
開業と同時に発生する「診療以外のトラブル」
勤務医から開業医へ。
その第一歩となる開業初日、多くの医師は「診療をこなす」ことよりも「経営者として責任を背負う」ことに強いプレッシャーを感じます。
- 「患者が一人も来なかったらどうしよう」
- 「逆に殺到したら、スタッフと一緒に捌けるのか」
- 「診療以外の雑務で頭がいっぱいになり、診療に集中できないのでは」
こうした不安を抱えたままスタートし、多くの医師が初日で「診療以外の現実」に直面します。
開業初日のトラブル事例集
患者数の誤算

初日は患者が8人しか来ず、待合室が空っぽでした。広告や内覧会を軽視したことを後悔しました。
その日の午後はスタッフと地域の薬局に挨拶回りをし、翌週からは広告を強化しました。

70人以上が来院し、夜9時を過ぎても診療が終わりませんでした。スタッフが疲れ切り、急きょ家族に受付を手伝ってもらいました。労務管理の重要性を痛感しました。
事務・予約オペレーションの混乱

予約システムが同期せず、同じ時間に3人が来院。受付が混乱し、急きょ番号札を手書きで作りました。翌日から予約確認を二重チェックにしました。

会計で釣り銭が足りず、スタッフが銀行へ走りました。以降は必ず予備金庫を準備するようにしました。
システム・機器の不具合

診療開始直前に電子カルテが立ち上がらず、紙カルテで対応しました。紹介状の内容が見られず冷や汗をかきました。その日の夜にベンダーを呼び、翌日からサポートを常駐させました。

レセコンの算定設定ミスで、初日の会計はすべて電卓で手計算。保護者から金額を疑われました。翌日から毎朝、算定確認を全員で行うようにしました。
院内設備・備品トラブル

