AI自動分析システムにより血液がんの高精度鑑別に成功

順天堂大学大学院医学研究科次世代血液検査医学講座の木村考伸 大学院生、田部陽子 教授らとシスメックス株式会社の共同研究グループは、人工知能(AI)における深層学習技術(*1)を用い、複数の血液検査結果を総合的に判断することで、血液疾患鑑別が可能な「統合型AI分析システム」を構築した。本研究ではこのAIシステムを用いて血液がんであるフィラデルフィア染色体陰性(Ph-)骨髄増殖性腫瘍(*2)患者の病型分類に対する網羅的解析を行い、高精度な自動鑑別が可能であることを実証した。今回の成果は今後、骨髄増殖性腫瘍の鑑別にあたりAI自動分析技術による末梢血を用いた迅速で簡便なスクリーニング検査・診断支援への応用につながると期待される。
本研究結果は、英国科学雑誌「Scientific Reports」のオンライン版(2021年2月9日付)で公開された。

本研究成果のポイント

・血液疾患鑑別が可能な「統合型AI分析システム」を構築
・血液がんであるフィラデルフィア染色体陰性骨髄増殖性腫瘍の高精度な自動鑑別が可能
・AI自動分析による末梢血を用いた簡便で迅速なスクリーニング検査・診断支援の実用化に前進

背景

近年、CTやMRI等を用いた医療画像領域を中心にAI深層学習技術を用いた画像診断支援が活発に議論され、一部は既に臨床応用が検討されている。血液疾患の診断においては、血球数算定検査や顕微鏡による血液細胞形態検査、細胞表面抗原検査、さらに遺伝子検査など、複数の検査情報に基づいた総合的な判断が必要だが、これらの検査に携わる熟練した検査技師や医師が不足していることから、AI深層学習技術を用いた血液疾患の診断支援のニーズが高まってきた。特に、血液がんのフィラデルフィア染色体陰性骨髄増殖性腫瘍は血液細胞形態での判別が難しく病型分類が困難であった。そこで本研究では、血液細胞形態のAI自動分析と血液基本検査である血球数算定の測定結果を組合せた「統合型AI分析システム」による早期スクリーニング検査・診断支援システムの構築を目指した。

内容

本研究では、血液疾患、感染症や健常人を含む3,261症例の末梢血液標本から収集した計695,030個の大規模な血液細胞のデジタル画像データベースを用いて、まず、深層学習技術によるAI画像解析システムの構築を行った。さらに基本的検査である血球数算定情報(150項目)を組み込むことで「統合型AI分析システム」の構築を行った。
次に、本システムを用いて骨髄増殖性腫瘍の病型である真性多血症(*3)、本態性血小板血症(*4)、骨髄線維症(*5)に対する血液検査情報の網羅的な分析を行った。まず、AI深層学習を用いて血液細胞の形態異常などの画像特徴量(17種類の細胞分類、97種類の形態異常)を抽出した。抽出された特徴量に血球数算定の値を統合し、統計的計算により病型鑑別に最も効果的と判定された174の特徴量を選び出した。その後、これらの特徴量を用いてAI技術の1つである勾配ブースティング法(*6)による解析を実施した。
そして、骨髄増殖性腫瘍の病型鑑別に対して本システムによる鑑別診断能を検証した結果(真性多血症:34症例学習/9症例検証、本態性血小板血症:167症例学習/53症例検証、骨髄線維症69症例学習/12症例検証)、極めて高精度な診断能力(真性多血症:感度100.0%・特異度95.4%、本態性血小板血症:感度90.6%・特異度95.2%、骨髄線維症:感度100.0%・特異度90.3%)を有することを実証した。
以上の結果から、本研究で構築した「統合型AI分析システム」(図)が血液がんである骨髄増殖性腫瘍の早期スクリーニング検査・診断支援に有用であることを示した。

今後の展開

今後、本研究成果の臨床実用化を進めると共に、さらに多種類の検査データを組み入れることによって汎用性のあるAI自動分析システムの構築を進める方針。さらに、白血病などの血液疾患の確定診断に不可欠である骨髄検査の自動化を次のターゲットとして、骨髄中の細胞の自動識別に挑戦し、確定診断に踏み込んだAIシステムの構築を目指す。
研究グループは、世界の臨床検査・診断支援技術をさらにリードする研究に取り組んでいく。

本件に関するお問い合わせ先

学校法人順天堂
所在地: 東京都文京区本郷2-1-1
電話番号:03-3813-3111
URL: http://www.juntendo.ac.jp/