
はじめに
クリニック開業を目前に控えたとき、診療のことは同僚や学会仲間に相談できても、経営の悩みとなると口を開きづらい。
実際、株式会社ギミックが2024年に行った調査によると「経営相談できる相手はいない」と答えた開業医は過半数の53%にのぼります。さらに「相談できる相手がいる」と答えた医師の7割近くは「家族」と回答しており、専門的な相談先を持つ医師は少数派にとどまっていました。
従来は「院長の妻」が事務長がわりを担い、経営の裏側を支えるケースも多くありました。しかし、経営環境が複雑化する今、家族のサポートだけに依存するのは限界があります。
孤独を抱え込みがちな開業医にとって、今は外部の仕組みを取り入れることで、重圧を和らげる選択肢が広がっています。
開業医が抱える「孤独」という現実
開業医の多くは「患者から感謝されたとき」にやりがいを感じています。しかし、収支やスタッフ管理の悩みは診療科を問わず院長に集中しがちです。特に一人医師のクリニックでは、採用・人材育成・労務対応・経営数字の管理まですべてを院長一人が背負う状況が少なくありません。
背景には「家族(特に妻)が事務長がわりに担う」伝統的な構図があります。ただ、夫婦の協力体制は心強いものの、専門的なマネジメント知識を要する場面が増えており、「相談できる体制づくり」が開業準備の重要課題となっています。
院長が一人で抱えるリスク
- 採用や人材トラブル対応が後手に回る
- 経営判断が感覚頼みになりやすい
- スタッフの不満や不安が院長に集中する
- 孤独感から意思決定が萎縮し、機会を逃す
院長を支える選択肢①:事務長代行で運営基盤を強化
開業したばかりのクリニックで最も負担が大きいのは、診療と並行して日常の運営を回さなければならないことです。スタッフの採用や教育、シフト調整、院内ルールの整備など、どれも経営の安定に欠かせませんが、院長一人で抱えるには限界があります。
そこで注目されているのが「事務長代行」という仕組みです。これは、クリニックに専任の事務長を雇う代わりに、必要な業務だけを外部の専門家に任せられる形態です。常勤の人件費を抱えずに済むため、初期フェーズのコストコントロールに優れています。
特に効果を発揮するのは以下の場面です。
- スタッフ採用・教育の負担軽減
オープニングスタッフを一から採用・教育するのは、診療準備と重なる大きな負担です。事務長代行なら、面接や教育計画を一手に担い、立ち上げ時点での人材定着率を高められます。 - 人材トラブルの即応
開業直後は急な退職やシフト調整の混乱がつきものです。代行サービスは第三者の立場で公平に対応し、院長が診療に専念できる環境を守ります。 - 経営相談の窓口機能
院長が日常の悩みを気軽に相談できる「経営の伴走者」として機能します。家族にすべてを任せていた時代と比べ、より専門的な視点から課題を整理し、実務に落とし込むことが可能です。
結果として、院長は診療に集中しながらも、クリニックとしての運営基盤を早期に安定させることができます。
従来の「院長+妻」体制に比べても、外部の専門性を取り入れることでリスク分散が図れる点が大きな利点です。

院長を支える選択肢②:外部コンサルタントで仕組みを整える
経営者向きというよりは、「職人気質」の院長も少なくありません。医療技術に強みを持ち、患者への診療には揺るぎない自信があっても、経営判断や組織マネジメントに苦手意識を持つケースです。
このようなタイプの院長にとって、経営の方向性を一緒に考える「外部コンサルタント」の存在は有効です。
外部コンサルタントは現場常駐ではなく、ビジョン策定や業務のPDCA設計など、仕組み作りの伴走役を担います。依存を前提とせず、将来的には自走できる体制を築くことをゴールとするのが特徴です。
事務長代行と外部コンサルの比較
項目 | 事務長代行 | 外部コンサル |
---|---|---|
主な役割 | 日常業務・現場支援 | 戦略設計・仕組み構築 |
関与度 | 常駐型 | 定期訪問(月数回など) |
強み | スタッフ管理・日常対応 | ビジョン策定・改善指導 |
ゴール | 院長の負担軽減 | 自立した組織体制 |
院長を支える選択肢③:チームビルディングで院内を強くする
クリニック開業初期に集まったオープニングスタッフは、まだ理念や方針を十分に理解していません。そのまま日々の業務に流されてしまうと「与えられた仕事をこなすだけ」という雰囲気になりやすく、組織としての力が伸びません。だからこそ、開業直後の段階でチームを「育てる」仕組みを意識的に導入することが重要です。
チームが効果的に機能することで、院長の負担を和らげることができます。
1. なぜチームビルディングが必要か
- 院長の負担を分散できる
