クリニックの労務トラブルとスタッフ採用のポイント / 社会保険労務士法人アミック人事サポート 高橋 友恵


社会保険労務士法人アミック人事サポート 高橋 友恵 様に労務管理についてお話をお伺いしました。
高橋様には、現在公開中の診療所マネジメントEXPOでもご講演いただいています。

診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください

講演タイトル『クリニック特化の社労士が解説!しくじり事例から学ぶ労務管理セミナー』
様々な労務トラブルの中でも、「問題行動を起こす従業員さんのトラブル対処方法」についてお話しいたします。
解雇するべきかどうか、どのような行動がリスクになってしまうのか、ポイントを理解した上で従業員さんへの接し方の参考にしていただければと思います。
また、そういったトラブルが起きた際に、就業規則があるのかないのかは大きな違いとなります。
もし、既にお持ちの方は、自院の就業規則をご覧になりつつ視聴していただければ幸いです。


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医療分野に特化した社労士事務所としてどのようなビジョンをお持ちでしょうか

リスクを未然に予防する労務管理体制の整備が重要
コロナ禍以降、特に医療業界の労務問題が過激化している印象が強いです。

その要因としては、自分自身が労働基準法が正しく守られていない環境で働いてきた院長や先生が多く、労働環境の法知識を持っていないことで、トラブルが起きやすい環境になってしまっていることが考えられます。
加えて、報道やネット上の情報などにより、強く権利を主張してもよいと知った従業員さんたちも珍しくないので、ますますトラブルが発生しやすい状況になってきていると言えるでしょう。

私たちとしては、そういったリスクを未然に予防する労務管理体制を整え、
いかに先生に診療に専念していただくかという点と、人手不足の状況下で優秀な従業員さんをどのように定着させるかという二つのポイントを回すことで、労務環境整備のサポートをしていきたいと考えています。
環境作りを実現する上で、スピード感のあるレスポンスを大事にしており、先生がお困りの際にはチャットワークを通じて即座に根拠を持って回答しています。
また、正常な労務管理を維持するため、定期的な労務監査で問題点をピックアップして、それぞれのクリニックに応じた対処法を考えるといったサポートも行なっています。

クリニック特有のトラブルはどのようなものがありますか?

センシティブな業務であるため、クリニックはトラブルが発生しやすい環境
クリニックでの業務は人命や健康に関わるため、どうしても業務に関わる人が一般企業よりも色々な場面で過敏になってしまうことは否定できません。

患者さんの取り違えが起きた場合は個人情報漏洩問題になりますし、間違えた薬剤を投与したり、処方箋に誤った記載をしてしまったりした場合は医療ミスに繋がります。
そういった緊迫した状況が続くことで、先輩からの強いハラスメントが起きてしまい、辞めてしまうスタッフも多いです。

また、従業員は女性が多く、スタッフルームで2時間など決められた休憩時間を過ごさなければなりません。
そういった環境下ではグループや派閥のようなものができやすく、対立が起きやすい点も要因の一つとして考えられます。
最近では、コロナになったり濃厚接触者になったりといった理由で従業員が勤務できなくなり、一部の従業員が疲弊してしまって口論になるというお話を聞くことが多いです。

その他の原因の一つには、採用基準のブレにもあります。
従業員の多くが看護師、検査技師などの有資格者であるため、資格がないとできない業務も少なくなく、そういった従業員がいないことにはクリニックは経営できません。
そのため、有資格者の人材は取り合いのようになってしまい、人格・能力に少しの懸念があっても採用せざるを得ないというリスクを抱えています。
無事に採用した後も、辞められるリスクを考えて強く指導できないという状況にも繋がりやすいです。

さらに、クリニックが持つ最も特徴的な点としては、院長先生が患者さんと接する時間が長く、従業員が実際にどのような働き方をしているか見えにくいことではないでしょうか。
問題が大きくなるまで先生の耳に入らなかったり、知らないうちに従業員が兼業や副業などの不正な行為をしていたり、というトラブルが起きやすい側面があると思います。

労務トラブルを事前に防ぐための知っておくべき採用のポイントはありますか

先生一人で判断せず、専門家へ確認いただくことが最も安全な方法
従業員は一人でも採用すると労働基準法適用になるため、実際に採用する前が最も重要なフェーズとなります。

面接の際に、出勤がいつからになるか、土曜日も出勤できるか、ということだけを確認する先生も多くいるようですが、それでは人柄や能力などまでは判断できません。
なるべく面接時間を長く設定して、多くの質問を投げかけることが大切です。

また、印象がいいからといって、優秀かどうかはまた別の問題です。
採用を行う前に、しっかりとどういった人材が欲しいのかのビジョンを持って、何かあっても責任を持って指導できる人材を採用する、という考え方が重要になるでしょう。

最低限知っておいて欲しいポイントとしては、先生一人だけで判断しないことです。
労働基準法など働き方の制度について、明確に把握されている先生はほとんどいらっしゃらないと思います。
もし「明日から来なくていい」、「産休なんて取れるわけない」という発言をしてしまうと、従業員さんが強く「不当である」とか、「法違反だ」と主張できる材料となってしまいます。
我々のような社労士を身近に置いて、これは答えていいのか、どう対処するべきなのかを都度確認していただくことが、クリニックを安心・安全に運営する大きな要素の一つになると思います。

プロフィール


社会保険労務士法人アミック人事サポート
代表社会保険労務士
高橋 友恵 氏

代表社会保険労務士を務めております高橋です。
社労士以外にも、医療労務コンサルタントという資格も持っており、お客様のうち85%が医科・歯科・介護の事業所であり、専門職ならではの相談が多い点が特徴です。

栃木県宇都宮市に事務所がありますが、青森から大阪までのお客様をサポートさせていただいています。
2004年に社労士資格を取得したのち事務所を開設し、以来医療関係のお客様を専門に担当してきました。
医療関係のお客様が抱える悩みとしては、クリニックの本来の業務に関する内容よりも、従業員・スタッフさんとの問題やトラブルに関するご相談が非常に多いです。
クリニックの先生が診療に専念できるための労務管理に関するアドバイスや、就業規則作りのサポートに日々注力しています。