応召義務とは?
応召義務とは、医師法第19条に基づき、医師が診療の求めに応じる義務を負うことである。
この義務は、患者との私法上の契約ではなく、国に対して負う公法上の義務とされる。そのため、違反した場合に刑事罰は課されないが、悪質なケースでは行政処分を受ける可能性がある。
応召義務は医師の職業倫理および社会的責務として、国民の期待に応えるものとされてきた。
しかし、近年の「医師の働き方改革」を背景に、その運用の見直しが進められている。
2019年の通達では「応急的に必要な処置をとることが望ましいが、診療を断っても、原則として、公法上・私法上の責任に問われることはない」と明確化された。。
応召義務を負う必要のない「正当な事由」具体例
- 医師の不在や健康上の問題
医師自身が不在、または健康上の理由で診療が不可能な場合。 - 専門外の病状
患者の病状が医師の専門分野外であり、対応が困難な場合。ただし、応急処置が必要な場合には対応が求められる。 - 代替医療機関の存在
他に適切な医療機関があり、患者が速やかに診療を受けられる場合。 - 診療時間外の対応
診療時間外や勤務時間外の場合、医師は緊急性の有無にかかわらず診療義務を負わない。ただし、緊急時や患者が直接来院した場合は、必要な処置を行った上で、救急対応が可能な病院などの医療機関に対応を依頼することが望ましい。 - 医療提供の限界
医師や医療機関の設備・能力を超えた診療が求められる場合、または事実上対応が不可能と判断される場合。 - 迷惑行為を繰り返す患者
診療内容に直接関係のないクレームや妨害行為を繰り返し、信頼関係が著しく損なわれている患者の場合。
クリニックでの困り事と応召義務発生の具体例
- 診療報酬の未払い
過去に患者が医療費を支払っていない場合でも、それだけを理由に診療を拒否することは正当化されない。ただし、悪意のある未払いが繰り返される場合には例外となる。 - 差別的な理由
年齢、性別、国籍、宗教などを理由に診療を拒否することは認められない。言語や文化で診療に困難がある場合はその限りではないが、適切な医療機関と連携する必要がある。 - 保険証や書類の未提出
保険証を忘れたことや書類の不備だけを理由に診療を拒否することはできない。ただし、繰り返される場合や悪意のある不払いは拒否できる場合がある。
開業医としての応召義務の範囲
- 診療契約の成立
応召義務は診療契約の有無にかかわらず適用されるため、初診の患者であっても診療を拒否することは困難である。 - 地域医療体制との連携
地域の医療供給体制が整備されている場合、患者を他の医療機関に紹介することは正当な対応とされる。ただし、症状が重篤な場合は応急処置を施す義務がある。 - 急患対応
夜間や休日においても、急患が発生した場合には地域医療の一環として対応が求められる場合がある。医療機関同士の連携が重要となる。
開業医が注意すべきポイント
- 診療記録の適切な管理
応召義務違反が疑われるケースでは、診療記録が重要な証拠となるため、診療の経緯や判断理由を明確に記録しておくことが大切。 - 対応の限界を明確にする
診療科の専門外のケースや診療能力を超える場合には、患者に十分な説明を行い、適切な医療機関への紹介を行うことが求められる。
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参考:
厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(令和元年12月25日)
厚生労働省 「医師の応召義務について」(平成30年9月19日)