CPAPや生活習慣病の一部でオンライン診療適用も、阻む「ヤミ」の存在 Podcast『院長が悩んだら聴くラジオ』シーズン1_エピソード10全文書き起こし

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DOC WEB『院長が悩んだら聴くラジオ』この番組は開業医の皆さんが毎日機嫌よく過ごすための秘訣を語っていく番組です。 通勤時間や昼休みにゆるっとお聞きいただけると嬉しいです。

オープニングトーク

オンライン診療、普及しない理由とは?

(高山)
おはようございます。パーソナリティのDOC WEB編集長、高山豊明です。

(大西)
おはようございます。パーソナリティのMICTコンサルティング、大西大輔です。

(大西)
院長が悩んだら聞くラジオ、第10回始まりました。大西さん、今回もよろしくお願いします。

(大西)
よろしくお願いします。

(高山)
今日のテーマは何ですか?

(大西)
今日のテーマはオンライン診療です。

なかなか普及しないオンライン診療

(高山)
オンライン診療は2015年頃から国が認可した制度ですが、正式には2018年から点数化され、もう6年が経とうとしています。しかし、なかなか普及しませんね。

(大西)
そうですね。

(高山)
私も2018年に「オンライン診療EXPO」というイベントで、これからオンライン診療が広まりますよ、と開業医の先生方に向けてセミナーを行ったのを覚えています。しかし、まだまだ普及しているとは言えません。

(大西)
普及を望んでいる患者さん、普及して欲しいのか欲しくないのかわからない厚労省。先生方はその狭間で揺れ動き、微妙な状態がもう6年も続いていると感じますね。

(高山)
今後オンライン診療はどのように普及していくのでしょうか。あるいは、普及しないのでしょうか。
本日はオンライン診療について深く掘り下げていきたいと思います。
大西さん、よろしくお願いします。

(大西)
お願いします。

地方の医師不足解消に期待されるオンライン診療

(高山)
先日、山形県酒田市に岸田総理が訪問され、医師が少ない地方で移動できる診療所にオンライン診療システムを搭載し、医師不足を補おうという動きがあると報道されていました。
医師の偏在化が進む中で、オンライン診療を活用してこの課題を解決しようという動きが出てきていますね。

(大西)
そうですね。キャラバン型の診察室を導入しようと、様々な行政が検討しています。
キャラバン型であればオンライン診療も可能になりますし、検診車のように簡易的な検査もできるようになるでしょう。
面白い動きですよね。
無医村や医師不足の地域では有効な手段になると考え、導入が進められていますが、採算面についてはまだ未知数です。
どうやって採算をとっていくのか、現時点ではまだ分かりません。

(高山)
確かに、まだ実験段階と言えるかもしれませんね。

(大西)
民間に普及するかどうかは、採算が取れるかどうかにかかっています。
採算が取れないとなると、国立病院や公的機関で運営していくしかありません。
そういった意味で、今回のフィールドスタディーは、今後の課題を浮き彫りにしたと言えるでしょう。
オンライン診療を導入したいけれど、診療報酬をどのように評価していくのか。
それは今後の議論に委ねられています。

オンライン診療を推進する規制改革会議

(高山)
冒頭でオンライン診療があまり進んでいないという話がありましたが、最近の規制改革会議などでは、オンライン診療を推進していこうという方向性ですよね。

(大西)
そうですね。規制改革会議はだいぶ前から政策の柱として重要な役割を担っています。
そもそも「規制改革会議」という名前の通り、今までの規制を壊していくことを目的としていますから、オンライン診療も規制改革の1つの柱として推進していきたいという思いがあるのでしょう。

オンライン診療が進まない理由:需要と供給のミスマッチ

(高山)
そうした流れがある中で、オンライン診療がなかなか進まない理由は何なのでしょうか?

(大西)
1つは、需要と供給のミスマッチがあると思います。
オンライン診療を希望する年齢層は、医療機関にとってのメインターゲットではありません。
スマホで診察を受けたいと考えているのは、20代から50代くらいの方が多いでしょう。
しかし、その年齢層は病院にあまり来ない層なんです。
オンライン診療の需要はあるものの、実際に利用する人が少ない。
そこにミスマッチが生じているのだと思います。

(高山)
慢性疾患を持っていない若い世代は、頻繁にクリニックへは行きませんからね。
クリニックの利用頻度が高いのは、60代、70代、80代の方です。
その世代の方々に「オンライン診療やってますよ」と言っても、なかなか広がりません。

(大西)
そうですね。日本社会全体で見ると、ネットショッピングや様々なネットサービスを利用しているのは若者です。
最近流行しているライバーも、若者を中心に人気を集めていますよね。
一人で話している動画を大勢で見る、あのスタイルは、60代や70代の方にはあまり馴染みがないでしょう。
若者をターゲットにしている医療機関であれば、オンライン診療は普及する可能性があります。

(高山)
なるほど。
若者が多く訪れるクリニックの診療科目というと、例えばどのような診療科目でしょうか?

