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DOCWEB『院長が悩んだら聴くラジオ』この番組は開業医の皆さんが毎日機嫌よく過ごすための秘訣を語っていく番組です。 通勤時間や昼休みにゆるっとお聞きいただけると嬉しいです。
オープニングトーク
(高山)おはようございます。パーソナリティのDOC WEB編集長、高山豊明です。
(大西)おはようございます。パーソナリティのMICTコンサルティング、大西大輔です。
(高山) 院長が悩んだら聞くラジオ第32回始まりました。大西さん今回もよろしくお願いします。
(大西)よろしくお願いします。
今日のテーマは何でしょう?前回続きで医療事務の採用についてですね。
今日のテーマ:医療事務の採用
(高山)そうですね。前回は医療事務の募集について話しましたが、実際に募集をかけてもマッチングが難しいという現状があります。医療事務を採用した後の育成が大事だという話の流れで、今回は採用後の具体的な教え方について深掘りしていきたいと思います。
一般的な医療事務研修の内容と課題
(高山)医療事務の採用後の教え方についてですが、まずどこをどのように教えていけば良いでしょうか?
(大西)一般的な研修パターンと比較しながらお話します。採用後すぐに行われる研修は、接遇研修、システム研修、医療機器研修、シミュレーションで終わりというパターンが多いです。
これは結果だけを教えているようなもので、目的や使う理由、本質的な内容が不足しています。
初めてパソコンを渡されて、起動と終了の仕方だけを教えられて「さあ使ってください」と言われるようなものです。
例えば、Wordの使い方を覚えるためにWordの学校に行くとして、タイピング速度は速くなっても、肝心の文章の書き方は教えてもらえない、そんなイメージです。
電子カルテの操作方法を覚えても、診察の流れが分からなければ使いこなせません。開いて閉じることしかできないでしょう。
電子カルテメーカーのインストラクターや営業マンがデモをする際、「先生、ここに入力するんです」と言って、文字を連打して入力し「ほら簡単でしょ」と言うのと同じです。
「あ」と入力すること自体は簡単ですが、それではカルテ入力の本質は理解できません。
患者さんがどのような症状で来院し、どんな話をしたのか、それに対して医師がどのような診察や検査を行い、なぜその薬を処方するのか、というプロセス全体を理解していなければ、適切なカルテ入力はできません。
しかし、現実には「あ」と入力するような単純作業しか教えていないケースが多いのです。
医療事務に最初に教えるべきこと
(高山)つまり、医療事務に最初に教えるべきことは、診察のプロセス全体だということですね。
(大西)そうです。プロセスを教えることで、スタッフは「参加している」という実感を持つことができ、モチベーションも向上します。
例えば耳鼻科を例に挙げると、患者さんが来院した際に、まず鼻、耳、喉のどの部位の疾患かを判断します。
さらに、左右どちら側が痛いのか、どのように痛いのかを聞き取ることで、より正確な診断に繋がります。
鼻水の色も重要な判断材料です。透明でサラサラしていれば花粉症、黄色くてドロッとしていれば副鼻腔炎、頬に痛みがあればさらに副鼻腔炎の可能性が高まります。
このように、患者さんの所作や問診内容から病気を類推し、必要な検査を行っていくプロセスを理解することが重要です。
なぜ医師はプロセスを教えようとしないのか?
(高山)医師は医療行為を行うのが仕事なので、そういった診断のプロセスを医療事務スタッフに教え込むという発想があまりないような気がします。
(大西)開業すると、「ああ、教えとけばよかった」と後悔する医師が多いです。開業前後のサポートや、開業後5年、10年経ってからのサポートを通して、最も後悔されているのが「カルテの入力方法を教えなかったこと」です。
カルテ入力のプロセスを理解していれば、スタッフは医師の意図を汲み取って先回りした対応ができます。
結果的に医師と同じ目線で仕事ができるようになるわけです。
カルテの構造と理解
(大西)カルテの構造自体も、この問題を象徴しています。カルテは左側に根拠、右側に結果を書くというルールになっています。
右側に書かれた情報を合算すればレセプトになりますが、左側の情報は費用にはなりません。
そのため、事務スタッフは右側の情報にしか興味を持たず、左側の情報は見向きもしないのです。
問診票入力の落とし穴
(高山)問診票の入力はどうでしょうか?
(大西)問診と主訴の関係性を理解していないスタッフに「とりあえずここに打っといて」と指示すると、適当に入力されてしまい、医師は後で「読みづらい」と文句を言うことになります。
主訴とは何かを理解することが重要です。「お腹が痛い」は所作ですが、「兄弟がいる」は所作ではありません。
「兄弟が風邪をひいている」は主訴になります。さらに、「高血圧の病気を持っている」も主訴です。
主訴には2種類あります。1つは今日の病気に関連する主訴、もう1つはプロフィールとして継続して記録する特記事項です。
年齢、体重、血圧などは日々変わる主訴ですが、「3人兄弟」といった情報は変わりません。
問診票ではこれら両方を聞きますが、カルテには今日の病気に繋がる主訴と特記事項を分けて書く必要があります。問診票をそのまま貼り付けてしまうと情報が混在して読みづらくなってしまいます。
カルテ入力の具体例
(高山)具体的にはどのように分けて書くのでしょうか?