自動ドアが開かなくなり、裏口から案内しました。業者を呼び修理し、翌日から点検リストを導入しました。

トイレ詰まりがありました。また、冷蔵庫設定ミスでワクチンを一本廃棄。以降は毎朝の点検表を作りました。
スタッフ連携の不全

新人スタッフばかりで役割が曖昧。患者さんを前に動けなくなり、私も受付を兼務しました。その夜、全員で役割を話し合いました。

初週だけ派遣会社からベテラン事務員をお願いしました。1日で会計が安定。その後マニュアルを作り全員で共有しました。
“見えない業務”の見落とし

ガーゼが足りずスタッフが薬局へ。発注フローを整備していなかったと反省し、在庫表を作成しました。

初日からレセプト確認で夜遅くまで残業。勤務医時代との違いを痛感し、翌日には税理士に相談しました。

スタッフが全く休憩をとれず初日から疲弊。夜にシフトを再調整し、翌週から交代制にしました。

待ち時間が長く『二度と来ない』と言われてしまいました。翌日から予約人数を絞りました。

紹介患者の報告が遅れ、近隣病院に迷惑をかけました。翌週から連携担当を任命しました。
走りながらの改善と再設計
患者数の誤算への対応
開業初日は「患者が来なさすぎる」か「予想外に殺到する」か、両極端な事例が少なくありません。
- 即応策
来院が少ない場合は、空き時間を活用して近隣薬局や施設への挨拶回り、SNSやWeb更新を実施。
逆に殺到した場合は整理券や臨時受付でフローを制御。 - 将来的な改善策
患者数が少ない場合はGoogleビジネスプロフィールの見直し、自院ホームページの広告・SEOの見直しも視野に。
患者数が落ち着くまで「試運転期間」として予約枠を制限し、混雑しない運営を優先。
必要なら派遣や家族の一時的なサポートを検討。
→口コミ対策 早期黒字を目指す経営分析ツール
初日はスタッフや機器のトラブルも想定されます。
スタートダッシュで「満員」を狙うのではなく、少し余裕を持った枠設定でスタートするのが合理的と言えます。
事務・予約オペレーションの対応
予約や会計は、初日ほど混乱が生じやすい領域です。
- 即応策
予約の重複は整理券で可視化。釣り銭不足は銀行へ急行しつつ患者に誠実に説明。 - 将来的な解決策
予約確定を二重チェック制にし、自動釣銭機は開院前に必ず試運転。模擬会計をスタッフと一緒に練習する。
特に会計の混乱は患者の信頼を直撃するため、「お金の流れ」を開院前にテストすることは必須です。模擬会計を事前に行い、スムーズ精算できるよう準備しておきます。→キャッシュレス決済 自動精算機
また、「待ち時間の長さ」はクリニックのクレーム上位にランクインする、大切なポイントです。
予約システムや発券システム・また連携状況を事前に確認しておきましょう。
システム・機器トラブルへの対応
電子カルテやレセコンの不具合は「必ず起きるもの」として準備すべきです。
- 即応策
予備として紙カルテと電卓を常備。患者には「確認の上で後日請求調整する」旨を説明するか、ダブルチェックで請求額の確認を。 - 将来的な解決策
ベンダーのサポート体制を強化し、緊急連絡網を整備。毎朝の稼働確認チェックリストを制作。
IT化が進むほど、バックアップ運用を最初から“標準”として組み込むことが肝要です。IT機器や医療機器のトラブルは、院長本人や現場スタッフではどうにもならないことがほとんどです。運用開始時は特にベンダーのサポートをすぐに受けられるよう手配しておきましょう。 →電子カルテの選定
院内設備・備品の対応
自動ドアやトイレ、冷蔵庫など設備トラブルは想定以上に頻発します。
- 即応策
業者を呼ぶまでの間は迂回導線や代替対応で凌ぐ。 - 将来的な解決策
毎朝の点検表を導入し、設備管理の責任者を決定。冷蔵庫は温度記録をルーチン化。
診療機器だけでなく「患者が触れる動線全体」が医療の一部として口コミなどの評価にも直結していきます。また設備の故障時の対策は災害対策とも関連します。特にドアやトイレ、エレベーターの故障時などのマニュアルは必ずスタッフ間に共有しておきましょう。
→クリニックの災害対策、じつは色々ある
スタッフ連携の対応
新人スタッフ主体で初日を迎えると、業務が曖昧になり混乱しやすいです。
- 即応策
院長自身が現場で指示を出し、必要に応じて受付を兼務。短期的にはベテラン派遣を投入して安定化。 - 将来的な解決策
役割分担表とマニュアルを整備し、朝礼で反復確認。業務フローを図示して全員に共有。スタッフごとのスキルを把握しあえる環境が理想的です。
模擬診療や初期研修を経ても、スタッフ教育を開業前に完ぺきにすることは困難です。
チームビルディングや基本的なコミュニケーション研修から、開業後に走りながら整備できるような関係づくりが長期的な視点で重要となります。→人材育成
見落としやすい業務に気が付いた時の対応
- 在庫管理:不足品は即時調達し、数日以内に在庫表と発注点を整備。→在庫管理
- 会計・資金管理:釣り銭やレセプトの不具合は後日調整を前提に。資金繰り表を週次で更新。
- 人事・労務:スタッフが休憩をとれているか、残業の状況を確認。シフトの調整や効率化システム導入を行う。
→受付省人化 IVR(自動音声応対システム) 勤怠システム - クレーム対応:待ち時間は掲示で調整し、誠実な謝罪と対応、早期改善。
→予約システムや発券システムで調整、デジタルサイネージで視覚化 - 地域連携:紹介元への連絡は即日徹底し、窓口を一本化。
完ぺきな状態にしたつもりでも、こうしたオペレーション上の不備や課題はでてくるものでもあります。
特に開業の最初の段階では、診療を中心に行う院長自身のほかに、さまざまな対策に一次対応を考えられるコンサルティングやベンダーのサポートがあると安心です。
診療科や地域ごとのトラブル傾向
内科
- 初日トラブル傾向:来院が少なく「空っぽの待合室」に直面しやすい。
- 注意点:空き時間に在庫・備品管理など“見えない業務”が押し寄せ、診療以外で戸惑うケースが多い。
皮膚科
- 初日トラブル傾向:開業日から患者殺到。
- 注意点:混雑と同時にガーゼや薬品切れなど備品不足が発覚しやすい。
小児科
- 初日トラブル傾向:会計混乱や待ち時間でのクレームが直ちに口コミへ拡散。
- 注意点:初日の対応がその後の評判に直結。
整形外科
眼科
- 初日トラブル傾向:機器不具合が診療継続に直結。
- 注意点:地域連携患者の対応が遅れると、信用問題に直結する。
都市部 vs 地方
まとめとチェックリスト
クリニック開業の初日は、必ず何らかのトラブルが起こります。
重要なのは「想定外」と驚くのではなく、あらかじめ想定して準備しておくことです。
特に診療そのもの以上に、会計・在庫・スタッフ運営といった“診療外の業務”が大きな負担となりやすい点を忘れてはいけません。
それらを事前にシミュレーションしておくだけで、初日の混乱は大きく軽減できます。
- 患者数シナリオを想定する
来院が少ない場合/殺到する場合、両方のパターンを準備。 - システムのバックアップを用意する
電子カルテ・レセコンは必ず事前テスト。紙カルテ・電卓を保険として準備。 - お金と物の流れを点検する
釣り銭、医薬品・消耗品、ワクチンなど在庫を事前に確認。 - スタッフの役割を整理する
誰が受付・会計・診療補助を担うかを明文化し、軽くリハーサルしておく。 - 外部リソースを確保しておく
ベンダー、派遣会社、税理士など、困ったときにすぐ連絡できる体制を持っておく。
開業時のトラブルは避けられないものです。大切なのは、診療を止めることなく対応しながら改善を積み重ねていける「体制」と「仕組み」を整えておくこと。
こうした基盤があれば、日々の試行錯誤を通じて理想とするクリニックを着実に育てていくことが可能になります。
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DOCWEB編集部(一般社団法人 DOC TOKYO)
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