中外製薬株式会社 プロジェクト・ライフサイクルマネジメントユニット 科学技術情報部長、石井 暢也様にデータ利活用で進む個別化医療の姿についてお話をお伺いしました。
石井様には、現在公開中の診療所マネジメントEXPOでもご講演いただいています。
※2022年11月1日にCPA EXPOは診療所マネジメントEXPOに名称を変更しました。
診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください
講演タイトル『医療データ利活用推進による個別化医療の推進』
私たち、中外製薬が目指している個別化医療とは何かということや、その背景となる事柄についてお話しさせていただきます。
その上で、個別化医療推進に重要となる様々な医療データ利活用について、海外の事例や日本における課題を交えつつ紹介できればと考えています。
「個別化医療」とはどのようなものでしょうか
従来から個別化医療というキーワード自体はありましたが、徐々に内容自体は変化してきていると思います。
以前は、患者さんの中からあるグループを特定し、その特定された集団に対して効果のある薬剤を提供する、ということが個別化医療の主体でした。
患者さんへのアプローチとしては、個別化と言いながらもどちらか言えば集団として捉えており、薬に効果がある患者さんを選んでいくという性格があったと思います。
一方、現在私たちが目指している個別化医療は、デジタルデバイスなども活用しながら、データ・患者さんの意向(意思)や最新の医学知見・医薬品・診断などの情報を全てを組み合わせ、患者さんに最適な医療を迅速に提供するということです。
単に薬剤の効果がどうだったかというだけでなく、いわゆるアウトカムと言われる患者さんの状態の変化や、患者さんのベネフィットを最大化するという考え方であることがポイントです。
中外製薬はなぜ個別化医療を重要だと考えているのでしょうか
医療業界全体の課題として、医療の効率化が求められています。より低い社会コストで、より高い効果を得られる薬剤をいかに創製していくかがますます重要になってくるでしょう。
また、患者さんにとっても、様々な薬剤を投与された結果、ようやく自分に最適な薬剤が見つかったということは好ましいこととは言えません。
医師としても患者さんとしても、迅速に最適な医療に辿り着けることがベストで、それを目指していかなければいけないと考えています。
中外製薬は選択性の高い薬剤を創製してきた経験に加え、ロシュ社という診断部門も持つ関係会社があり、診断の領域の知見も活用しやすい状況にあります。
特定の疾患に対する個別化医療を推進していきやすい環境が整っていると考えています。
個別化医療を実現するために必要なものは何でしょうか
個別医療の前提として、病気自体をよく知らないと進めることはできません。
まずは病気に対する深い理解が必要だと考えられます。
さらに、その疾患に対して選択的かつ強い効果を示す薬剤も必須ですし、適応する患者さんを臨床の中で選び出すための仕組み作りも必要です。
そのために、実際に薬を処方する医師が情報を持っておかなければいけないので、医療データの利活用が個別化医療において非常に重要な要素となります。
特に、海外ではクリニックを含む医療機関からの電子カルテデータの提供が進んでいる事例もあり、クリニックが担う役割は大きくなっていくかもしれません。
医療現場は日々刻々と変化しているため、大量で質が高く、かつ鮮度の高いデータを収集することが大切だと思います。
また、治療の対象群はどんどん小さくなってくるので、個人情報保護の観点も忘れてはなりません。
「何となく複雑な仕組みだから、個別化医療を実現できない」という状態では意味がないため、医師を支援できるシステムをクリニックを含む医療機関に提供するなど、様々な環境の整備は今後ますます必要になってくると思います。
プロフィール
中外製薬株式会社
プロジェクト・ライフサイクルマネジメントユニット 科学技術情報部長
石井 暢也 氏
1992年に日本ロシュ株式会社に入社し、2002年の中外製薬株式会社とロシュ社との戦略アライアンス開始に伴い中外製薬株式会社に入社しました。10年間は感染症の創薬研究、その後の10年間は抗がん剤の創薬研究に携わってきました。
創薬研究に従事している際、特定の実験モデルに効果を強く示すが、その他の実験モデルには効果を示さないという薬剤候補をいくつか目の当たりにしました。
そこで個別化医療の重要性について認識するようになり、創薬研究を続ける傍ら、個別化医療にも取り組みを開始しました。
その後、個別化医療を標榜するあるプロジェクトのプロジェクトリーダーを任されたことで創薬研究からは少し離れ、個別化医療推進に重点を置くようになったという経緯です。
現在所属している科学技術情報部は、未来の変化に対応するために様々な情報を集め、技術面や環境面などの様々な観点から予備的な対応を行う部署です。
個別化医療はその中でも大きなテーマとして捉えており、今から準備できることを少しずつ進めています。