(大西)主訴の欄を上下で分け、1行空けるなどして区別します。これが理解できているスタッフは、先生から「さすが」と言われるでしょう。
先生にとっては当たり前のことですが、事務スタッフにとっては教わらないと分からないことなのです。
医療事務の学校でも、カルテの書き方を習っていない人が半分、習っていても医療事務の講師から教わっている人が半分なので、正しい書き方が浸透していないのが現状です。
左右の情報の比重を理解していない人が教えると、どうしても教え方も適当になってしまいます。
医師事務作業補助者の現状
(高山)医師事務作業補助者でもカルテ入力は教えていないのでしょうか?
(大西)医師事務作業補助者は書類作成を代行する職種なので、紹介状や診断書の書き方などは教えていますが、カルテ入力のトレーニングはあまり行われていません。
カルテが何のために、どのような目的で作成され、情報が積み重ねられているのかは、医師しか理解していない可能性があります。
(高山)これは医療業界だけでなく、他の専門職にも共通する課題かもしれません。
(大西)コンサルタントも、事業計画の数字の作り方や立て方は教えますが、事業をどう成功させるかという本質は教えません。
(高山)言語化が難しいという面もあるでしょう。
(大西)研修を依頼された際によく説明するのは、主訴に基づいて検査を行い、例えば採血の結果を見て、白血球や赤血球の増加、CRPの上昇などを所見に書き込むというプロセスです。
しかし、多くの場合、白血球、赤血球、CRPまでしか理解されず、その検査結果の解釈や意味までは理解してもらえません。
CRPは炎症反応を確認するための検査であり、基準値を超えている場合は炎症が多いと判断されます。
こうした基準や意味を理解し、データ全体を読み解けるように育成する必要があります。初めて所見を書く際にも、基準値を理解していなければ適切な判断はできません。
鼻水の表現とカルテ入力
(大西)僕らはよく、「鼻水が汚い」という表現をしますが、医師は「黄色い」と言うはずです。つまり、色がついていることを「汚い」と表現する人が多いということです。
カルテには「黄色鼻汁」と書きます。英語では「Yellow nose」です。鼻水がネバネバしている場合は「粘性鼻汁」で、英語では「Matted nose」です。
このような細かいニュアンスを理解していれば、「鼻水がネバネバしている、頬が痛い」という情報から「先生はレントゲンを撮りそうだな」と予測できます。
レントゲン写真で白く写っていれば副鼻腔炎です。このプロセス全体を理解していれば、「ネバネバ」という表現だけで診断の予測がつくわけです。
実際の経験から
(大西)私がクラークを始めた2013年頃は、何も知りませんでした。
クリニックで研修を受け、クラーク業務をしながら言語化していく中で、最初のユーザーさんが耳鼻科だったこともあり、耳鼻科のカルテ入力に詳しくなりました。
今は婦人科や精神科のカルテ入力も行っていますが、科が変わるたびに勉強が必要です。
勉強の重要性
(高山)そこまで深く理解するには、やはり勉強が大切ですね。
(大西)そうですね。私の本棚には診療ガイドラインやカルテの書き方の本、ハンドブックなどが山ほどあります。これらを勉強しなければ、今の仕事はできなかったでしょう。
(高山)私も頑張って買ってみましたが、読み切れませんでした。読んでも解説がないと理解できない部分も多いです。
(大西)それはまるで、毎週テストを受けているようなものです。先生に事前に資料を送り、「この内容でトレーニングしますが、よろしいでしょうか?」と確認してもらいます。
OKが出なければ次のステップに進めないので、1週間前にチェックを受けています。インプットとアウトプットを繰り返すことが重要です。
医療事務に求めること
(大西)話を戻しますが、カルテの書き方、考え方、診察の流れを、採用後にしっかりと教えてほしいですね。
(高山)かなり時間をかけて教え込む必要がありそうですね。
(大西)そうですね。一応10個の病気を例に教えてくださいと言っています。
(高山)10個ですか?どのようなものでしょうか?
