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DOCWEB『院長が悩んだら聴くラジオ』この番組は開業医の皆さんが毎日機嫌よく過ごすための秘訣を語っていく番組です。 通勤時間や昼休みにゆるっとお聞きいただけると嬉しいです。
オープニングトーク
(高山)おはようございます。パーソナリティのDOC WEB編集長、高山豊明です。
(大西)おはようございます。パーソナリティのMICTコンサルティング、大西大輔です。
(高山) 院長が悩んだら聞くラジオ第22回始まりました。大西さん今回もよろしくお願いします。
(大西)はい、よろしくお願いします。 今日のテーマは何ですか?
今日のテーマ:クリニックの災害対策(後編)
(高山) クリニックの災害対策について、前回に引き続きお話を伺います。災害が起きることが予測される時、クリニックはどのように準備すべきでしょうか?
クリニックの規模を縮小して運営する場合と、完全に休診にする場合で対応が変わってきます。まずは縮小運営について、具体的に説明しましょう。
クリニック縮小運営の体制
(大西)最小ユニットを構成することが重要です。具体的には、医師1名、看護師1名、事務員2名程度で1ユニットと考えます。そして、クリニックに一番近いスタッフにお願いをして、このユニットを複数作ります。
(高山) なるほど。
(大西) 自転車や車で5分圏内に住んでいるスタッフにお願いするということです。意外かもしれませんが、院長先生が一番自宅から遠いケースもあるので、最悪の場合はクリニックに宿泊することもあります。院長室にシャワーなどを設置しているクリニックもあります。
(高山)災害時には、普段15人体制だったとしても、この最小ユニットで対応することになります。最小ユニットで対応するメンバーを決めておくということですね。
(大西) そうです。事前に決めておくことが重要です。今回の台風のように、前々日、前日から予報が出ている場合は、災害発生時の対応について、スタッフと少しずつ確認していくと良いでしょう。「こんな場合は、こうしよう」というように。
(高山) 確かに。
(大西) こうした話をすると、スタッフは張り切ってくれることが多いです。「私が近所なので、大丈夫です!」と言ってくれるのですが、中には、人間関係がギクシャクしているクリニックでは、「私ですか?」と不満を漏らすスタッフもいるかもしれません。
(高山) そうですね。
(大西) 私の経験では、患者さんが良いクリニックほど、スタッフも協力的になってくれるように思います。多くのスタッフは、「災害時にも勤務します」と言ってくれます。
(高山)医療従事者の皆さんには、本当に頭が下がります。
(大西) 特に看護師さんは献身的です。新型コロナウイルス感染症の流行時も、災害時のような状況でした。発熱外来を担当していた看護師さんたちは、今でもPCR検査のために走り回っています。
先生方は屋内で検査しても良いと考えているのですが、看護師さんたちは「外で検査しなければダメです」と言って、今でも車に乗ったりしながら検査をしています。
(高山) そうなのですね。
(大西) 看護師さんたちは、ナイチンゲール精神に溢れています。感心する一方、もう少し柔軟に対応しないと、院長先生も困ってしまうのではないかと思います。
院長先生は、クリニック全体の状況を把握する立場にあります。
災害時には、どのようなメンバーで、どのような体制で対応するのが良いのか、そして、スタッフの負担を最小限にするにはどうすれば良いのか、常に考えています。
これが全体を俯瞰して見る「鳥の目」です。一方、看護師さんは目の前の患者さんを助けたいという一心で行動します。
目の前のことだけに集中する「虫の目」です。災害時こそ、「虫の目」ではなく「鳥の目」を持つことが重要です。
災害時の冷静さを保つために
(大西) 災害時の対応について話していても、実際に災害が起きたらパニックになり、対応どころではないという声も聞きます。
だからこそ、普段から何をするべきかを決めておくことが重要になります。高山さんは、どうすれば冷静さを保てると思いますか?
(高山) どうすれば良いのでしょうか?
(大西) 冷静さを維持するための訓練です。9月1日には避難訓練を実施しますよね?これは、関東大震災を教訓として行われています。
今の子供たちは、なぜ9月1日に訓練をするのかを知らないかもしれません。9月1日に起きた関東大震災以降、避難訓練は毎年この日に実施されています。
学校では、地震や火災発生時の避難経路の確認、初動の確認、点呼の仕方などを訓練します。
消防士さんが来て、消火器の使い方を指導してくれることもあります。医療機関でも、同様の訓練が必要となります。
しかし、私の知る限り、100件中10件程度のクリニックしか実施していません。
厚生労働省はBCPの作成と訓練を義務付けていますが、病院ではほぼ100%実施されているのに対し、クリニックでは小規模なこともあり、なかなか手が回らないのが現状です。「どうにでもなるだろう」と考えている院長先生も多いようです。
(高山) そうかもしれません。しかし、実際に災害が起きると、対応に追われて大変なことになります。
(大西) その通りです。東日本大震災や能登半島地震の際も、医療現場で話を聞きましたが、皆「何もできなかった」と言っていました。
災害時にどう対応するかは、院長先生のリーダーシップが重要です。しかし、誰もが臨機応変に対応できるわけではないので、事前に対応を決めておく必要があります。
(高山) 訓練を行うにしても、ルールを設定しなければ、バラバラに行動してしまいます。
(大西) おっしゃる通りです。
先日、産婦人科で訓練に立ち会いましたが、そこでは、まずベッドに寝ている妊婦さんと赤ちゃんを安全な場所に移動させるチームと、外来にいる患者さんを安全な場所に移動させるチーム、そして、災害発生時に備えて電源を落とすなどの準備をするチームに分かれて行動していました。
患者さんだけでなく、クリニックの近くを歩いている人たちも避難誘導する必要が出てくるかもしれません。
病院は、崖の近くなど災害の危険性が高い場所に建てられていることが多いので、平屋のクリニックや2階建ての産婦人科などは、特に避難場所の確保が重要になります。
近くの駐車場や小学校なども避難場所として想定しておくと良いでしょう。災害マップを見ながら、検討しておく必要があります。街中のクリニックビルでは、ビルからどのように避難するかという課題もあります。何を想定するかによって、対応は大きく変わってきます。
災害対策と人材育成
(高山) 災害訓練は、人材育成にも繋がるのでしょうか?
