DOCWEB『院長が悩んだら聴くラジオ』この番組は開業医の皆さんが毎日機嫌よく過ごすための秘訣を語っていく番組です。 通勤時間や昼休みにゆるっとお聞きいただけると嬉しいです。
オープニングトーク
(高山)おはようございます。パーソナリティのDOCWEB編集長、高山豊明です。
(大西)おはようございます。パーソナリティのMICTコンサルティング、大西大輔です。
(高山) 院長が悩んだら聞くラジオ第19回始まりました。大西さん今回もよろしくお願いします。
(大西)はい、よろしくお願いします。 今日のテーマは何ですか?
今日のテーマ:紙の保険証廃止でクリニックにどんな影響があるのか?
(高山)今日のテーマは「紙の保険証廃止でクリニックにどんな影響があるのか?」です。
(大西)いよいよ12月2日から、マイナンバーカードへの一本化に伴い、紙の保険証の新規発行が停止されます。長年、私たちが持ち歩いてきた紙の保険証が、1年間の猶予期間を経て廃止されることで、どのような変化が起きるのでしょうか。
(高山)この冬、紙の保険証が廃止されますが、これまでの経緯と今後のスケジュールについて教えていただけますか?
(大西)マイナンバーカードの話から始めましょう。マイナンバーカードを国民全員の身分証明書にしようというプロジェクトでしたが、これが難航しました。
そもそも、保険証は身分証明書としての役割だけでなく、医療機関へのアクセス手段としての利便性も担っていました。運転免許証も同様です。
アメリカのように、グリーンカードが永住権となり、生活の基盤となる国では、その価値は絶大です。
しかし、日本では生まれながらにしてほとんどの人が日本人であり、日常生活で身分証を提示する機会はほとんどありません。海外旅行ではパスポートが必要ですが、国内ではレストランでさえ求められることは稀です。これが、マイナンバーカード普及の妨げとなっている要因の一つでしょう。
そこで厚労省や総務省は、日本で最も普及している「なんとか証」は何か?という点に着目しました。それは保険証であり、次に運転免許証でした。この2つを紐づけることで利便性が高まると考え、この構想がスタートしました。
(高山)保険証のデジタル化構想が先行し、その途中にマイナンバーカード構想が組み込まれたということでしょうか?
(大西)当初は、保険証にICチップを埋め込みデジタル化を進める計画でした。いずれ紙の保険証は廃止されるだろうという流れの中で、マイナンバーカードとの連携が持ち上がったのです。
保険証を発行するにはコストがかかります。従業員が入社する度に保険証を作成し、申請書類を作成・送付する人件費、発行・郵送にかかる費用など、膨大なコストが発生します。
デジタル化すれば、これらの手続きは瞬時に完了し、コスト削減に繋がります。登録も発行もネット経由で行い、完了通知はメールで届く。これがデジタル化構想です。
保険証はデジタル上に存在し、物理的なカードは不要になります。目指していたのはこの姿でした。マイナンバーカードありきではなかったのです。
(高山)厚労省の本音としては、必ずしもマイナンバーカードを推進したかったわけではなかったということでしょうか?
(大西)その通りです。マイナンバーカードは、人口分のICチップ付きプラスチックカードを発行する必要があり、コスト面で課題があります。さらに、5年ごとの更新が必要となるため、再発行コストも発生します。ICチップ、読み取り装置、カード本体、これらは全て利権の温床になりかねません。
デジタル化によって新たな需要と供給が生まれ、誰かが利益を得る一方で、税金の使い道として適切なのかという議論も避けられません。
今後のスケジュール、高齢者・子供への対応、そして残る課題
(高山)今後のスケジュールはどのようになっているのでしょうか?
(大西)オンライン資格確認はほぼ全ての医療機関に普及しました。
今後は、医療情報のやり取りを円滑にするため、電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスの普及、そして電子カルテのデジタル化を進めていく予定です。
最終的には、患者が自身の保険情報、薬の情報、カルテの情報にマイナンバーカードを通じてアクセスできるようになります。医療機関は患者の同意を得た上で、必要な情報を確認することが可能になります。
厚労省が目指す、真のカルテの一本化が実現するわけです。
このような仕組みは世界的に見ても珍しく、生まれてから死ぬまでの医療情報を一元管理している国はほとんどありません。日本は、まさに世界に先駆けた実証実験を行っていると言えるでしょう。
(高山)この冬から紙の保険証が廃止されますが、普及促進のための施策は?
