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DOCWEB『院長が悩んだら聴くラジオ』この番組は開業医の皆さんが毎日機嫌よく過ごすための秘訣を語っていく番組です。 通勤時間や昼休みにゆるっとお聞きいただけると嬉しいです。
オープニングトーク
(高山)おはようございます。パーソナリティのDOC WEB編集長、高山豊明です。
(大西)おはようございます。パーソナリティのMICTコンサルティング、大西大輔です。
(高山) 院長が悩んだら聞くラジオ第26回始まりました。大西さん今回もよろしくお願いします。
(大西)よろしくお願いします。今回は前回の続きで、AIの話題ですね。
今日のテーマ:クリニックでのAI活用におけるリスク
(高山)クリニックでAIを活用しすぎることによるリスクについてお話ですね。
(大西)AIの話題を26回も続けていると、ネタを考えるのも大変になってきます。
ですが、どんなネタが適切か考えること自体が良い刺激になっています。最近は年間連載をしている関係で、流行の旬なネタをジャストタイミングで出さないといけないプレッシャーもあります。
3ヶ月後には賞味期限切れになってしまうようなネタは避けたいので、AIを活用したネタ出しなども検討していますが、そうこうしているうちに自分の頭が退化していくような不安も感じています。
開業医の年齢層低下と経験値不足
(高山)クリニックでAIを活用しすぎることによるリスクについてお聞かせください。
(大西)まず大前提として、最近クリニックを開業する先生の年齢層が年々下がっていると感じています。
以前は40歳前後が平均的でしたが、今は30代前半で開業する先生も珍しくありません。
医師免許取得後、臨床研修を終えて一人前になるまでには30歳前後となり、そこから10年ほどの経験を積んで開業するのが一般的でした。
しかし、30代前半で開業すると、医師としての経験は3年程度しかありません。
(高山)もちろん、30代前半の先生方も過酷な研修を積んで専門医資格を取得されているので、能力に問題があるわけではありません。
ただ、医師は生涯学習が必須の職業であり、10年選手と3年選手では経験値に大きな差が出てしまうのは否めません。
AIによる医師のスキル低下懸念
(大西)医師の生涯学習という点では、2025年4月からスタートする「かかりつけ医報告制度」も関係してきますよね。
この制度では、従来の機能に関する報告だけでなく、医師の資質やスキルに関する報告も求められます。
具体的には、かかりつけ医としてどのような機能を持ち、何ができるのか、何が得意なのかといったソフト面の情報も報告対象となります。
そして重要なのが、研修を受けているかどうかも評価対象になるという点です。
日本医師会が実施している「かかりつけ医研修」は、実は2018年頃から既に始まっており、私も立ち上げに関わっていました。
当時はeラーニングが普及していく時代を見据えて、診療報酬点数や資格取得に役立つような研修コンテンツを準備していました。
現在ではセキュリティ研修や専門領域研修など、様々な研修がデジタル化されつつあります。
かかりつけ医研修の内容
(高山)「かかりつけ医研修」の内容はどのようなものなのでしょうか?
(大西)かかりつけ医としての資質に関する研修です。在宅医療や介護、オンライン診療など、患者のライフサイクル全体を捉えた内容となっています。
昔のように外来診療だけしていれば良い時代は終わり、患者さんは施設に入所していたり、自宅で療養していたり、様々な状況があります。
多様なライフスタイルに合わせて医療の提供方法も変化しており、診療報酬の請求方法やコミュニケーションの取り方も変わってきています。
在宅医療ではケアマネージャーや訪問看護ステーションとの連携が不可欠ですし、外来診療とは異なるコミュニケーションスキルが求められます。
このような変化に対応できるよう、研修を通してスキルアップを図ることが重要です。
AIによる他者との関係性希薄化
(高山)AIを活用することで、他者との関係性が希薄になってしまう懸念もありませんか?
(大西)そうですね。人と会わずに仕事をしていると、どうしても自分だけの世界に入り込んでしまいがちです。
クリニックを開業すると、患者やスタッフ以外との接点は減ってしまいます。
かかりつけ医は、他の医療機関や薬局との連携が重要です。患者を紹介したり、逆紹介を受けたりしながら、継続的にフォローアップしていくためには、円滑なコミュニケーションが欠かせません。
AIによって医師同士の相性や好みなどの情報が分かれば、コミュニケーションを円滑にするためのヒントにはなるかもしれません。
しかし、AIに頼りすぎてしまうと、人間関係を築くための努力を怠ってしまう可能性も否定できません。
AIの普及で生じる課題
(高山)AIが普及することで、他にどのような課題が生じるとお考えですか?
(大西)AIに相談した内容が一般化されてしまうリスクも懸念しています。AさんがAIに相談した内容が、Bさんの相談時にAIから回答として提示されてしまう可能性があるということです。
AIは学習を繰り返すことでどんどん進化していきますが、その過程で医師の着眼点や独自のノウハウがAIに吸収されてしまうかもしれません。
まるで雪だるま式に知恵や工夫がAIに集積され、巨大なAI医師が誕生していくようなイメージです。
そうなると、医師の個性が失われ、AIに依存した均一的な医療が提供されるようになってしまうかもしれません。
著作権・権利侵害問題
(高山)著作権や権利侵害の問題については、どのようにお考えですか?