(大西) 災害訓練は、何か起きた時に対応できる能力を養うトレーニングになります。
そして、ルールを守ることの大切さを学ぶトレーニングにもなります。私たちは、ルールを作り、守り、実行することで社会生活を送っています。
しかし、災害時にはルールがないため、何もできなくなってしまうことがあります。
大切なのは、ルールを作ることです。そして、そのルールは、自分たちで作るからこそ意味があります。
誰かが作ったルールは守りにくいものです。会議で「テンプレートをください」と言われることがありますが、「参考にするのは良いですが、そのままコピー&ペーストするのではなく、自分たちで考えてください」と伝えています。
(高山) 形だけになってしまうからですね。
(大西) そうです。自分たちで考えるからこそ、ルールに魂が込められるのです。
これが教育の本質です。雛形をコピー&ペーストして使う人は、二度とその内容を確認しません。
「こんなことが書いてあったのか」と後で気付くだけです。内容を理解していないのです。
時間をかけて、自分たちでルールを作るからこそ、教育の効果があります。教育とは、1+1=2という答えを教えることではなく、答えを導き出す方法を教えることです。テンプレートは答えでしかありません。
テンプレートを作るプロセスこそが教育なのです。1時間かけて、みんなでテンプレートを作りましょう。
そして、それを既存のテンプレートに置き換えていく作業を通して、内容を理解していくのです。出来上がったものは同じかもしれませんが、そのプロセスが重要なのです。
(高山) 一緒に考えて、自分たちで作っていくからこそ、魂が込められるのですね。
(大西) その通りです。使えるものになります。マニュアルやテンプレートを見なくても、当日動けるようになります。
(高山) なるほど。マニュアルは見るものではなく、作るものなのですね。
(大西) マニュアルは、後で確認するために作るのではありません。作る過程で内容を覚えるのです。
マニュアルは、新人が作るべきです。先輩が作ったマニュアルは、新人は読みません。
読んだとしても、「何か違う」と感じてしまいます。新人が先輩に聞きながらマニュアルを作れば、真剣に取り組み、内容を覚えることができます。
そして、そのマニュアルは次の新人に引き継がれ、改訂されていきます。先輩が作ったマニュアルは、変更しにくいものです。「変更しても良い」と言われても、なかなか変更できません。ルールは変更しにくいものです。
だからこそ、新人が毎回マニュアルを作ることで、内容が更新され、受け継がれていくのです。災害マニュアルも、新人を中心に作成すると良いでしょう。
BCP作成の意義
(高山) 災害マニュアル作成の重要性がよく分かりました。
新しい事業を立ち上げる際も、社長が事業計画を作るのではなく、責任者に作らせた方がうまくいくと言われています。
(大西) 事業計画を作って部下に渡すだけでは、義務感でしかありません。現場で作られたものは、使命感に変わります。
「何としてもやり遂げよう」という使命感を持って取り組むためには、現場で作らせることが重要です。
「やれ」とか「絶対にやらなければならない」という強制的な指示を出すのではなく、社長が自ら作成すれば良いというものではありません。
義務感になってしまいます。BCPも、計画を作ることが目的ではなく、自分たちで作ることによって、「患者を守るためには、こうしなければならない」という意識を持つことが重要です。BCPは、自分たちの考えを表したものです。
(高山) そうですね。
(大西) 作りたくて作るのではなく、使命感を持って作ってほしいのです。何か起きた時に、「このBCPがきっと役に立つ」と想定して作るのです。国が普及を促進しているから作るというのは、間違っています。
(高山) そうですね。それが、10件に1件しかBCPを作成していないという現状に繋がっているのでしょう。
(大西) その通りです。国が「普及しました。2軒に1軒がBCPを作成しています」と発表しても、皆がコピーするだけでは意味がありません。
何のためにBCPを作るのか、自分たちを守るため、患者さんを守るために作るのだということを理解することが重要です。
使命感を持ってBCPを作成してほしいと思います。本日は以上です。
(高山) クリニックの災害対策について、2回に渡りお話を伺いました。ありがとうございました。
(高山)院長が悩んだら聞くラジオ 今回もお聞きいただきましてありがとうございました。この番組への感想は「#院長が悩んだら聴くラジオ」でXなどに投稿いただけると嬉しいです。番組のフォローもぜひお願いします。この番組は毎週月曜日の朝5時に配信予定です。それではまたポッドキャストでお会いしましょう。さよなら。