本コラムではクリニック経営において直面する課題や問題を専門家の立場から解説していきます。第一回は開業後軌道に乗り始めた際に直面する医療法人化について取り上げます。
医療法人化については、考えれば考えるほどよくわからなくなるのが実情といえます。そこで、簡単なシミュレーションができるフローチャートで検証してみたいと思います。
結果は、いかがでしたでしょうか?
このフローチャートはあくまで簡便的なものですので、実際に検討する際には専門家ともご相談ください。
前述のフローチャートの結果も踏まえ、あらためて、医療法人化のメリット、デメリットについての基本的なポイントについて確認したいと思います。
なお、平成19年4月1日以降は、出資持分のない「基金拠出型医療法人」しか設立ができなくなりました。
メリット
(1)分院展開
法人化することで分院の開設が可能となります。また、介護老人保健施設の設置や附帯業務として訪問看護ステーション、有料老人ホーム等の開設もできます。
(2) 所得税率と法人税率との格差
個人の最高税率は約55%、法人の実効税率は約30%といわれ、高所得のドクターにとっては、個人より法人の実効税率が低いことが想定されます。
(3)所得分散
医療法人化することで、結果として理事長報酬と医療法人利益とに分散することなります。
(4)給与所得控除
医療法人の理事長報酬は給与所得となるため、給与所得控除ができます。但し、昨今の税制改正により給与所得控除の金額は年々縮小しています。
(5)生命保険を損金にできる
個人では、生命保険料控除として最高12万円の所得控除が認められております。
一方、医療法人であれば、支払保険料の「2分の1損金算入」や「全額損金算入」といった商品もあります。保障と課税の繰り延べ効果が期待できます。
(6)退職金
医療法人であれば役員退職金として支給可能です。また、退職金は税法上も有利な取り扱となっております。
(7)赤字は10年間繰り越しが可能
青色申告の個人では赤字は3年間の繰り越しですが、青色申告の医療法人であれば10年間の繰り越しができます。
(8)損金にできる幅が広がる可能性
個人開業医であれば事業の主体と生活の主体が混同するため経費性の問題がより強く問われる結果となります。一方で、医療法人であれば、そうした発想がないため損金の幅を広く解釈できる可能性があります。
(9)親族役員に理事報酬を支払える
医療法人は理事3名以上の構成となります。よって、親族の理事に適正な報酬を支給することで、結果、所得分散が可能となります。
(10)消費税
医療法人設立後の2事業年度は原則として消費税の免税事業者として納税義務が免除されます。
(11)決算
個人の決算は、12月となりますが、医療法人では自由に決めることができます。
(12)後継者が相続する場合は相続税が円滑
出資持分がないため、拠出者に返還すべき基金相当額以外の部分は相続税の課税対象外となるため、出資持分のある医療法人より円滑に承継できる。
税務上のメリットについては、将来の税制改正等で変わる可能性も有ります。よって、税務以外の経営戦略上のメリット等を踏まえて医療法人化の検討をすべきと考えられます。
今回は医療法人化のメリットをお伝えしました。次回はデメリットについてお伝え致します。次回は11月9日(金)に更新予定となります。
丹羽 正裕 (にわ まさひろ)
丹羽会計事務所 税理士
「顧客本位」をポリシーとして、診療所を中心とした顧問に携わるかたわら、講演・執筆活動を精力的に行っている。また、MMPG(メディカル・マネージメント・プランニング・グループ)に所属しており、医業界を中心として活躍中。 http://www.niwa.biz/