(大西)
小児科、婦人科、美容皮膚科などですね。
これらの診療科目はオンライン診療のニーズが高いと思います。
例えば、子供が夜中に発熱した場合。
病院に連れて行くのは大変ですから、オンラインで診察を受けたいというニーズは高いでしょう。
コロナの影響で、こうしたニーズはさらに高まっています。
婦人科ではアフターピルがオンラインで処方できるようになり、普及が進んでいます。
もちろん、婦人科の診察は細かい部分まで診る必要があるため難しい面もありますが、「薬だけ処方してほしい」というニーズには対応できるでしょう。
美容皮膚科では、薄毛治療薬の処方などでオンライン診療が普及しています。
オンライン診療が普及していないとすれば、それは「若い世代ですぐに診察を受けたい」というニーズに対応できていないからでしょう。

(高山)
なるほど。
若い世代ですぐに診察を受けたいという層をターゲットにしているクリニックであれば、オンライン診療は普及していくということですね。

(大西)
その通りです。
ただ、そうしたクリニックはごくわずかというのが現状です。

オンライン診療が進まない理由:システムの価格と収益化の難しさ

(大西)
オンライン診療の普及を阻む構造的な理由として、もう1つ大きな問題があります。
それは、質の高いシステムを作ろうとするとどうしても高額になってしまうということです。
高額なシステムはなかなか売れません。
低価格で提供するためには、ある程度の数のユーザーが必要ですが、そのためには無料のシステムを配布する必要があります。
ある程度のユーザーを獲得した後で有料化するという戦略がよく用いられますが、無料のシステムを使っていた先生は、有料化されると他の無料システムに乗り換えてしまうのです。
そうすると、いつまで経っても収益化できません。
この構造は、ある意味で闇と言えるかもしれませんね。

(高山)
闇なんですか?

(大西)
新しいメーカーが現れるたびに、先生方が乗り換えてしまう。
結果として、安価なシステムばかりが普及してしまう。

(高山)
オンライン診療をやればやるほど、外来診療と比べて収益が減ってしまうという点数の問題も大きいです。

(大西)
構造的な問題ですね。

オンライン診療の未来:5人同時診察は実現する?

(大西)
ある先生が面白いことを言っていました。
「5人の患者を同時に診察できればいいのに」と。
5人まとめてエントリーして、5人同時に診察すれば効率的ですよね。
まるで野戦病院のようです。

(高山)
確かにそうですね。

(大西)
もちろん、患者一人ひとりの話をじっくり聞きたい先生もいるでしょう。
しかし、「こんにちは。いつもの薬を出しておきますね。はい、次の方どうぞ」というように、テンポよく診察を進めたい先生もいるはずです。
もしオンライン診療で、5人を同時に診察できるシステムが実現すれば、爆発的に普及するかもしれませんね。

(高山)
それは面白いアイデアですね。
しかし、現実的には難しいのではないでしょうか。
外来診療では、プライバシーを守るために患者を一人ずつ診察室に呼びます。
オンライン診療で、5人を同時に診察するとなると、集合研修のような形になるのでしょうか。

(大西)
いえ、実際に同じ症状の患者さんを5人まとめて診ているクリニックはありますよ。
例えば、コロナの患者さんが来た時。
まず最初に、コロナの患者さんを並べて、一斉に検査を行います。
検査が終わって結果が出た人に、まとめて薬を処方するわけです。
看護師は患者を横に並べて、検査をまとめて行います。プライバシーは二の次です。「こんにちは。あなたもコロナ、あなたもコロナ」というような状況です。

(高山)
コロナの場合は、動線設計上、どうしてもそうなってしまいますよね。
コロナ患者は一箇所に集められますから。

(大西)
インフルエンザも同様です。発熱患者はまとめて診察するのが当たり前になっています。
プライバシーの問題は、緊急時には言ってられません。
今までそうやって対応してきたわけですから。