(大西)著作権の問題は、以前中国の方から相談を受けた際に考えさせられました。
その方は「紙を発明したのは中国なのだから、紙に書かれたものは全て中国のものだ」という論理を展開しました。
著作権の保護期間を7年や10年と定めているのも人間であり、人間の作ったルールはいつでも変更可能だというわけです。
著作権侵害の問題は、今後もいたちごっこが続くでしょう。
AI時代に必要な医師の「らしさ」
(高山)AI時代において、医師にとって重要なのはどのような点でしょうか?
(大西)AI時代には、医師としての「らしさ」が重要になると思います。AIに代替できない、医師としての個性や独自性を発揮していく必要があるということです。
(高山)AIに自分の考えを吸い取られてしまっては、医師として存在意義が薄れてしまいます。
(大西)私自身、キャラクターで勝負している人間なので、個性が薄れてしまうのは非常に恐ろしいです。
「大西先生、最近言ってること普通ですね」なんて言われたら悲しいですからね。国がどのような方向に進もうとしているのかをいち早く察知し、独自の視点で発信していくことが、AI時代を生き抜く鍵になるでしょう。
AIの情報は鵜呑みにせず、自分の頭で考える
(高山)AIが出す答えを鵜呑みにしてはいけないということですね。
(大西)そうです。AIは神様ではありません。AIが出した答えを参考にしつつ、自分でもう一度検証してみるという姿勢が大切です。AIの進化は止まりませんが、人間の頭の退化も同様に止まりません。AIに頼りきりになってしまうと、思考力が低下する恐れがあります。AI便利だから使わない、という状況に陥らないように注意が必要です。
(高山)AIによって思考停止に陥らないためには、どのような点に注意すれば良いのでしょうか?
(大西)Wikipediaの例を挙げましょう。Wikipediaは誰でも情報を編集できるため、必ずしも正しい情報が掲載されているとは限りません。
しかし、世の中の人は手軽に情報を得られるWikipediaを便利だと感じています。
そして、その情報が正しいかどうかを検証せずに鵜呑みにしてしまう人が多いのが現状です。
このような状況は非常に危険です。
多数派の意見が正しいとは限らないということを常に意識し、自分の頭で考える習慣を身につけることが大切です。
AI時代の学習方法
(高山)AI時代には、従来とは異なる学習方法が必要になるということですね。
(大西)そうです。これまでのように情報を集めて分析するという勉強法では、AIに勝つことはできません。
AIは情報処理能力において人間をはるかに凌駕しています。AI時代には、新しい視点を発見するトレーニングが重要になります。
大前提を疑ってみたり、違和感を感じたことを掘り下げて考えてみたりする習慣を身につける必要があるでしょう。
「それって本当?」「それって違くない?」と常に疑問を持つことで、思考力を鍛えることができます。
AIが出した答えが本当に正しいのか、常に自分の頭で考えることが大切です。
AIとの付き合い方
(高山)AIとどのように付き合っていくべきか、改めて教えていただけますか?
(大西)AIはあくまでツールであり、AIに全てを丸投げしてしまうのは危険です。
AIを活用しつつも、最終的な判断は自分自身で行うという姿勢が重要です。
私は原稿を書く際に、AIに書かせた原稿と自分で書いた原稿の2種類を用意し、比較しながら推敲するという方法を取っています。
AIの視点を取り入れることもあれば、AIの書いた内容を全て削除することもあります。
AIに頼りながらも、自分の頭で考えることをやめないというバランス感覚が重要です。
AI時代に求められる鳥瞰的視野
(高山)AIに頼りすぎることで、医師の能力が低下する懸念もありますか?
(大西)楽をすればするほど、自分の能力は衰えていきます。AIに頼り切って楽をするのではなく、常に鳥瞰的な視野を持って全体像を把握できる力を養うことが大切です。
AIは局地戦で活用する分には非常に有効なツールですが、全てをAIに任せてしまうのは危険です。
AIを使うにしても使わないにしても、最終的な判断は自分自身で行うという意識を持つことが重要です。
囲碁や将棋の世界ではAIが人間に勝利していますが、AIにはひらめきがありません。
AIを活用しながらも、人間ならではのひらめきや発想力を鍛えることで、AI時代を生き抜くことができるでしょう。
AIに頼りきらない診察を
(高山)AIに頼りきらない診察を続けることが重要ということですね。
(大西)その通りです。先生方の脳は、患者さんにとって非常に重要なものです。
AIに頼りすぎて脳が退化してしまっては大変です。AIを活用しながらも、ご自身の経験や知識を活かした診察を続けてください。
そして診察以外の業務、例えば人事評価などはAIに任せてしまうのも良いかもしれません。
AIをうまく活用しながら、クリニックの進化につなげていくことが重要です。
(高山)院長が悩んだら聞くラジオ 今回もお聞きいただきましてありがとうございました。この番組への感想は「#院長が悩んだら聴くラジオ」でXなどに投稿いただけると嬉しいです。番組のフォローもぜひお願いします。この番組は毎週月曜日の朝5時に配信予定です。それではまたポッドキャストでお会いしましょう。さよなら。