院長一人が全てを判断し続けると、意思決定が遅れたり、スタッフの不満が院長に集中します。信頼できるチームを育てることで、判断を共有し合える体制になります。 - スタッフの定着率が高まる
ただ「働く場所」ではなく「一緒に作り上げる場」と感じてもらうことで、早期離職を防げます。 - 患者対応の質が安定する
院長不在時にも理念に基づいた対応が可能になり、患者に一貫した安心感を提供できます。
2. 実践できるチームビルディング手法
- オリエンテーション+理念共有
開業前に必ず「なぜこのクリニックを開いたのか」「どんな患者にどう貢献したいのか」を院長自らが話す時間を設けることが大切です。理念を言語化して冊子や資料にしておくのも有効です。 - チームビルディング研修の活用
短時間でできるワークを取り入れると、スタッフの特性や協働のスタイルが見えてきます。
マシュマロチャレンジ(スパゲッティとマシュマロで塔を作る)やペーパータワー(紙だけで塔を作る)などが活用されることがあります。
これらは単なるゲームではなく、計画性・リーダーシップ・協働の姿勢を自然に浮き彫りにします。チーム全体の足並みをそろえたり、見つめるビジョンを調整したりといった役割を担ってくれそうなマネジメント向きの人材を見つけ出すことができます。
→スタッフを巻き込んだチーム医療で持続するクリニックをつくる方法_Podcast『院長が悩んだら聴くラジオ』シーズン1_エピソード49全文書き起こし - ロールプレイ
受付・診察・会計といった一連の流れをスタッフが入れ替わりで体験することで、他の役割への理解が深まります。これにより、業務の境界を越えて助け合える文化が育ちます。 - 定期的な振り返り会
「今週うまくいったこと/改善したいこと」を共有するだけでも、学び合いの土壌ができます。短時間でも継続することが効果的です。
3. チームビルディングの効果
- リーダー候補の発見
誰が自然に人をまとめ、誰が冷静に状況を分析できるのかが見えてきます。 - ビジョンの浸透
「院長の思い」がスタッフ間で共有され、方向性が揃います。 - 一体感の醸成
新しい職場でも「自分たちのチームだ」という感覚を持てるようになります。 - 長期的な安定
単なる人の集まりから、理念と目的を共有する「チーム」へと変わることで、院長の経営判断を下支えする存在になります。
チームビルディングは「院長の負担を減らすための仕組み」であると同時に、「スタッフがやりがいを持ち、定着しやすくなる基盤」でもあります。開業初期の段階から意識的に取り入れることで、数年後の経営の安定度が大きく変わります。
開業準備の中で「誰にも相談できない」と感じる場面は珍しくありません。ただ、それを一人で抱え続ける必要もありません。
運営の一部を任せられる方法もあれば、院内のチームを強くする工夫もあります。
- 事務長代行を活用すれば、採用や教育といった立ち上げ期の負担を減らせます。
- 外部コンサルタントを頼れば、経営の方向性や仕組みを客観的に整理できます。
- チームビルディングに取り組めば、日常的に相談し合えるスタッフが育ちます。
どれを選ぶかは院長のスタイルや考え方次第です。診療に集中したい方もいれば、組織づくりに力を入れたい方もいます。それぞれに合う方法があり、実際に形にできる手段は用意されています。
大切なのは、「不安があっても立ち止まらなくていい」ということです。選択肢を知り、自分に合うやり方を取り入れることで、不安は具体的に動かせる課題に変わります。
- 事務長業務サービスを展開し院長の業務負担を軽減
- クリニック・歯科医院専門の人材紹介サービス
- できるだけ長く定着することを意識した人材をご紹介
- 診療所コンサルティングによる経営ノウハウを持つクレドメディカル社の教育研修動画サービス
- 安心の定額制で動画は好きな場所から見放題・繰り返し視聴可能
- クリニック特化型コンテンツ、新人から中堅、リーダーまで幅広い層へ向けての各種コンテンツあり
よくある質問(FAQ)
診療に集中したいが経営負担が大きいと感じており相談先を知りたいです
事務長代行を導入するメリットは?
外部コンサルタントは何をしてくれるのですか?
チームビルディングはどのように行いますか?
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DOCWEB編集部(一般社団法人 DOC TOKYO)
DOCWEB編集部は、2016年の設立以来、一貫してクリニック経営者の皆さまに向けて、診療業務の合理化・効率化に役立つ情報を発信しています。
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