患者ニーズに応え、他院と差別化するクリニックづくり / ライフデータイニシアティブ 代表理事 吉原博幸

一般社団法人ライフデータイニシアティブ、吉原様に患者ニーズに応え、他院と差別化するクリニックづくりについてお話をお伺いしました。
森様には、現在公開中の診療所マネジメントEXPOでもご講演いただいています。
※2022年11月1日にCPA EXPOは診療所マネジメントEXPOに名称を変更しました。

診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください

講演タイトル『千年カルテ2022』
まず、千年カルテの基本的な仕組みについてお伝えできればと思います。
また、その仕組みの中でどんなメリットがクリニックと患者さんの中にあるのかということや、さらに高い視点として、どんな社会的な意義やメリットが考えられるかについても
紹介いたします。


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千年カルテとはどういったものなのでしょうか?

匿名加工したデータ提供だけではなく、医療機関同士の連携診療、また患者さんには医療情報を確認できるアプリを配信しています
千年カルテの最大の目的は、次世代医療基盤法に基づき、なるべくたくさんの医療機関からデータを集めて匿名加工をし、最終的に企業や大学その他の研究者に対してデータを提供することです。

ただ、私は元々外科医として勤務していたので理解できるのですが、医療者の立場としては「ただ単に研究目的で患者さんのデータを提供するだけ」というのは、あまりメリットを感じられないと思います。
そこで千年カルテでは、匿名加工をして二次利用をする手前のリアルネームデータを用いて、医療機関同士の連携診療をしたり、患者さんがご自身のデータをスマホ端末で確認できるアプリを配信したりといった活用用途を無料で提供しています。

現在のところ、千年カルテには106ヶ所の中核病院と、1ヶ所のクリニックにご参画していただいており、実名データを提供していただいています。
とはいえ、電子カルテを導入していないクリニックでも患者さんを病院に紹介することは多く、それら非対称連携の状態の数を含めるとさらに多くの医療機関に参画していただいていることになります。

これから情報社会が進んでいく中で、クリニック院長が知っておくべきことは何でしょうか?

積極的に医療情報を開示・提供していく姿勢が求められる
やはり、患者さんが潜在的に抱えているニーズの中で最も大きいポイントとして、「自分がどうなっているのかを知りたい、先生と過不足なく情報共有してしっかり繋がっておきたい」ということがあると思います。

特に若い患者さんは、スマートフォンの普及も相まってPHRに親しんでいるいるケースも多く、小さなお子さんを育てている方、お年寄りをケアしている方など、様々な情報を入手しておきたいニーズが高まっていると思います。
そんな患者さんに対して、医師側から積極的に医療情報を開示・提供していく姿勢が求められるのではないでしょうか。

次世代医療基盤法について、クリニックではどのような視点を持っているとよいでしょうか?

情報サービスの提供がスムーズになる
確かにクリニックの規模は大病院に比べると小さく、次世代医療基盤法による様々な取り組みに対する情報も手に入れにくいはずです。
健康・医療戦略推進本部のポータルサイトもありますが、やや表現が固く、なかなか訴求力がないのが実情だと思います。
ですが、一つの考え方として、「患者さんに対する情報サービスの提供がスムーズにいく」という視点を持って取り組んでいくことが重要かもしれません。

小さなクリニックでも1,000ヶ所が集まれば、どんな病院でも収集できないボリュームのデータになりますし、クリニックから紹介された病院で手術をし、またクリニックに戻って経過を診察するというトレースも非常に取りやすくなります。
そういった点は、病院だけでいくら情報を収集しようと思っても不完全なものにしかならないため、クリニックの協力なしでは成り立たない重要な要素であると思います。

千年カルテにクリニックが参画することのメリットはどんなことがありますか?

患者さんへの情報共有が可能なため、他院との差別化に
医療データの二次利用に関しては研究目的なので、大きな病院も含めて目に見えるメリットはなかなか現れないと思います。

一方で診療領域においては、連携医療と患者さんに対する情報サービスがスムーズになるという点は大きなメリットとなります。
クリニックでは、電子カルテをはじめ情報の電子化を実施している機関がまだ少なく、取り組んでいるとしてもクローズな状態になっていることがほとんどです。
若い患者さんはスマートフォンを日常的に利用しているので、スマホで自らの医療情報を全て閲覧・管理できるのは大きな訴求力になるでしょう。
大きな病院で伝えられたことを自分で説明するというのは、若い患者さんであってもなかなか難しいものです。

クリニック-病院の紹介ルートにおいて、今の状態だとある程度の制限がありますが、それぞれの医師が患者さん自身の診療内容を全て把握している状態というのは、かなり心強いはずです。
開業医の先生が一人でこの仕組み(PHR)を構築するのは非常に大変ですので、そういう意味での連携のしやすさも差別化になると考えています。

プロフィール


一般社団法人ライフデータイニシアティブ
代表理事
吉原 博幸 氏

次世代医療基盤法の認定事業者である、一般社団法人ライフデータイニシアティブで代表理事を務めている吉原と申します。
同時に、現在京都大学名誉教授としてEHR(Electronic Health Record)共同研究講座を開設しており、医療データ情報の活用についての研究を進めています。