医療事務スタッフ募集の要諦とは_Podcast『院長が悩んだら聴くラジオ』シーズン1_エピソード31全文書き起こし

Podcast『院長が悩んだら聴くラジオ』シーズン1_エピソード31全文書き起こし

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DOCWEB『院長が悩んだら聴くラジオ』この番組は開業医の皆さんが毎日機嫌よく過ごすための秘訣を語っていく番組です。 通勤時間や昼休みにゆるっとお聞きいただけると嬉しいです。

オープニングトーク

(高山)おはようございます。パーソナリティのDOC WEB編集長、高山豊明です。

(大西)おはようございます。パーソナリティのMICTコンサルティング、大西大輔です。

(高山) 院長が悩んだら聞くラジオ第31回始まりました。大西さん今回もよろしくお願いします。

(大西)よろしくお願いします。

(高山)今日のテーマは何ですか?

今日のテーマ:医療事務採用難の実態

(大西)今日のテーマは医療事務の募集です。

(高山)医療事務の募集は一言で言っても奥が深い話ですが、ズバリ結論から言うと、先生が思うほど採用活動は上手くいかないということでしょうか?

(大西)そうですね。まず大前提として、今、医療事務の募集が非常に難しくなっています。若い人が少なくなっているため、どうしても経験者でやりくりするケースが増えてきているからですね。

(高山)新しく医療事務になる若い方があまりいないということですか?

(大西)そうです。私は専門学校で医療事務を教えているのですが、医療事務の学校に通っていても、卒業後に病院で働かない人がどんどん増えています。

(高山)せっかく勉強しても、就職しないということですか?

(大西)薬局や企業に行きたいという人がいたり、派遣会社に登録する人もいます。クリニックで働くことに魅力を感じていないのかもしれません。

(高山)クリニックの求人を魅力的にする方法については、また別の機会にお話したいと思います。

今回は医療事務の募集というテーマなので、単純に求人を出してもマッチしないという点について、詳しく教えていただけますか?

応募者のチェックポイント

(大西)そうですね。医療事務の募集をしても、例えば10名の応募があったとして、どこをチェックするかが重要になります。

まず最初に職歴を見ます。これまでの経験値を確認するわけです。そして、年齢も重要な要素です。

例えば、あなたが40歳だとします。そこに50歳の医療事務の方が応募してきたら、どうしますか?

(高山)年齢だけで判断はできませんが、自分より詳しそうで、人間的に問題がなければ採用を検討するかもしれません。

(大西)年齢と職歴をきちんと見ることが大切です。その年齢にふさわしい職歴なのかを見極めます。

例えば、まだ若いのに転職を10回繰り返していたり、逆に年齢を重ねているのにずっと同じ職場で働いていたりする場合は、注意が必要です。

まず職歴をチェックし、次に経験をチェックします。どんな経験を積んできたのかが重要です。

診療科目による点数の違い

(高山)診療科目によって求められる経験も違うのでしょうか?

(大西)そうですね。参考までに、内科を例に挙げると、総合内科、消化器内科、循環器内科、呼吸器内科と、大きく4つに区分されます。

総合内科は在宅医療も含めて何でも診る科です。

一方、消化器内科、循環器内科、呼吸器内科は専門内科です。

専門領域ごとに診療報酬の点数が異なってきます。

(高山)点数はレセプトの点数のことですね?

(大西)そうです。点数、そして診療行為も当然違います。

診療行為をお金に変換するのが診療報酬点数なので、診療行為が分かっていない人は経験ゼロと同じです。

(高山)隣の診療科目のことは分からないということですね。

(大西)専門特異性が強いので、例えば整形外科出身の人は内科が分からなかったり、耳鼻科出身の人は皮膚科が分からなかったりします。

「診療報酬はどこも同じだろう」と言う人もいますが、専門学校では満遍なく教えているものの、クリニックに就職すると、そこから専門特異性がどんどん強くなっていき、数年経つと、その科のことしか分からなくなってしまうんです。

(高山)点数表は分厚いですよね。

(大西)私が若い頃は、今の半分くらいの厚さでした。

この20年で倍に増えました。

在宅医療が増えたことも大きいですね。在宅医療を行う先生は、在宅医療の経験があるスタッフを雇わないと大変です。

正しい募集の仕方とは?

