医療機関経営は競合から協業の時代へ-選ばれる一人医師クリニックの特徴 / 行政書士法人横浜医療法務事務所 岸部宏一氏


日本医療法務学会の会長も務める、横浜医療法務事務所の岸部様に、一人医師クリニックの経営における要点についてお話をお伺いしました。
岸部様には、現在公開中の診療所マネジメントEXPOにご登壇いただきます。

診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください

講演タイトル『一人医師診療所の経営戦略』
講演では、クリニックのノーストレス経営のポイントについてお話しいたします。
クリニックの先生にお会いすると、一人で限界まで奮闘されている様子が多々見受けられます。毎日の診療だけでも大変なのに、さらに経営について一人きりで考えらなければいけない状況は非常に酷な話です。

先生が一人で抱え込んで、気合と根性で乗り切るのではなく、周りを上手く使うことである程度、感覚的には半分程度?まで気持ちの上での負担を軽くすることができます。そのためには、肩肘張らなくても経営を続けられるような仕組み作りが大切です。

講演をご覧いただき頭の片隅にこの考えを置いていただいて日々取り組んでいただければと思います。


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一人医師クリニックの経営の厳しさや課題について教えてください

決定権があるからこそ感じるプレッシャー
もっと周りを頼ろう

クリニック運営を一人でされている先生は、日々の診療をしつつ、経営に関わる様々な事を自分で決めなければなりません。助けてくれる人もおらず、体力的にも物理的にもきつく感じるなか、大きなプレッシャーを感じられているかと思います。

「ポイントを押さえて」先生が上手く立ち回れば、あとはかなりまで力を抜いても何とかなるのですが、そこら辺のさじ加減とポイントの見極めに迷われている先生が多い印象です。
クリニックの先生には、いつも楽しそうに仕事をしている方と、いつも思い詰めた表情をしている方がいます。
前者の先生に共通するのが、人を使うのが上手いことです。逆に後者の先生のように、何でも自分でしようとすると、結果も悪くなりやすい傾向にあるようです。
医師も生身の人間で、一度にできることには限度があるため、一人で抱え込まないことをお勧めしています。

今後のクリニックの在り方について教えてください


クリニック運営は連携の時代へ
競合から協同へシフト

これまでは、医師一人が全部抱えてクリニックを運営してきましたが、現代は周りとの関係性に重きを置く時代に変わっています。例えば、隣のクリニックや近所の病院の外来と競争するのではなく、それぞれの得意分野に集中すれば、地域医療の質もぐんと向上するでしょう。
また、先生も自分の得意分野に注力した方がストレスも少なく、医療サービスの質が上がる上、患者数は変わらなくても専門分野の患者割合が増えることで結果的に診療単価が上がっているかもしれません。
このように近隣のクリニックや病院とは、広い視野を持ってWin-Win関係を築くことが大切です。近隣との連携関係を築くことができれば、「この疾患はあちらが得意だから、任せよう」といった信頼関係から、紹介、逆紹介n流れも生まれます。

もちろん、医療機関相互の協同は、先生が1人だけで始めることは難しいです。同じ考えを持つ近隣のクリニックの先生や近隣の病院の地域連携室との間で始めてみると、やがて影響力も大きくなるのではと思います。

一部のクリニック、特に在宅医療に取り組まれる先生を中心に、すでに近隣の施設と連携や共同に取り組んでいる施設もあります。特に、若い先生は考え方が柔軟で、上の世代の良い面と悪い面から学ぶ賢さもあります、
このような先生達が中心となって取り組めば、地域医療のあり方も変わっていくのではないでしょうか。

選ばれるクリニック像についてお聞かせください

医師としての真摯な態度がポイント
患者さんは先生を実によく見ています。選ばれるクリニックは、先生のお話が上手いなど小手先で何とかなるものではありません。一見、無愛想でぶっきらぼうな先生でも、患者さんの事を良く診ている先生もいます。

医師が患者さんを良く診て、専門分野であれば積極的に治療し、自分が得意でない疾患については、患者さんを潔く離すことも大切です。
例えば、先生の中には「自分にはよく分からない」「もっと分かる先生を紹介するから、そっちへ行って」などと真正直に言ったりする先生もいます。多少言葉遣いが悪くても、患者さんが先生の真摯な態度を理解すると、いつしか先生のファンなっていきます。

そして、患者さんが付いていく先生には、スタッフも付いていくものです。反対に、スタッフの入れ替わりが激しい施設は、あまり内容の良いクリニックではないかもしれません。
当たり前のことではありますが、医師と経営者という2つの面で、先生が良いリーダーになると、スタッフからも選ばれ、結果的に患者さんからも選ばれるはずです。

プロフィール


行政書士法人横浜医療法務事務所 代表社員
一般社団法人日本医療法務学会 会長
岸部 宏一氏

MRとして医療業界に入り、そこでの10年以上の業務を通じて多くの先生方と知り合う機会がありました。
その後、医療機関の事務長として従事したのち、病院経営のコンサル事務所で修行した後に独立して20年以上経ち、コンサルを通して医療機関をサポートする仕事を続けています。
最近知ったことですが、祖父が旧満州国の陸軍病院の立ち上げや事務に関わっていたのも、何かの縁だったのかもしれません。