(大西)代表的な疾患を10個です。例えば内科であれば、風邪疾患から始めます。
風邪疾患には、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、溶連菌感染症、RSウイルス感染症、手足口病など、さまざまな感染症があります。
感染症だけで1つのカテゴリです。次に生活習慣病として糖尿病、高血圧、脂質異常症の3つがあります。これで合計4つです。
残りは専門ごとに、消化器疾患、循環器疾患などを5つ程度教えます。
(高山)なるほど。バリエーションを徐々に増やしていけば、理解も深まりますね。
(大西)問診票と組み合わせて、どこにチェックが入っていればどの病気を類推できるか、といった練習も効果的です。
「鼻水が出る、熱がある、咳が出る」という症状から、インフルエンザ、コロナ、ただの風邪の3つの可能性を考え、検査でインフルエンザ陽性となればタミフルを処方する、といったプロセスを理解させるわけです。
SOAPとカルテ入力
(大西)こうしたプロセスは、SOAPというフレームワークに集約できます。
患者が訴えるのがS(主観的情報)、医師が診察・検査して得た結果がO(客観的情報)、治療内容がA(アセスメント)、今後の計画がP(プラン)です。
このSOAPの流れに沿って、カルテは左、右、左、右と情報が書き込まれていきます。
このようにして初めて、スタッフはカルテの左側の情報に興味を持つようになります。
先生は当然のこととして行っていますが、事務スタッフには教わらないと分からないことなのです。
スクリーニング、つまり問診内容を確認する際も、内科であれば上から下に、頭痛、発熱、鼻水、喉の痛み、咳、肺、呼吸、心臓という順番で確認していきます。
この順番通りにカルテを書けば、読みやすくなります。先生も無意識に行っていることが多いので、改めて意識してみると良いでしょう。
心臓を見たくない先生は呼吸だけを確認します。
心雑音がある場合は、実際に音を聞かせてもらうことで、スタッフの理解も深まります。
喘息患者の呼吸音を聞かせたりするのも効果的です。
医療事務の本質
(高山)このように育成していくことで、スタッフは医療事務の本質を理解していきます。
(大西)医療事務の仕事は、医療行為をお金に変換することです。看護師が包帯を巻けば何点、薬を塗れば何点、といった具合です。そのため、カルテには薬を塗った範囲など、点数を算定するために必要な情報を細かく記載する必要があります。
(高山)カルテに書かれていなければ点数を算定できないという法則があり、この法則を理解することで診療フローが見えてきます。
(大西)カルテに記載漏れがあれば、先生に電話で確認します。先生は「実はやったでしょ?」と言うかもしれませんが、「書き忘れました」というケースも多いです。
「いつも忘れますね」と言われることもあるでしょう。慣れてくると、スタッフから「先に書いときましょうか?」と提案されるかもしれません。もちろん、本来は書いてはいけないのですが。
個別指導への対応
(高山)このような経験を積むことで、個別指導も怖くなくなります。
(大西)個別指導は結果のチェックです。プロセスが間違っていれば、結果は確実に間違います。前回話したレセプト点検も結果のチェックであり、個別指導のプロセスチェックに近いものです。
レセプトに不備があると、その患者のカルテを確認するために提出を求められます。
カルテを見て「これ書いてないですね」と指摘された場合、「先生、自動で取りましたか?」と確認します。
特定疾患療養管理料、がん加算、手術穿刺料、判断料など、自動で算定される項目はたくさんありますが、これらを算定するためのルールが細かく定められています。
自動で算定できないように、ルールを理解しておくことが重要です。
例えば、再診時は処置やリハビリがない場合に限り、外来管理加算を算定できます。
しかし、SOAPカルテの記載が必須というルールもあります。
外来管理加算を算定しているのに所作が記載されていない場合は、「先生、カルテを読んでいないのでは?」と疑われてしまいます。
診療報酬点数ルールに則って算定していない場合は、返還対象となります。こうしたルールを読み間違えたり、読み飛ばしたりすると、個別指導の対象になりかねません。
(高山)そこまで細かく読むのは難しいですね。
(大西)そうですね。
(高山)まるで電柱の陰から一次不定詞を監視している警察官のようです。
(大西)「ここの項目に書いてありました」と指摘する弁護士のような役割です。
僕らは弁護士でいう判例をたくさん集めて、先生と打ち合わせを行い、「ここが指摘されそう」といった点を共有しています。
診療報酬を計算するたびに、チェックを行い、「今回の請求は、ここで指摘されそうだ」とアドバイスしています。2年間勉強しても、全てを理解するのは難しいでしょう。
常に最新のルールや変更点を把握し、積み重ねていくことが重要です。
(高山)個別指導については、皆さん興味がある部分だと思いますので、次回に深掘りできればと思います。
(大西)はい。
(高山)今日はこの辺で終わりたいと思います。大西さん、ありがとうございました。
(大西)ありがとうございました。
(高山)院長が悩んだら聞くラジオ 今回もお聞きいただきましてありがとうございました。この番組への感想は「#院長が悩んだら聴くラジオ」でXなどに投稿いただけると嬉しいです。番組のフォローもぜひお願いします。この番組は毎週月曜日の朝5時に配信予定です。それではまたポッドキャストでお会いしましょう。さよなら。