(高山)医療事務の採用は複雑ですね。

(大西)そうです。医療事務募集という募集の仕方は、正しくないのかもしれません。

「皮膚科医療事務募集」のように、診療科目を限定した募集が正しいのかもしれません。

(高山)応募する側も、そういう点を気にして応募してくるのでしょうか?

(大西)自分のノウハウを活かせる職場だと思って、総合内科の人は総合内科のクリニックに応募するなど、都合よくマッチするとは限りません。

結婚や転勤で場所が変わったのを機に仕事を探し始め、たまたまそのタイミングで内科、耳鼻科、皮膚科の3件の募集があったとして、眼科の経験しかない人が応募してきたら、その人は3件全てに応募するしかありません。

診療科は細かく分けると50個くらいあるので、50個の募集がないとマッチしないことになります。

同じ診療科で経験を積んだプロフェッショナルが応募してくるのは、ラッキーだと考えた方がいいでしょう。

(高山)実際には、そこまで上手くマッチングしないことが多いということですね。

(大西)そうですね。だから、まずマッチングしなかった場合を想定して募集をかけることが大切です。

広く募集する場合、先生が診療報酬の点数を理解しておくことが重要になります。経験の少ない人を採用する場合は、特にそうです。

診療報酬点数の重要性

(大西)診療報酬点数に興味がないまま開業すると、1割~2割程度の算定漏れが起きる可能性があります。

(高山)そこまで考えないといけないんですね。

(大西)病院では分業制なので、野球で例えると、先発投手が抑えをしないように、担当する業務が限定されています。

5イニング投げればOKで、医療事務も同じで診察ができればOKという感じです

。開業前に他のクリニックの先生について学び、診療報酬の点数を理解しておくことをお勧めします。

(高山)そういうクリニックはどうやって探せばいいのでしょうか?

(大西)まず自分の診療科と同じクリニックがあるかどうかを探します。

そして、そこに医師の募集、もしくはアルバイトの募集がないかを確認します。そこで半年から1年間働けば、ある程度身につくと思います。

クリニックでの修行は、開業準備としてぜひ行ってほしいですね。

(高山)受け入れる側も、短期や期間限定ではありますが、受け入れてくれる先生は多いと思います。

(大西)1ヶ月ではノウハウを吸収されて、すぐに辞められてしまう可能性があるので、半年から1年が適切な期間だと思います。

中にはノウハウだけでなく、スタッフを引き抜いていく先生もいるので、長すぎるのも良くないですね。最初に「スタッフの引き抜きはしない」という条件を書いてもらうようにしましょう。

医療業界の特殊性

(高山)勝手に付いてきてしまう場合もあるかもしれませんね。

(大西)そうですね。それが医療業界の難しいところです。

例えば、あなたが会社を起こすとして、部下が「手伝います」と言ってきたら、内緒で自分の会社を手伝わせるようなものです。

バレたら大変なことになります。私は今でも「そろそろ独立してもいいですか?」と聞かれることがありますが、「永遠にダメだ」と答えています。

人を雇うなら、1から育てます。経験者は甘えがちなので、医療の場合は、経験者は一人いれば十分です。

完全にマッチしなくてもいいので、よりマッチしている人がいれば良いと思います。

ただ、先生自身も診療報酬点数の勉強はしてほしいですね。医療事務の採用は、先生自身も医療事務に教えられるレベルまで勉強しておくことが重要です。

診療報酬点数の具体例

(高山)診療科目ごとに点数の特異性が違うということですが、もう少し詳しく教えていただけますか?

(大西)例えば耳鼻咽喉科は、処置を積み重ねて、検査をした上で初めて点数が構成される科です。

一方、整形外科は、患者さんが来たらレントゲンを撮り、注射で治すのかリハビリで治すのか、処置で治すのか、薬にするのか手術にするのかを判断します。

最初に画像を見て判断する、というのが整形外科の特徴です。このように思考プロセスも違うので、点数の構造も違ってきます。

(高山)他の診療科目はどうでしょうか?

