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DOCWEB『院長が悩んだら聴くラジオ』この番組は開業医の皆さんが毎日機嫌よく過ごすための秘訣を語っていく番組です。 通勤時間や昼休みにゆるっとお聞きいただけると嬉しいです。
オープニングトーク
(高山)おはようございます。パーソナリティのDOC WEB編集長、高山豊明です。
(大西)おはようございます。パーソナリティのMICTコンサルティング、大西大輔です。
(高山) 院長が悩んだら聞くラジオ第21回始まりました。大西さん今回もよろしくお願いします。
(大西)はい、よろしくお願いします。 今日のテーマは何ですか?
今日のテーマ:「クリニックの災害対策、実は色々ある」前編
(高山)今日のテーマは「クリニックの災害対策、実は色々ある」前編です。
(大西)現在、収録中に台風が接近しており、朝から携帯のアラートが鳴り響いています。状況を鑑みながらお話したいと思います。
(高山)今回のテーマは災害対策です。
(大西)よろしくお願いいたします。
クリニックが想定すべき災害とは?
(高山)クリニックが想定すべき災害には、どのようなものがあるでしょうか?
(大西)まず考えられるのは大地震です。南海トラフ地震や首都直下型地震は、いつ起きてもおかしくないとされています。
今回の台風のような大雨や集中豪雨、そして忘れがちなのが大雪です。特に関東地方は雪に慣れていないため、大雪が降ると大きな混乱に繋がります。東北や北海道は雪への備えが万全で、日常的な風景と言えるでしょう。
南海トラフ地震発生時には、火山噴火の可能性も懸念されます。先日鹿児島へ行き、桜島を見てきましたが、日常的に噴火している様子に驚きました。
また、神奈川県在住の私としては、箱根山の噴火活動や富士山噴火の可能性も心配です。
迫りくる災害への備え
(高山)近頃、災害発生の危険性が叫ばれていますが、現実味を帯びてきました。先日も鹿児島で地震がありましたし、神奈川でも震度4を観測しました。8月上旬にも地震がありました。
(大西)宮崎、鹿児島、神奈川など、いつどこで災害が起きてもおかしくありません。対策が必要です。
(高山)災害発生時、クリニックはどのような対応が必要でしょうか?
クリニックにおけるBCPの重要性
(大西)最も重要なのは、優先順位を決めておくことです。災害発生時に何をするべきか、あらかじめ決めておく必要があります。これは一般的にBCP(事業継続計画)と呼ばれ、復旧計画にあたります。
(高山)企業ではBCPの策定が義務化されています。
(大西)クリニックではまだ義務化されていませんが、病院ではほぼ義務化されています。おそらく次の法改正で、クリニックも義務化されるでしょう。
診療報酬にも記載されていますが、令和6年にはBCP策定の義務化の方針が示されており、「災害セキュリティチェックリスト」にも掲載されているので、検討すべき内容です。
ハード面の災害対策
(高山)災害時にクリニックが取るべき対応について、ハード面から伺いたいと思います。建物に加えて、ネット回線や水道、電気、ガスといったインフラ設備、電子カルテシステムや院内サーバーなどのシステム系、医療機器など、守るべきものがたくさんあります。どのような対策が必要でしょうか?
(大西)今回の台風を例に挙げると、台風通過後は洪水が発生する可能性もあるため、水道、電気、ガス、ネット回線がすべてストップするという想定で対策を立てています。
多くのシステムには停電電源装置が備わっていますが、これはあくまでシステムを安全にシャットダウンするための装置で、長時間電力を供給できるわけではありません。そのため、台風接近が予想される場合は、あらかじめ電源を落として帰宅するなどの対策が必要です。
電源を落として再起動する際に、設定がリセットされてトラブルが発生するケースも少なくありません。例えば、サーバーが突然停止し、復旧させた際に設定が初期化されてしまうと、再度設定し直す手間が発生します。
(高山)停電でシステムが強制終了すると、データが破損する恐れもあるため、手動で電源をオフにすることが重要ですね。
(大西)冷蔵庫や冷凍庫は災害時に完全に停止してしまうため、事前に電源を抜き、中身をクーラーボックスに移し替えるなどの対策が必要です。ワクチンなどは温度管理が重要なので、特に注意が必要です。
常備薬の備蓄も重要です。
院内で処方できる薬を備蓄しておけば、災害時にもある程度の対応が可能です。院外処方や処方箋に頼り切らず、非常時に備えた薬の備蓄は検討すべきです。
災害時の情報伝達とインフラ停止への備え
(高山)今回の台風のような災害に限らず、医療用物資の供給がストップする可能性もあります。
(大西)災害発生時の対応だけでなく、事前にどのような準備をしておくかが重要です。
システムを停止させ、その後復旧できるような準備が必要です。また、どれくらいの期間システムが停止するか想定しておく必要もあります。
目安としては3日間程度を想定しておくと良いでしょう。その間の備蓄品やヘルメットなども必要です。
台風と地震への備え:異なる対応
(高山)台風の場合は接近が予想されるため事前の準備ができますが、地震はいつ起こるか予測できません。そのため、常に備えを万全にしておく必要があります。
(大西)先日、災害対策として、院内の設備や備蓄品の置き場所、消化器やヘルメットの設置場所、水の確保などをスタッフ全員で確認しました。備蓄品の使用期限もチェックし、期限切れのものは交換しました。
(高山)水害対策として、土嚢の準備も重要です。1階にあるクリニックでは、浸水対策が特に重要になります。
(大西)土嚢の積み方なども事前に確認しておき、ハザードマップで浸水リスクの高い場所を確認し、土嚢を準備しておきましょう。
土嚢は、ホームセンターなどで購入できます。積み方を間違えると効果が薄れるため、正しい積み方を調べておくことが大切です。コの字型に積むと効果的です。
ネットが使えない!その時どうする?
