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2026年度診療報酬改定では、物価高騰、賃金上昇、人手不足という複数の圧力を前提に、地域の医療提供体制を維持するための対応が組み込まれています。基本方針でも、医療機関等の経営の安定や、現場で働く幅広い職種の賃上げにつながる的確な対応が必要だと整理されています。
クリニックにとって重要なのは、今回の改定を「増収の機会」とだけ見るのではなく、「上がり続けるコストと、確保しにくくなった人材にどう対応するか」という視点で読むことです。
実際、重点課題の最初に置かれているのは、物価や賃金、人手不足等の環境変化への対応であり、その具体策として、物件費高騰対応、処遇改善、業務効率化、AI・ICT活用などが一体で示されています。
前の記事を読む:【全体像】クリニックが押さえるべき2026年度診療報酬改定|物価・人手不足・DX・処方見直しをどう読むか
今回の改定を経営面から読むとき、最初に押さえたいのは、物価高騰が一時的なノイズではなく、制度設計の前提に置かれていることです。医療材料費や食材料費、光熱水費、委託費などの上昇を踏まえた対応が必要だとされ、初・再診料や入院基本料等の見直しに加えて、物価上昇に段階的に対応するための物価対応料が新設されています。外来・在宅では初診時2点、再診時等2点、訪問診療時3点が示されており、令和9年6月以降は倍の評価に引き上げる設計です。
ここで大事なのは、物価高への対応が「基本診療料の微修正」だけで終わっていないことです。別建ての加算として物価対応料を置くことで、制度側が「通常改定とは別に、コスト上昇への手当てが必要だ」と認めている形になっています。これはクリニックにとって、今後の経営を考えるうえで重要なシグナルです。単に点数表の一行として見るのではなく、従来のコスト構造では回らなくなっていることを制度が明示したと受け止めたほうが、実務感覚に近いでしょう。
補正予算で最大32万円|見落とされがちな直接支援
診療報酬本体とは別に、今回の改定では補正予算による直接的な支援も見逃せません。
無床の医科診療所の場合、賃上げ対策として15万円、物価高対策として17万円、合計で約32万円の支給が想定されています。申請すれば受け取れる性質の支援であり、実務上は“取りにいかないと損”と言える領域です。
ただし、自治体によってはベースアップ評価料の算定が条件となるケースも想定されるため(3月現在)、評価料の届け出の有無がそのまま支援の受給可否に影響する可能性があります。
賃上げ対応については、今回の改定でも大きな論点の一つです。基本方針では、処遇改善と人材確保が重点課題の中心に置かれています。
個別改定項目では、外来・在宅ベースアップ評価料について、継続的に賃上げを実施している医療機関と、それ以外の医療機関で異なる評価を行う仕組みが明示され、段階的な評価も設定されています。初診時17点、再診時等4点、訪問診療時79点などに加え、継続的に賃上げを行っている医療機関には、より高い評価が用意されています。
クリニック側の実務としては、「算定できるかどうか」を確認して終わるだけでは不十分です。見るべきなのは、自院の人員構成と賃金カーブの中で、その賃上げを本当に継続できるか です。ベースアップ評価料は、短期的な算定テクニックよりも、継続的な賃金改善の仕組みを持てるかどうかを問う性格が強くなっています。つまり、今回の改定では、診療報酬を受け取ること自体よりも、その原資をどう実際の賃上げに落とし、どう持続させるか が重要になります。
今回の改定を理解するときは、診療報酬本体の点数改定だけでなく、周辺の支援策や制度の補完策まで含めて見ると、全体の流れがつかみやすくなります。というのも、今回の制度設計は、単純な点数調整だけでは現場の負担を吸収しきれないことを前提にしているからです。物価高への対応、賃上げ対応、DX対応、人手不足対応は、それぞれ別テーマのように見えますが、実際には同じ経営課題の別の側面です。
そのため、クリニックの確認順としては、「何点上がるか」を先に追うより、まず
- コスト増への補てん
- 賃上げ原資の確保
- 人を増やせない中での運営改善
- 情報管理・DX対応の前倒し
