだよと言うことを若い医師に知ってもらいたいです。

東京以外の人にも東京のことの熱気を知ってもらいたく「ヘルスケアビジネス研究会」というオンラインサロンを運営しています。オンラインサロンはいま登録者が200人ぐらい、半分ぐらいは医師などの医療者で、興味を持って地方からも情報を得たいと考えてくれている人が多いです。

開業医になる、教授を目指して研究する、病院の部長になる、これらのいずれでもない生き方。そして、企業で働く、行政で働く、産業医として働く、医師の働き方は増えてきています。開業医の先生の形態としても、自営業的な志向の先生と、経営者的な志向の先生と2種類いると思います。「ビジネス」とひとくくりに毛嫌いするわけでなく、ビジネスの領域から取り入れられる所は取り入れながら自分のキャリアを考えることは重要だと思います。