(大西)普及促進には、強制と報奨の2つのパターンがあります。これまでマイナポイントのような報奨型で進めてきましたが、効果が薄いため、強制的な切り替えとなりました。
しかし、残された課題は、子供や高齢者への対応です。子供にとってマイナンバーカードのメリットは少なく、現状では子供医療証もデジタル化されていません。
(高山)各自治体から発行されている医療証ですね。
(大西)そうです。医療証も早くマイナンバーカードと紐づければ良いのですが、まだ実現していません。生活保護受給者のみ紐づけが完了している状態です。
0歳の赤ちゃんでもマイナンバーカードは作れますが、5年間も写真が変わらないままというのは、本人確認の観点から問題があります。また、寝たきりの高齢者や家族がいない高齢者などは、ヘルパーや行政職員の支援が必要になります。
80歳以上の人口は20%、約2000万人。寝たきり高齢者は500~600万人と推計されます。この膨大な人数に対して、誰がどのようにサポートしていくのかが大きな課題です。
1年間の猶予期間内に、マイナンバーカードと保険証の紐付けを100%達成するのは容易ではありません。
(高山)80歳以上の人口は10%ですね。いずれにせよ、支援が必要な患者さんは多く、サポート体制の構築が急務です。
(大西)独居高齢者や施設入所者への対応も必要です。施設職員やヘルパー、ケアマネージャーの負担も大きくなるでしょう。
認知症の患者さんにとっては、保険証廃止の理由を理解することは難しく、混乱を招く可能性があります。
「国が決めたことだ」と言っても納得してもらえないかもしれません。1年後に紙の保険証が完全に廃止された時、マイナンバーカードとの紐づけが済んでいない人がいたらどうなるのでしょうか?
医療費の負担が大きくなる可能性が高いにも関わらず、保険証が使えなくなってしまうのです。クリニック側も対応に苦慮するでしょう。
一つの解決策として、生活保護の申請と同時にマイナンバーカードを発行する方法が考えられます。
既にマイナンバーは全員に割り当てられており、紐づけの手続きを行うだけで良いのです。生まれた時に保険証と紐づけておくのが理想的ですね。
(高山)入り口で紐づけておくのが一番ですね。
(大西)そうですね。既に生まれている人は、電話一本で紐づけ手続きを完了できるようにすれば良いでしょう。手続きの煩雑さが普及の妨げになっているのです。
(高山)途中から始まった制度なので、既存の成人は遡って手続きを行う必要があります。新生児は最初から紐づけておくようにすれば、混乱は避けられるでしょう。
クリニックにおけるマイナンバーカード運用の課題と未来
(大西)保険証が廃止されマイナンバーカードに一本化されると、手続きが簡素化されます。
(高山)そうですね。マイナンバーカードの導入は、クリニックにどのような影響を与えるのでしょうか?
(大西)マイナンバーカードの保険証利用率は現状8%程度です。つまり、9割以上の患者さんは、依然として紙の保険証を利用しています。保険証の方が受付手続きが早く、スムーズだからです。
(高山)具体的に、どれくらい時間が違うのでしょうか?
(大西)マイナンバーカードの場合は、カードリーダーに置き、顔認証を行い、いくつかの質問に答える必要があります。
少なくとも1分ほどかかります。一方、保険証の場合は「こんにちは。保険証はお持ちですか?はい。」で終わり。わずか2秒です。
この差は非常に大きく、待ち時間の増加に直結します。裏では保険証の登録作業なども行っていますが、リアルタイムで処理できるか、後回しにするかは大きな違いです。
保険証を預かり、入力・確認作業を行ってから返却するとなると、さらに時間がかかります。まとめて処理できれば効率的ですが、マイナンバーカードの場合は一人ずつ対応する必要があるため、患者のリテラシーも影響します。
「はい」と「いいえ」で答え方が異なる場合や、個人情報の提供に同意しない患者さんもいるでしょう。
医療機関としては、「いいえ」と回答されると情報にアクセスできなくなり、診療に支障をきたす可能性があります。
お薬手帳や電子処方箋の情報もマイナンバーカードに紐づけられますが、情報提供に同意しない患者さんの薬歴を確認できないといった問題も発生します。
医療機関にとってはメリットが少ないと感じられるかもしれません。
「よく分からない人は『はい』で答えてください」と案内している医療機関もあるようですが、個人情報の取り扱いには十分な配慮が必要です。
「はい」「いいえ」を強制されることに抵抗を感じる患者さんもいるでしょう。
(高山)人権問題に発展する可能性もあります。
(大西)また、無人受付システムを導入している医療機関も増えています。保険証をスマホで読み取り、クレジットカードなどの決済情報と紐づけ、診察券もスマホに集約することで、チェックインから会計までをスムーズに行えるようにするサービスです。
しかし、マイナンバーカードの場合は、マイナポータルとの連携が必要となり、手続きが煩雑になります。マイナポータルのレスポンス速度も課題の一つです。
開発の面でも負担が大きくなります。これまで、保険証の写真を読み取るだけで済んでいたことが、複雑な手続きに変わってしまうのです。
(高山)マイナンバーカードの物理的なカードが廃止されるというのは?
