行政が目指すデジタルシフトによる医療の姿 / 経済産業省 室長補佐 藤原崇志

経済産業省 商務サービスグループ ヘルスケア産業課 医療・福祉機器産業室 室長補佐、藤原 崇志 様に行政が目指すデジタルシフトによる医療の姿についてお話をお伺いしました。
藤原様には、現在公開中の診療所マネジメントEXPOでもご講演いただいています。
※2022年11月1日にCPA EXPOは診療所マネジメントEXPOに名称を変更しました。

診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください

講演タイトル『行政が目指すデジタルシフトによる患者の価値を中心にした医療の姿』
従来は患者が病院に行って医療サービスを受けるという、昔ながらのスタイルしかありませんでした。

ですが、コロナ禍で遠隔診療がスタートしたり、治療をアシストするようなアプリが出てきたり、これまで医療現場でしかできなかったものがどんどん拡大してきています。
このような近年の医療のIOT、デジタル化、プログラム医療機器の変化やそれらに関連する経済産業省の取り組みを紹介させていただければと考えています。


CPA EXPOログインページへ

医療領域におけるIOTやデータ活用はどのように進んでいくとお考えですか

まずは医療における診療プロセスの可視化が重要になるでしょう。
今はWeb問診ツールのようなものもいくつか出てきて標準化されつつありますが、問診を行う際にも、診察を行う際にも、医療従事者の患者さんへの尋ね方は微妙に異なり、再現性が難しいものだと思います。
それらを一つ一つ可視化し、ビッグデータとして蓄積できれば個人的に非常に面白いかなと考えています。
医療従事者個人個人が入力したデータを、プラットフォームが管理するという仕組みは数年後には完成している可能性はありますが、それらをフル活用するためには医療の可視化は重要な観点となりそうです。

クリニックにおいては、従来の特定の業務が全てAIに置き換わるということは起こり得ないため、直近で根本的に何かが大きく変わることはないと考えています。
従来は大学病院や特殊な病院でのみ提供されていた医療が、医療機器やツールのアシストを得て、クリニックでもできるようになるといったことは十分に考えられそうです。

近年注目しているシステムはありますか

アメリカの糖尿病患者向けに提供されているサービスのIDx-DRです。
糖尿病の患者さんは年に一回程度のペースで眼底検査を行なっています。
日本の患者さんであれば眼科医で診てもらうことが一般的ですが、アメリカでは通院コストが高くなってしまいます。
IDx-DRで目の検査を行うと、今眼科に行って診てもらうべきか、1年間程度は通院する必要がないかを医療機器AIが判断するという仕組みです。
つまり、治療の必要性を医療従事者なしで判断するということになります。
日本では健康診断で測定された結果に一定の基準値を設定し精密検査の目安などとしていますが、AIを用いることでその基準・目安が広がりつつあります。

IDx-DXと同じ仕組みで急性期疾患まで取り組もうとすると、さすがに様々な問題が出てくるかと思いますが、治療が多少遅れてもいい疾患であれば、十分に受容される可能性はあると思います。
遠い先、どこまで拡がるかは明確ではありませんが、AIが医療界で発展するのに重要なツールになっていくかもしれません。

患者中心の医療の姿とはどのようなものでしょうか

難しいテーマですが、一つのキーワードとして、個別化医療が当てはまると思います。
患者さんの疾患に対して、たった一つの真実の治療法があるということはほとんどなく、例えば「身体的な苦痛を伴ってでも治療したい」「根本的に治療できなくていいのでゆっくりと過ごしたい」など、同じ疾患でも患者さんによって希望は異なるはずです。
患者さんの価値観に沿った医療が提供されるべきだとは思いますが、その一方で選択肢が多くありすぎると戸惑ってしまうリスクがあります。
その点に関しては医療従事者の判断次第となってきますが、もう少し患者さんが決断しやすく、医療従事者とも合意しやすい環境になっていくことが理想だと考えています。

プロフィール


経済産業省
商務サービスグループ ヘルスケア産業課 医療・福祉機器産業室 室長補佐

藤原 崇志 氏

2009年に愛媛大学卒業後、倉敷中央病院で初期研修及び、耳鼻咽喉科の診療・臨床研究を行っていました。その後個人的に行政の分野に興味があったこともあり、2020年10月より現在の職場に異動しました。
現在は、所属している医療福祉機器産業室という名の通り、医療機器と福祉機器に関する業務を行っています。具体的には開発資金の補助事業や産業振興のための環境整備になります。
プログラム医療機器やICTツールは、法規制についてのガイドラインがないと新規参入がしにくくなります。ですので、そのためのガイドブックを作ったり、治療用アプリを開発する際にどんなことを考えて作れば良いか、どんな内容を目標設定すべきかを情報発信するなどが業務の中心です。