医療の質をどう上げられるか セキュリティ対策も大切

厚生労働省 医政局医事課 課長補佐

2006 年 東京大学農学部 卒業後、ノバルティスファーマ株式会社 2009年 厚生労働省 雇用均等・児童家庭局 2011年 厚生労働省 労働基準局 労災補償部 2013 年 財務省 主計局 2015 年 厚生労働省 年金局 2017年 厚生労働省 医政局 医事課


本年度の診療報酬改定で「オンライン診察料」「オンライン医学管理料」が新設され、一定の要件のもとで「遠隔診療」改め「オンライン診療」が保険医療行為として認められた。厚生労働省では、診療報酬の前提にもなるオンライン診療に関する要件等を定めたガイドライン「オンライン診療の適切な実施に関する指針※」を策定し、保険診療以外の自由診療も含め、オンライン診療を行う際のあるべき姿を提示している。このガイドライン策定に、厚労省側の事務方として深く関わった医政局医事課の奥野課長補佐に、策定のねらいや現状認識、今後厚生労働省として考えていることを伺った。

※ http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000201789.pdf

厚生労働省が考えるオンライン診療に関するガイドライン策定のねらいとは

適切な取り組みも、そうでないものもあるPDCAサイクルを回していくことが目的

厚生労働省としては、これまで、オンライン診療について包括的なルールがない中で、現場先行型で進んできており、適切な取り組みもあるがそうでないものもあるという認識を持っています。そもそも、オンライン診療は患者さんの利便性向上や医師の働き方改善に資するものだと思っていますし、質の良い医療を提供するツールにもなり得ると考えています。一方で不適切なオンライン診療の存在が適切な普及の妨げになるもあります。、今回は、こうした観点から指針を出すこととしました。

指針の最初にも書いてありますが、まずは患者さんの利便性の向上、(医療の)質の向上につながる取り組みが増えればと考えています。今回の保険収載でもそのような取り組みに対し点数が設定されており、適切なオンライン診療の普及を期待しています。また、普及していく中でエビデンスを収集していき、その中でさらに良い取り組みについて分析ができていく。そういったPDCAサイクルを回していくことで、より質の高いオンライン診療を広げていくことができると考えています。

具体例を挙げます。適切な取り組みとしては、(医療の)質の向上につなげようとしているケースです。例えばオンライン診療を取り入れることにより、頻回に患者とコンタクトを取り、服薬コンプライアンスを高めようとしている事例です。不適切な事例としては、向精神薬の処方をオンライン診療だけでしてしまうような例が挙げられます。

また、医師側の意見として、診療行為には多様な情報が必要だが、オンライン診療では視覚と聴覚で得られる情報しかない。そういった不利な点があるなかで、物理的に来院できるのにオンライン診療で済ませてしまうようになると誤診等のリスクが高まる、という指摘もありました。その懸念にも対応する指針になっていると思います。

ガイドラインは技術進歩に合わせ適時変えていく

ガイドラインについてですが、改定は年1回もあり得ると考えています。現在のオンライン診療は対面診療の補完、という認識ですが、これは現在の技術水準で言えばそうなるということであって、ずっとその認識を維持するとは限りません。ガイドラインも技術水準を見ながら、適宜改定していきます。というのは、20年前はテキストと粗い画像しかやりとり出来なかったものが、いまはスマホの動画で見られ、だいぶ得られる情報が増えてきている。今後もそういった方向の技術進歩があるでしょう。それによって(オンライン診療が)認められる範囲も変わってくるのだと思います。

また、患者さんの情報を取り扱うので、セキュリティ要件も必要となりますが、これまではその要件が十分カバーできていなかったので今回明らかにしました。大原則は、患者さんご自身の情報のみをやりとりされるのであれば、患者さんと医師の同意に基づきその範囲の中で診療を行っていただければ良し、ということを書かせていただいています。

ただ、その同意のためには、セキュリティも含めた正しい知識が必要です。例えば、ふつう患者さんはSNSが自分の情報をどのように扱っているのかきちんと知っている人は少ない。その状態で医師がオンライン診療しますねと話をした場合、おそらく患者さんは同意するでしょうが、これは適切ではないと考えています。

なぜならそれでは、患者さんが情報の漏えいリスクを正しく認識できていないからです。まずは患者さんも医師もその点を正しく理解しましょう、というのが出発点です。今回望ましいセキュリティの水準を参考で示していますが、それを見ていただいて、きちんとセキュリティを担保するために(オンライン診療のシステム)どういった対応が必要かというのを知り、参考にしていただければと考えています。

こういった話は(ご自身が)実害が無い限りはなかなか自分のこととして捉えをにくいのですが、医療情報は一度でも漏れれば大きな影響があり得ます。そういった意味では患者さんももっと気にしていただきたい部分です。指針にセキュリティの話を盛り込んだのは、患者さんに対する投げかけと、具体的な対策の例示を提案したという意味合いも含んでいます。

医療の質をどのように上げるか医療側には探求していただきたい

私見も含めてお話すると、医師側のメリットとしては働き方改革という側面があります。高齢者が増える中で、在宅医療、訪問診療は移動時間など相当の負担になりますので、うまくオンライン診療を活用して効率化を図っていただければと思っています。それから、医療の質をどのように上げていくかも探求し、エビデンスの収集に貢献いただきたいと思います。

例えば、「白衣高血圧」の場合にオンライン診療と対面診療をどのように組み合わせるとうまく血圧がコントロールできるか。オンライン診療だと患者の自宅の様子が分かるので、生活状況も分かって診断材料にも活きる、という話もありました。いかに医療の質を上げるか、という観点で活用してもらいたいとも思います。

患者さん側のメリットで言えば、高齢になれば通院するのも厳しくなってくるので、そういった場合に活用してもらいたいですね。

セキュリティリスクの認識が大切研修の整備を検討中

これからオンライン診療をはじめたい、検討している方に考えてほしいのは、特にセキュリティ面ですね。医師ですから診療の内容については専門性を発揮していただけるのですが、セキュリティについてはシステム提供ベンダーともよく話し合って理解した上で導入していただければと思います。

セキュリティ面については、患者が学ぶにも限界があるので、医師が患者さんにきちんと伝える、という流れが大切だと考えていまして、そのために医師に対して何らかの研修が必要だと考えています。オンライン診療を始めるにあたり、患者さんへセキュリティ面のきちんとしたお伝えと同意を取れるよう知識を深めてもらう研修の受講を前提とするような体制を検討していきたいと考えています。

こうした研修では、情報機器の画像の特性、色味がどうとか、そういう内容、または好事例のご紹介なども盛り込むべきと考えています。指針で示した診療計画書の作成についても、項目は要件として示しましたがフォーマットは指定していません。それだけだと困るという方もいらっしゃると思うので、フォーマットを研修時にお示しするということも考えています。

長期的に、データ収集と分析に取り組む必要があると考えています。保険点数がついたことでレセプトからの分析も可能になるので、協働してやっていければと思います。慢性期疾患をはじめとして、オンライン診療の活用により治療成績があがったなどのデータは集めていきたいですね。医師の勤務時間への影響などのデータも取りたいところです。