(大西)眼科は検査の科です。眼科に行くと分かりますが、4~5種類の検査をしてから診察が始まります。

これらの検査について理解していないと、眼科の医療事務は難しいでしょう。

精神科は精神科でしか取れない点数があるので、それを理解している必要があります。

最近増えている消化器内科では、短期滞在手術基本料という包括点数があります。日帰り手術の点数です。

一方で内視鏡検査は、胃カメラと大腸ファイバーがあり、大腸ファイバーの場合はポリープ切除などの手術を行うこともあります。このような診療の流れを理解している人が求められます。

医療事務教育におけるポイント

(高山)診療科ごとに専門的な診療フローがあるのですね。

(大西)そうです。私が医療クラークの研修を行う際は、何をしたからいくらになるのか、という点に特化して教えています。

「この診療報酬点数は、ある一定の条件でしか発生しない」ということを理解してもらうことが重要です。

分かりやすく説明するために、よく料理に例えます。「人参、玉ねぎ、じゃがいも、カレールー、お肉でカレーライスができる。
しかし、人参、じゃがいも、玉ねぎ、お肉、シチューのルウでホワイトシチューになる。」

つまり、材料の積み重ねで料理が完成するように、診療報酬点数の計算も積み上げ方式で行います。

カレーライスが900円だからといって、材料を減らして値段を下げるような考え方はしません。

(高山)積み重ねが重要なのですね。

(大西)クリニックの医療事務は、この積み上げ方式で考えているので、病院で修行していても知らないということがあります。

病院は包括点数が多く、カレーライスで例えると「900円」とだけ決まっていて、材料を減らして値段を下げるという発想になりがちです。

オプションで値段が変わる、という考え方が必要です。

(高山)「病院で働いていました」という人が、すぐにクリニックで働けるかというと、そうではありません。

(大西)外来と入院のどちらの経験があるのかを必ず聞きます。入院点数と外来点数は全く違います。外来の方がクリニックには向いています。病院では入院が花形なので、入院の経験が重視される傾向があります。

採用後の教育

(高山)点数が分かる人を採用したとして、その後の教育はどうすればいいのでしょうか?専門的な点数の取り方を誰が教えるのですか?

(大西)難しい問題ですね。先生自身に教えてもらうのが一番ですが、先生も分からない場合は、私のようなコンサルタントに依頼することになります。

点数に詳しいコンサルタントは少ないので、探すのは大変です。

コンサルタントの回でも話題になりましたが、会計事務所出身の人は点数に詳しい人がいるかもしれません。

お金のことを考えているからです。IT系や不動産、建設関係、医薬品卸の出身者は、点数のことは分からないでしょう。

日医学園やソラストのような、診療報酬点数を専門に扱う会社出身の人が適任です。

採用する際は、応募者の経歴をよく見て、診療報酬に詳しいのか、ITに詳しいのかを見極めることが重要です。両方に精通している人は稀です。

レセプトチェックソフトの活用と限界

(高山)レセプトチェックソフトを導入すれば、ある程度自動化できるのではないでしょうか?

(大西)レセプトチェックソフトは結果のチェックはできますが、プロセスのチェックはできません。

月に一度発行される請求レセプトをチェックする際に、マイナスチェック、つまり本来取れない点数が取られていないかを確認することはできますが、本来取れる点数が取れていないかを確認することはできません。

もし「取れたのに取らなかった点数」を復活させるには、患者さんに頭を下げて請求額の変更を了承してもらう必要があります。

例えば、本来1050円の請求を1000円としてしまった場合、本来受け取れるはずの150円(50円の3倍)を請求するために患者さんに事情を説明する必要がありますが、1003円の請求を1006円に修正する場合、3円のために患者さんに説明する人はいないでしょう。

レセプトチェックは、本来取れるべき点数が取れていないか、本来取ってはいけない点数が取られていないか、ルールに則っているかを確認するものです。間違い探しシステムのようなものです。

レセプトチェックソフトは、テストの答案を採点して、「ここが間違っています。直すと点数が上がりますよ」と教えてくれるようなものです。

しかし、医療現場では、それができないことが難しい点です。発生源入力のタイミングでチェックしないと間に合わないからです。

(高山)電子カルテに入力した時点でアラートが出るような機能があれば良いのですが、そのような機能は開発されていません。

(大西)AIを活用すれば実現できそうですが、厚生労働省から診療報酬のレセプトについてレコメンド機能を搭載しないようにという通達が出ているようです。

(高山)医療費が増えてしまうからでしょうか?

