クリニックでも来院拒否できる。 医療機関ならではのクレーマー対策 / 島田法律事務所 島田直行氏

島田法律事務所の代表を務める島田様に、クリニック経営におけるクレーマー対応についてお話を伺いました。
島田様には、現在公開中の診療所マネジメントEXPOにご登壇いただきます。

診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください

講演タイトル『クリニックの対人トラブル対策-クレーマーで消耗しないために-』
講演では、医療機関ならではの特徴を踏まえながら、悪質なクレーマーに対するクリニックの対応のポイントについてお伝えします。
医療に限らず、どのサービス業も一定の割合でクレームを受けるものです。クレームに対してうまくリカバリーすれば、提供サービスの品質を上げるのに役立つので積極的に行っていくべきでしょう。

一方、近年ではカスハラ(カスタマーハラスメント)が社会問題となっているように、クリニックでも度を越した要求を受けることがあります。相手の要求が明らかに不当だと分かっていても、医師と患者という関係から毅然とした対応ができないことも多いです。
クレームの積み重ねでストレスがたまると、心が疲弊して診療にも集中できないでしょう。また、クリニックの方針は院長の采配にかかっているので、クレーマー対応について明確な指示がなければ、スタッフもうまく対応できません。

講演では、具体的な事例を紹介いたします。内容をご覧いただきクレーマー対策を見直していただければと思います。また、これから開業を考えている先生にも、クレーマー予防策を考えるきっかけになればと思います。


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クリニックの院長から相談されるクレーマーの具体例を教えてください

多いのは接遇に関する事例
クレームの具体例としては、「自分の診療の順番を早くしろ」といった無理な要望から、保険証の提示を求めると「毎回見せているんだから、いいじゃないか」と声を荒げたり、患者さんのご家族が「診断内容がおかしい」と昼夜問わずに電話をしてきたり、面会を求めたり等の例があります。

患者さんによるクレームではありませんが、女性看護師さんの体を触るセクハラも接遇面の問題として挙げられます。

病院勤務だと気づきにくいクレーム処理の大変さ
病院のように大きい組織だと、医師と患者さんの間に事務局が入るので、先生ご自身がクレーマーに対応することはほとんどありません。反対に、クリニックを開業した場合、院長先生に直接クレームが入ることが多くあります。
開業したばかりの先生だと戸惑うことも多くあるでしょう。

クリニックが診療拒否した場合、法的問題はあるのでしょうか

応召義務があっても、ケースによっては診療拒否できる
医師は、法律により正当な事由がない限り診察治療の求めを拒否することができません。いわゆる応召義務と呼ばれるものです。もっとも応召義務は、医師に無制限の責任を負担させるものではありません。患者が不当なクレームを述べる場合などは、患者との信頼関係が構築できないとして診察治療を拒否できます。

例えば、理由なく大きな声を出して、他の患者さんにも迷惑が掛かっている場合はお引き取りをお願いしたり、警察を呼んだりできます。

先生方のなかには、応召義務という言葉に引っ張られてしまい「とにかく耐えて診察治療をしなければ」と誤解される方もいらっしゃいます。これでは先生方も疲弊するばかりです。悪質なクレーマーに対しては、やはり毅然とした対応こそ求められます。

今からできるクレーマー対策にはどんなものがありますか

マニュアル化してクレーマー対応を統一する
クレーマー対応で基本となるのが、いつも同じ対応をすることです。
例えば、看護師Aと看護師Bで対応が違うと、それ自体が苦情につながることもあります。

また、相手によって対応を変えないことも重要です。クレーマーにはへりくだった姿勢で対応しがちですが、他の患者さんが「あの患者さんだけ優遇されている」と不満を抱きかねません。
院内でのクレーマー対応を一律化するために、簡単なマニュアルや基準を作りましょう。

クレームは組織全体の問題として捉える
難しい患者さんの対応が上手いスタッフもいますが、特定の人だけにクレーマー対応を任せるのは避けるべきです。1人に頼りっぱなしだと、その人が疲弊してしまいます。

クレーマー対応は特定の人の対応に任せるのではなく、組織で対応することが重要です。

あとは、院内で問題を起こしたら、警察への通報や弁護士に相談することを示すことです。院内にお知らせの張り紙をするのもよいでしょう。クレーマー気質の方は、「自分は患者だから、当然保護されるべき」と考えている方も多いです。

医業はサービス業でもあるので、患者さん全員が過剰な要求をすれば、医療制度自体が破綻しかねません。“患者“という隠れ蓑を悪用して過剰な要求をしてきたら、しっかり線引きすることも大切です。

プロフィール


島田法律事務所
代表
島田 直行氏 山口県弁護士会所属

山口県下関市で法律事務所を経営しています。
主に扱っているのは、会社や医療法人などの経営者側から見た・クレーマー対策・労働問題・相続などの事業承継の3つです。

仕事で先生方と接していると、皆さん「ひとの問題」で悩まれていると実感しています。具体的には、クレーマー対応がありますが、世間体もありなかなか相談しにくいのが現状です。法律の知識を駆使して、先生方が診療に集中できるようお手伝いしています。
また、啓蒙のための著作活動もしております。クリニックの院長先生向けの書籍もあり、専門知識の列挙ではなく、最悪の一手を取らないためのポイントを記載しています。

経営では、数多くの決定をしなければなりませんが、試験のように正解があるわけではありません。知識を増やすよりも、「間違った決定をしない」ことに重点を置くべきです。現場の仕事が忙しくて、法律の細部までご存知でない先生がほとんどだと思います。講演や本で紹介している内容を参考に、いざという時に立ち止まって考えたり、専門家に相談したりできるようになれればと思います。