オンライン診療におけるプライバシーの問題

(高山)
なるほど。
患者さんが皆、医師の指示に従ってくれればいいのですが。
中には、少し理不尽な要求をしてくる患者さんもいるかもしれません。

(大西)
そうですね。
コロナだから仕方なく我慢してくれていたのでしょう。
本来であれば、集団で診察されるのは嫌なはずです。
皮膚科の先生で、5人を同時に診察している先生がいると聞きました。カーテンで仕切っているそうですが、隣の患者さんの声も丸聞こえですよね。
「まあ、しょうがないね」と言って、先生方は対応しています。

(高山)
しかし、若い世代の患者さんからすると、抵抗があるかもしれません。

(大西)
皮膚科や整形外科の注射だけの場合は、プライバシーよりも効率が優先されます。
とにかく早く患者さんを回さなければなりませんから。
そう考えると、システムで細かい設定をするのは難しいのかもしれませんね。
例えば、この患者さんは画面に映さない、この患者さんの音声はオフにする、といったような。

(高山)
おもしろいですね。

(大西)
先生側から見ると5人の患者さんが見えますが、患者側から見ると先生しか見えません。
先生は音声オンにしないと、患者さんに声が届きません。
患者さんは先生を見ているけれど、実際は別の患者さんを診ている、という状況も起こり得るでしょう。
物理的には患者さん同士は隔離されていますから、技術的には実現可能だと思います。

(高山)
Zoomの会議設定やセミナー設定でも、そういった機能はありますよね。

(大西)
ただ、そうした機能を実装すると、誤作動で全員の画面がオンになってしまったり、全員の音声がオンになってしまったりするリスクがあります。
それが怖いのかもしれませんね。

(高山)
確かに。
患者さん側も、そこまでオンライン診療に慣れていないのかもしれません。

オンライン診療が普及するための2つの条件

(大西)
極端に言えば、オンライン診療が普及する条件は2つです。
1つは、オンライン診療の方が早く診察が終わること。スピードの問題。
2つ目は、オンライン診療の方が外来診療よりも安価であること。
この2つがクリアできれば、オンライン診療はすぐに普及するでしょう。

(高山)
しかし、現状では点数の設定がそうなっていない。
それが現実です。
なぜそうなっていないのでしょうか。

(大西)
それは、これまで60年、70年かけて築き上げてきた医療制度に、オンライン診療という新しい仕組みがポンと入ってきたからでしょう。
例えば、ある地域に医療機関が1つしかなく、他に選択肢がない場合は、オンライン診療でやらざるを得ません。
その場合は普及するでしょう。
富士山のトイレの話が面白かったですね。
1回200円かかるそうですね。

(高山)
はい、テレビで見ました。

(大西)
食べ物も何でも高いですよね。

(高山)
はい。

(大西)
でも、山小屋でしか食べられないから、みんなお金を払います。
診療報酬は、どの地域でも同じ金額です。
富士山の山小屋のように、レアケースでは自由に価格を設定できるような仕組みになれば、オンライン診療も変わるかもしれません。

(高山)
そうですね。
選定療養費の応用版のような形で、自由に組み合わせができるようになればいいですよね。

オンライン診療の課題:点数設定とユーザーの声

(大西)
そうですね。
その選定療養費についても、これまで初診料や再診料はオンライン診療でも請求できましたが、今回からオンライン診療での予約料は請求できなくなりました。
システム利用料のような形で請求すれば、横並びで500円くらいに落ち着くでしょう。
しかし、先生方の本音は、レアケースであれば2万円でも1万円でも請求したいと思っているはずです。
もっとユ融通が利く仕組みが必要ですね。

(高山)
そうですね。
皆保険制度には良い面と悪い面の両方があります。
クリニックによって、オンライン診療に向いている患者さんが多い診療科目と、そうでない診療科目があると思います。
診療科目ごとに見ていくと、どのような傾向があるのでしょうか?

(大西)
内科は検査がメインなので、オンライン診療にはあまり向いていません。
皮膚科は比較的向いていると思います。
美容系の皮膚科や、婦人科もオンライン診療との相性が良いでしょう。
小児科はもっと普及してもいいと思うのですが、お母さんとしては、やはり自分の目で子供を診てもらいたいという気持ちがあるようです。
夜間診療であれば、小児科もオンライン診療に向いていると思います。
整形外科は全く向いていません。
患者さんは注射やリハビリのために来院するので、オンラインでは対応できません。
整形外科の薬は、ロキソニンやカロナールなどの痛み止め、シップなど、薬局で買えるものが多いですからね。
だから、整形外科のオンライン診療のニーズは低いのでしょう。
薬を必要としない患者さんは、注射やリハビリを希望しますが、オンラインで注射やリハビリはできません。
整形外科は、患者さんの来院目的がはっきりしているので、オンライン診療には不向きです。
耳鼻科の場合は、禁煙外来や舌下療法、CPAPなど、診察と薬がセットになっているものはオンライン診療に向いています。
舌下療法は現在、保険適用になっていますが、まだオンライン診療は解禁されていません。
以前は自費診療だったのでオンライン診療も行われていましたが、保険適用になったことで、次回の改定でオンライン診療も解禁されるのではないでしょうか。
おそらく1回目の診察は対面で行い、2回目以降は舌下療法にすることで、舌下療法の点数を請求できるようになるでしょう。
再診料と処方箋料は請求できるので、先生方にとってメリットがあると思います。