という4つに分けて見ると整理しやすくなります。制度は個別に並んでいても、現場で起きる問題はひと続きだからです。
今回の改定を経営面で読むとき、もう一つ重要なのは、人手不足を採用問題だけで片づけないことです。基本方針では、人材確保に向けた取組として、処遇改善だけでなく、業務の効率化に資するICT、AI、IoT等の利活用の推進 や、タスク・シェアリング/タスク・シフティングが並列に置かれています。
つまり制度側も、人を増やすだけではなく、仕事の持ち方そのものを変える必要があると見ています。
個別改定項目でも、業務効率化に資するICT、AI、IoT等の利活用が独立した項目として掲げられています。
この流れをクリニックに引き寄せると、論点はかなり具体的です。たとえば、受付業務や会計業務をどこまで機械化・省力化できるか、電話対応や予約対応の割り込みをどう減らすか、問診やカルテ入力、説明補助をどこまで標準化できるか、といったテーマです。
今後は、単に「人が足りない」と嘆くよりも、人が足りない前提でどう回すか を設計するクリニックのほうが、制度対応もしやすくなるでしょう。
AIやICTの活用というと、先進的な一部の医療機関だけの話に見えるかもしれません。ただ、今回の改定の流れでは、それらは「便利な追加投資」ではなく、人手不足時代の基本戦略 に近づいています。基本方針でも、AI・ICT等を活用した医療DXの推進が、安心・安全で質の高い医療の実現や、より効率的・効果的な医療の実現に重要だとされています。
もちろん、すべてのクリニックが一気に大きなシステム投資をする必要はありません。ただ、少なくとも「紙と電話と属人的運用のまま、何とか回す」という前提は、これまで以上に厳しくなります。AIやICTは独立テーマとして切り離すのではなく、
- 人手不足への対応
- 賃上げを支える生産性向上
- 情報共有の標準化
の延長線上で考えたほうが、実務には落とし込みやすいはずです。
今回の改定は論点が広いため、最初から制度をすべて理解しようとすると、かえって整理しにくくなります。クリニックとして先に作るべきなのは、「解釈」よりも確認リストです。まずは、
- いま上がっているコストは何か
- 賃上げをどこまで織り込めるか
- 現行の業務で人に依存しすぎている部分はどこか
- どの業務をICTやAIで置き換えられそうか
- 制度上の届出や算定要件に何が関係するか
を一覧で出すことが先です。
今回の改定では、制度側も、物価高騰対応、処遇改善、業務効率化、AI・ICT活用を別々ではなく一体で進める方向を示しています。だからこそ、クリニック側も、点数・人事・業務フローを分断して考えるより、経営管理の一枚の表にまとめて確認する気持ちで構造を見直すことが現実的です。
2026年度診療報酬改定をクリニック経営の視点で読むと、最初に確認すべきなのは、物価高、賃上げ、人手不足という現実に対して、制度がどう追いつこうとしているかです。今回の改定は、コスト増を一部補う手当てであり、人材確保を点数だけで支えるのではなく、業務効率化やICT・AI活用まで含めて考えるよう促す改定でもあります。クリニックにとって重要なのは、「どの加算が取れるか」だけではなく、
物価高への対応をどう吸収するか
賃上げをどう続けるか
人が増えない中でどう回すか を先に整理することです。
そのうえで初めて、個別の算定や届出の優先順位が見えてきます。
次の記事を読む:【実務編】外来・医療DX・処方の運用はどう変わるか|クリニックが押さえるべき2026年度診療報酬改定
本シリーズの記事は、クリニック運営に関するPodcast「院長が悩んだら聴くラジオ(DOCWEB×大西大輔)」で共有された内容をもとに、DOCWEB編集部が再構成したものです。
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DOCWEB編集部(一般社団法人 DOC TOKYO)
DOCWEB編集部は、2016年の設立以来、クリニック運営・医療業務・医療ITに関する情報を中心に、複数の医療機関やサービス提供事業者への取材・情報整理を通じて、医療現場と経営の実務に即した情報整理・比較を行っている編集チームです。
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