厚生労働省地域医療計画課にて主査を務めていた谷口大樹様に、2040年に向けたクリニックの役割と理想の医療体制についてお話を伺いました。
谷口様には、現在公開中の診療所マネジメントEXPOにご登壇いただきます。
診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください
講演タイトル『2040年を見据えた医療提供体制の在り方について』
講演では、2040年のような中長期的な将来に向けて予測されている、医療を取り巻く環境についてお話しします。
日本では現在、生産年齢人口の減少、高齢者の増加が進んでおり、病院だけでなくクリニックも含め、地域全体で医療提供のあり方を考えなければなりません。
そうした観点から、データから予測されている将来をご紹介しつつ、その将来に向けた仕組みづくりや現在取り組んでいる課題など、政策面についても解説いたします。
クリニックの先生方に、今後の医療を取り巻くであろう世界を知っていただくことで、少しでもお役に立てればと思います。
2040年頃に高齢者数がピークになる一方で、医療の担い手が急減するといわれていますが、クリニックの役割について教えてください
高齢者の疾病コントロールはかかりつけ医が要
高齢者にとっては、救急医療などの急性期的な医療を提供するよりも、どのように日常的に疾病を管理していくかが重要になる場面の方が多くなりがちです。
高齢者の多くは基礎疾患を抱えており、日常的に医療にかかっている方が多いからです。
こうした包括的な疾病コントロールは、必ずしも大きな病院で行う必要はなく、むしろ身近に診療を受ける環境があることが非常に重要です。
そのため、今後は高齢者数の増加にあたって、かかりつけ医の機能を持つクリニックの重要性が増していくことが考えられます。
一方、医療の担い手不足については、医療現場の生産性を向上させることが課題であり、オンライン診療などICTの役割の重要性も増していくことが考えられます。
オンライン診療は、新型コロナウイルス感染症によって進んだ側面もありました。
2006年のスマホが普及してない頃は、17年後にこのような時代がやってくるとリアルに想像していた方は少ないと思いますが、同じように、2040年には今は当たり前でないものが、当たり前になっていたり、想像もしていなかった新しい技術が出たりする世界は十分あり得るのかもしれません。
医師でもある谷口様が理想とする医療の姿はどのようなものでしょうか
適切な受療行動が患者のためにも臨床現場のためにもなる
まずは患者さんが医療をかかりたい場所かつ、かかるべき場所で受診できる状態が非常に重要だと考えています。
例えば、不要不急な救急外来への受診や救急車の呼び出しなどは未だに多くあります。多くの患者さんが不必要に救急外来に受診すると、医療現場や救急搬送は逼迫してしまいます。これは全体で見ると患者さんのためにもなりません。
患者さんのかかりたい場所とかかるべき場所がしっかりマッチした状態で、行きたいときかつ適切なときに医療を受けられるのが理想です。
また、これまでは、医療提供体制が医療従事者の方々の長時間労働により支えられている側面もありました。
近年は医療従事者の働き方改革の取組も進んでいるところですが、患者さんの適切な受療行動に加えて、医療従事者の負担の軽減も実現できる状況が必要だと考えています。
理想の医療に向けどのように取り組まれていくのか、今後の展望についてお聞かせください
医療提供体制のミスマッチを防ぐためにメッセージを広く届ける必要
2040年に向けた医療体制構築の取り組みは、厚労省だけでなく都道府県などが行政としてしっかり行っていく必要があると考えています。
地域医療構想の取り組みを引き続き進め、医療従事者の働き方改革や偏在対策など医療提供体制の課題に政策面から取り組んでいく必要があります。
また、かかりつけ医機能の制度や整備については、ちょうど今国会で議論が行われているところですが、個人的な意見として、医療のかかり方については、我々政府が国民の皆様にしっかり伝えていく必要があると思っています。
医療提供体制のミスマッチは患者・医療従事者・行政がお互いのことを十分理解していないことからも起こります。
例えば、不要な救急外来の受診を避けるためには、「#8000(※子ども医療相談)」や「#7119(※救急相談)」のような施策としての行政側の裏打ちをした上で、周知・広報活動をしていかなければなりません。
医療提供体制のミスマッチは、患者側だけでなく医療提供側にとっても有益ではないので、行政として、施策の重要性や要請内容を、国民の皆様にしっかりメッセージを伝えていかなければならないと感じています。
プロフィール
(前)厚生労働省 医政局 地域医療計画課 主査
(現)厚生労働省 健康局 結核感染症課・新型コロナウイルス感染症対策推進本部戦略班 主査
谷口 大樹氏
医師として市中病院及び大学病院で2年間勤務した後、厚生労働省に入省し、医政局地域医療計画課にて医療計画や地域医療構想などに、2年間携わりました。
2023年1月より、健康局結核感染症課に異動し、新型コロナ対策などに従事しています。