オンライン診療に向いている診療科目、向いていない診療科目

(高山)
診療内容によって、患者さんに「この時間で来てください」とか、「オンライン診療の場合はこの時間帯でお願いします」と指定してもいいかもしれませんね。
そうすれば、医療アクセスの阻害にはならないでしょう。

(大西)
そうですね。
昼休みや夜間などの時間帯にオンライン診療を設定している先生もいますが、予約した患者さんが来なかったというケースも聞きます。
先生は休憩時間を削って待っていたのに、患者さんが来なかったとなると、がっかりしてしまいますよね。
オンライン診療はキャンセルしやすいという側面もあります。
患者さん側も、まだオンライン診療に慣れていないのかもしれません。
こうしたミスマッチが、オンライン診療の普及を阻んでいる1つの要因と言えるでしょう。

(高山)
クリニックにとっても、患者さんにとっても、まだオンライン診療は「便利そうで便利じゃない」というのが現状なのかもしれませんね。

オンライン診療と精神科:24時間対応の難しさ

(大西)
精神科は、睡眠障害の診療報酬がオンライン診療でも請求できるようになりました。
しかし、条件が厳しすぎるため、多くの先生が断念したようです。
24時間365日電話対応できる体制を整えなければならないという条件は、クリニックにとって大きな負担です。

診察が6時に終わっても、誰かが当番で電話を持って帰り、ベッドの横に置いて電話対応をしなければならない。
精神科は夜中に電話がかかってくることも多いので、クリニックのスタッフや先生が対応するのは大変です。
対応するためにスタッフを増員しても、辞めてしまっては意味がありません。

(高山)
最近では、そうした電話対応を代行する会社も出てきていますが、

(大西)
厚生労働省は「常勤の医療従事者でなければダメ」というルールを設けています。
派遣社員や外部委託は認められていません。
かなり厳しいルールですね。
下位の加算であれば、非常勤のスタッフでも対応できるのですが。

(高山)
なるほど。
今回、常勤のスタッフでなければ対応できないようにしてしまったのは、厚生労働省の意図的なものなのでしょうか?

(大西)
意図的なのだと思います。
改定の流れとしては、当初は非常勤のスタッフでも対応できることになっていました。
1月頃まではOKだったのですが、2月になって突然ダメになったのです。
なぜなのか、私たちにも分かりません。

(高山)
様々な議論を重ねた結果、このような形になったのでしょうね。

(大西)
結局、最後の最後でひっくり返るのが日本のやり方です。
石橋を叩きすぎたんじゃないでしょうか。

(高山)
規制改革会議が旗振り役となって、規制改革を進めていこうという流れの中で議論が進められていますが、いざ導入段階になると現実的な問題が浮上し、元の状態に戻ってしまう。
そうした力関係が見え隠れします。

(大西)
規制改革会議、厚生労働省、医師会。
医師会は労働組合のようなものですから、自分たちの既得権益を守ろうとします。
厚生労働省は医師会を監督する立場なので、どうしても医師会寄りになってしまいます。
規制改革会議は、厚生労働省と協力する必要があります。
「オンライン診療を導入しましょう、導入しましょう」と言いながら、実際には導入が進まない。
それが日本の現状です。

(高山)
こうした議論は、もう何年も続いていますね。
オンライン診療が本格的に普及するには、政権交代が必要なのかもしれません。

(高山)
本日はオンライン診療についてお話を伺いました。
続きは次回にしたいと思います。
大西さん、ありがとうございました。

(大西)
ありがとうございました。

(高山)院長が悩んだら聞くラジオ 今回もお聞きいただきましてありがとうございました。この番組への感想は「#院長が悩んだら聴くラジオ」でXなどに投稿いただけると嬉しいです。番組のフォローもぜひお願いします。この番組は毎週月曜日の朝5時に配信予定です。それではまたポッドキャストでお会いしましょう。さよなら。

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