糖尿病治療、処方にAI活用

札幌医科大学(所在地:北海道札幌市、学長:塚本泰司)の大西浩文教授(医療情報部長)らの研究グループ(射場浩介、千葉弘文、廣田健一)は、臨床情報データの人工知能(Artificial Intelligence; AI)活用に向けて、糖尿病治療における経口血糖降下薬の処方最適化に関する AI による学習モデルの構築を2019年2月から始める。

富士通株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:田中 達也)、株式会社富士通北陸システムズ(本社:石川県金沢市、代表取締役社長、寺田 満明)との共同研究になる。HbA1c(※1)の検査結果があり、経口血糖降下薬を処方された患者の情報をもとに、糖尿病治療における処方の最適化を行うAIによる学習モデルを構築する。

研究の背景

厚生労働省が3年ごとに実施している「患者調査」の平成26年調査によると、糖尿病の総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者の数)は 316万6000 人に上り、前回調査よりも46万人以上増加している。また、平成28年「国民健康・栄養調査」によると、糖尿病が強く疑われる人は推計で1000 万人以上(未治療の方も含む数)と言われており、その対応が急務となっている。

糖尿病の治療は、日本糖尿病学会が推奨する合併症予防の目標値であるHbA1c7.0%未満になるよう血糖値を継続的にコントロールしていくことが必要となる。薬物療法を行うにあたり、インスリン非依存状態の場合は経口血糖降下薬の適応となるが、患者の症状、血糖値の状態、合併症などを加味し、治療薬の選定、組合せ、順序、副作用などを考慮し、患者個人に合わせた最適な処方を行う必要がある。

ただ、一種類の治療薬で良好なコントロールができる人もいれば、複数の薬を必要とする人もいるといった個人差も大きいため、個人に合わせた最適な治療薬の選択や複数の薬の処方の順番といった個別化治療についてはまだ確立していないのが現状だ。

研究のポイント

共同研究では、札幌医科大学附属病院にて経口血糖降下薬を処方されている糖尿病患者のうち、設定した条件に当てはまる患者情報から処方情報、検査情報などを抽出し作成したデータセットを入力情報とした機械学習を行い、学習モデルを作成する。

また、経口血糖降下薬の処方により HbAlc 検査結果の改善がみられた患者を予測する分類問題に関する学習モデルを作成し、最適な学習モデルの評価項目として、曲線下面積(AUC) (※3)値および正解率 (Accuracy)と正例の再現率を確認する。

今後への期待と展開

研究により、近い将来、人工知能が患者個人の特性をもとに、どの糖尿病治療薬を選択すると安全かつその後の血糖コントロールが良好になりやすいかの確率などを計算して提示することで、その情報をもとに個人に適した治療薬を選択できるようになることが期待できる。この仕組みを電子カルテシステムと連携させ、臨床医の薬剤投与に関する効率化を実現することで、より良い医療サービスへの貢献を目指す。

※1 HbA1c ・・・ ヘモグロビン A1c の略。血液中のヘモグロビンと糖が結合したものの割合を指し、過去 1,2 か月の血糖値の平均的な値を反映するものとし て糖尿病治療における血糖の指標として用いられている。

※2 GLP-1 ・・・ グルカゴン様ペプチド-1 の略。消化管に入った炭水化物を認識することにより分泌され、体内を移動して膵臓を刺激することでインスリンの 分泌を促すホルモンの一つ。

※3 曲線下面積(AUC) ・・・ Area Under the Curve の略。学習モデルの判別の真陽性率と偽陽性率の変化を2次元グラフとして表現した曲線の下の部分の面積を指す。 0 から 1 までの値で表現し、値が 1 に近いほど判別性能が高いことを示す。