(大西)マイナンバーカードの情報は、スマホやクラウドに格納されるようになります。顔認証などの手続きが事前に済んでいれば、受付はスムーズになります。
患者さんは「マイナンバーカードはお持ちですか?」と聞かれることもなくなり、「登録は終わっていますか?」「はい、終わっています。では、どうぞ。」という流れになるでしょう。しかし、これが次のハードルになります。
飲食店の無人受付システムのように、事前に予約番号を取得し、入店時に番号を入力するだけで済むようなシンプルな仕組みにするには、まだ課題が多いのです。
レストランでは身分確認は行っていませんが、医療機関では必要です。本人確認は非常に難しい問題です。
現状では、保険情報と顔認証を組み合わせた本人確認が主流ですが、顔が変わった場合などは認証エラーが発生する可能性があります。
整形手術や、単に太ったり痩せたりした場合でも、認証できない可能性があるのです。顔認証は必ずしも最適な方法とは言えません。
目の虹彩認証や指紋認証の方が確実かもしれませんが、虹彩や指紋の情報を持たない人もいます。
どのような認証方法が最適なのか、難しい問題です。現状では、顔認証が最も無難な方法とされていますが、クリニックにとっては大きな問題となる可能性があります。
認証エラーが発生すると、無保険扱いになってしまうからです。患者は「マイナンバーカードを持っているのに、なぜ承認されないのか?」と怒るでしょう。現場は混乱し、クリニックは対応に追われることになるでしょう。
医療現場における更なる課題:多様な公費、セキュリティ、そして未来への展望
(高山)細かな部分で様々な影響が出てきそうですね。
(大西)そうですね。トラブルは山積みです。在宅医療、外来医療、代理での薬の受け取り、オンライン診療、オンライン服薬指導など、様々な場面でマイナンバーカードの運用が想定されますが、システムはまだ追いついていません。
在宅医療でのマイナンバーカードの利用方法、代理人による手続きなど、解決すべき課題は山積しています。
さらに、生活保護以外の公費、例えば子供医療費助成や障害者手帳、年金手帳などとの連携も進んでいません。原爆被害者や公害被害者に対する公費負担なども、デジタル化は未着手です。
医療現場では、複数の公費を併用している患者さんも少なくありません。保険証が廃止されても、公費の適用は紙ベースで行われるため、混乱が生じる可能性があります。
(高山)デジタルカードやICチップ1枚で全てを管理するのは、非常に難しいのですね。
(大西)人口が少ない国では成功例もありますが、1億人を超える日本では容易ではありません。
(高山)途中から始まった制度なので、移行期間は大変ですね。
(大西)まさに国民的大実験です。成功すれば、日本は世界から称賛されるでしょう。
しかし、失敗すれば保険証が復活する可能性もゼロではありません。「マイナンバーカード乗っ取り事件」や、サイバーテロによる情報漏洩のリスクも懸念されます。「マイナンバーカードに紐づいた情報を全部盗んでしまえ」というような攻撃も想定されます。
マイナンバーシステムは分散処理されているため安全性が高いと言われていますが、実際にサイバーテロが起きた場合、システムが利用できなくなることの方が恐ろしいのです。
データが盗まれるだけでなく、デジタルSuicaが停止して電車に乗れなくなったり、チャージができなくなったりする可能性も否定できません。これは非常に深刻な事態です。
お金が払えなくなって食い逃げ、なんていうこともあり得るかもしれませんね。
デジタル化の怖いところは、セキュリティ対策やサイバーテロ対策が不可欠となる点です。マイナンバーカードは、単なる医療情報の管理ツールではなく、セキュリティ対策の重要性を改めて認識させるきっかけとなるでしょう。
(高山)今後のサイバーセキュリティ対策については、次回に詳しくお伺いしたいと思います。マイナンバーカードの運用には、まだまだ課題が多く、波乱万丈な道のりが予想されますね。
(大西)そうですね。一筋縄ではいかないでしょう。
(高山)本日はこの辺りで終わりにしたいと思います。大西さん、ありがとうございました。
(大西)ありがとうございました。
(高山)院長が悩んだら聞くラジオ 今回もお聞きいただきましてありがとうございました。この番組への感想は「#院長が悩んだら聴くラジオ」でXなどに投稿いただけると嬉しいです。番組のフォローもぜひお願いします。この番組は毎週月曜日の朝5時に配信予定です。それではまたポッドキャストでお会いしましょう。さよなら。