(高山)近年、電子カルテや予約システム、問診票などをクラウドサービスで運用するクリニックが増えていますが、災害時にネット回線が不通になると業務に大きな支障が生じます。
(大西)カルテの閲覧や入力、会計処理などが行えなくなり、特に患者さんのカルテが確認できないことは大きな問題です。
クラウドサービスと院内サーバーの両方で運用できるハイブリッド型のシステムを導入するという方法もあります。通常時はクラウドサービスを利用し、災害時は院内サーバーに切り替えることで、業務継続が可能になります。
ハイブリッド型システムを導入できない場合は、紙媒体に切り替えるしかありません。
その際に重要なのが、お薬手帳です。患者さんには普段からお薬手帳を携帯してもらい、薬の情報だけでなく、検診結果や採血結果なども貼っておいてもらうよう指導しています。
お薬手帳は災害時の簡易的なカルテの役割を果たします。患者さんにお薬手帳の持参を促すよう、日頃から指導することも重要です。
紙カルテとマイナンバーカード
(高山)電子カルテが使えない場合に備え、紙カルテの用紙を備蓄しておく必要もありますね。
(大西)患者さんの保険情報が記載された用紙を印刷して保管しておくと安心です。
(高山)マイナンバーカードが保険証として利用できるようになりましたが、ネット回線が不通になるとマイナンバーカードの情報を読み取ることができません。
(大西)以前の保険証であれば、カードがなくても窓口で対応できましたが、マイナンバーカードの場合はそうはいきません。ただし、災害時には保険証がなくても診察を受けられる措置が取られるため、過度に心配する必要はありません。災害で保険証を紛失してしまう可能性も考えられます。
避難所における医療提供体制
(高山)避難所では、派遣された医療チームが医療活動を行う場合がありますが、どのような体制で対応するのでしょうか?
(大西)被災地以外の医療機関から派遣された医師や看護師、その他の医療スタッフが臨時のクリニックを設置し、医療活動を行います。
国境なき医師団や日本赤十字社からの派遣要請に応じるケースや、自ら応募して参加するケースもあります。
(高山)コンテナを改造した簡易的なクリニックや検診車も活用されます。
(大西)検診車はレントゲン撮影や採血、簡易検査などを行うことができ、ベッドも備わっているため非常に便利です。
大規模災害時には、検診車を複数台派遣することもあります。医療機関が被災した場合、医療従事者自身も被災者となるため、被災していない地域からの支援が不可欠です。
災害時の医療従事者の負担
(高山)医療従事者は、自身の被災に加えて地域の患者さんのケアも行わなければならないため、非常に困難な立場に置かれます。
(大西)日本では、被災した地域の医療従事者がそのまま医療活動を行うケースが多い一方、欧米では、被災した医療従事者は医療活動から外れ、別の地域の医療従事者が派遣されるシステムになっています。
被災した医療従事者に更なる負担を強いるのは適切ではないという考え方です。
自分のことで精一杯の状況で、他人のケアまで行うのは非常に困難なことです。「自分の身を守る行動を最優先してください」と言われているにもかかわらず、日本の医療従事者は厳しい状況に置かれています。
クリニックにおける災害対応の実際
(高山)大雨など比較的小規模な災害の場合でも、患者さんへの連絡や診療時間の変更など、迅速な対応が必要です。
休診にするのか、午後から診療を開始するのか、状況に応じて判断しなければなりません。また、夜中に災害が発生した場合、朝一番で対応しなければならないケースもあるため、
早めにクリニックへ行く必要があります。クリニックでは、こうした事態に備え、どのような対策を取っているのでしょうか?
(大西)災害発生時の対応マニュアルを作成し、事前にシミュレーションを行うなどの準備が重要です。しかし、現実にはパニックになるケースも少なくありません。
災害発生時の対応を事前に決めておくことが重要です。
「明日台風が来る場合は休診にする」
「小規模な診療体制で対応する」など、2つのパターンを用意しておき、状況に応じて対応を決定します。
「休診」の場合は、患者さんやスタッフへの連絡方法を明確にしておく必要があります。
「小規模な診療体制」の場合は、予約患者のみを診察するなどの対応が考えられます。この場合、医師、看護師、事務スタッフなど、必要最低限のスタッフが出勤する必要があります。予約患者には、個別に連絡を取り、状況を説明する必要があります。台風などの場合は、予約をキャンセルする患者さんも多いでしょう。
(高山)災害発生時は、様々な対応が必要になります。今回はこの辺で終わりにして、続きは次回にしたいと思います。
(大西)ありがとうございました。
(高山)院長が悩んだら聞くラジオ 今回もお聞きいただきましてありがとうございました。この番組への感想は「#院長が悩んだら聴くラジオ」でXなどに投稿いただけると嬉しいです。番組のフォローもぜひお願いします。この番組は毎週月曜日の朝5時に配信予定です。それではまたポッドキャストでお会いしましょう。さよなら。