(大西)そうですね。本来取れる点数が漏れているのをサポートしてはいけない、ということでしょう。

厚生労働省は、「診療報酬について勉強しなさい」とは言っていないだけで、「システムで自動的に点数を取るのをやめなさい」とは言っていないんです。

例えば、特定疾患療養管理料という点数がありましたが、生活習慣病が除外されました。これは、特定の病名が付くと自動的に点数が加算される仕組みでしたが、厚生労働省にバレて変更になったのです。

自動的に点数を取る仕組みは、厚生労働省からメスを入れられやすいです。

この点数は2250円もあったので、厚生労働省は患者さんの同意が必要な点数に変更しました。

これにより、点数が半減以下になったのです。厚生労働省はこういう風に点数表をいじることがあるので、ロジックを勉強することが大切になります。

AIはロジックを扱うのが得意なので、AIを活用したシステムがあれば良いのですが、現状では難しいようです。

先日、AIでカルテを書いてくれる機能を持つ電子カルテを使っている先生がいましたが、カルテが完成するまでに半日かかったそうです。

半日も経てば患者さんはいなくなってしまうので、意味がありません。

パソコンの性能が10倍になれば、AIの活用も現実的になるかもしれません。現状では、コンピュータより人間の頭の方が良いので、AIを導入しても上手くいかないでしょう。

マルチタスク処理もコンピュータは苦手です。

コンピュータの方が頭が良いと思っている人はAIを使い、人間の方が頭が良いと思っている人は人間を教育する、というように、考え方が分かれるところかもしれません。

AIは入力された内容しか学習できないので、私の持っているようなノウハウは学習できません。それに、私は自分のノウハウをネットに公開するつもりもありません。

(高山)そうですね。ノウハウを公開したら、仕事がなくなってしまいますからね。

(大西)そもそも言語化することが難しいので、レセプトチェックソフトも難しいのです。

レセプトチェックソフトはただの箱で、ロジックは現場で組み立てる必要があります。

ロジック化できない現場では、レセプトチェックソフトを買っても役に立ちません。

せっかくソフトを買っても、10%くらいしかチェックできないということもあります。

残りの90%はチューンナップが必要ですが、「厚生労働省に怒られるから、まあいいか」となってしまうことが多いようです。

レセプトチェックソフトを使いこなすには、最低でも50通りくらいのロジックをインプットする必要がありますが、そのためのトレーニングに時間がかかるので、導入するだけで上手くいくとは限りません。

経験のない人を採用する場合

(高山)もし、自分の専門科の経験がない人しか採用できなかった場合は、どうすれば良いのでしょうか?

(大西)まず、先生が勉強して教えるという方法があります。

もし先生が教えるのが苦手であれば、先生がレセプトチェックツールを使いこなせるように勉強するという方法もあります。

医療事務の学生に教えている中で気づいたことは、自分が分かっていることを相手は全く分かっていない、ということです。

相手が何が分かっていないのかに気づかない限り、教え続けることはできません。平行線を辿るだけです。

「この点数はこういう仕組みです。皆さん分かりましたか?」と聞いて、「はい」と答える学生はいても、本当に理解しているとは限りません。

何度も繰り返し教えることが大切です。「前に言ったよね?」と聞いても、「覚えていません」と言われるのが普通です。

医療事務は決まったルールを覚えるのは得意ですが、応用が苦手です。

内科で勉強した人が皮膚科で働くのは難しいでしょう。決まったことを決まった通りにこなすことは得意でも、0から1を生み出すのは苦手です。先生がどれだけ0から1を生み出せるかが、医療事務の採用を成功させる鍵になるでしょう。

(高山)経験のない人を採用する場合は、丁寧に教えていく必要があるのですね。

(大西)そうですね。びっくりするくらい丁寧に教えて、ちょうど良いくらいです。

(高山)ツールを導入しても、使い方を丁寧に教えて、訓練していく必要があります。1週間で仕上がることはないので、開業前に1ヶ月かけて採用活動を行い、さらに1ヶ月かけてトレーニングを行う必要があります。

(大西)それでも1ヶ月では足りないくらいなので、開業後すぐに完璧にできるようになるとは思わない方が良いでしょう。

(高山)今回はこのぐらいにして、続きは次回にしたいと思います。ありがとうございました。

(大西)ありがとうございました。

(高山)院長が悩んだら聞くラジオ 今回もお聞きいただきましてありがとうございました。この番組への感想は「#院長が悩んだら聴くラジオ」でXなどに投稿いただけると嬉しいです。番組のフォローもぜひお願いします。この番組は毎週月曜日の朝5時に配信予定です。それではまたポッドキャストでお会いしましょう。さよなら。

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