コロナ禍をきっかけに広まったオンライン診療。今回は、日本遠隔医療学会の理事を兼務する黒木氏に、地域医療におけるオンライン診療の普及についてお話をお聞きしました。
黒木様には、現在公開中の診療所マネジメントEXPOでもご登壇いただいています。
診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください
講演タイトル『開業医のためのオンライン診療 新たな医療サービスの提供と可能性』
講演では、オンライン診療の概要とコロナ禍での経験について、海外の事例を織り交ぜながら紹介します。オンライン診療は対面診療と比較されがちですが、両者を比べるのではなく、新しい診療形態として独自性をご理解していただければと思います。
オンライン診療を導入することで、患者さんは自分の居場所から医療にアクセスできるだけではなく、その他の職種との連携が容易になります。オンライン診療をすでに取り入れている先生や、興味がある先生に講演を聞いていただければ幸いです。
新たにクリニックを開院されたきっかけを教えてください
地域小児医療を引き継ぎ、新たな挑戦へ
これまで地域小児医療のモデルになろうと、千葉県いすみ市のクリニックで診療を行っていましたが、地域小児医療の存続のために、自分が元気なうちに、後輩の医師に引き継ぎました。
クリニックを2023年4月に外苑前青山に新たに開院しました。
新しいクリニックは、『図書館の中にあるクリニック』をイメージしており、白い壁の内装に、2000冊の古典的な児童書や大人の本を用意しています。
院内は鳥のさえずりや小川のせせらぎなどの自然音を流して、リラックスできる空間になっています。私は、子どもや家族は紙の本に親しむことが大切だと考えており、本や物語を通して、健やかに成長してほしいと願っています。
クリニック名は「こどもとおとなのクリニック パウルーム」で、子どもだけでなく親御さんも診て、家族全体にアプローチしようと考えています。また、芸術と医療は共通点があると考えており、南青山にあるクラシックバレエ団とのコラボも行っています。
オンライン診療を受診する患者さんの割合や状況はこの1年でどのような変化がありましたか?
地域の住民や医師に広まりつつある
コロナ禍に、多くの患者さんのオンライン診療を行いました。オンライン診療は、慢性疾患に限定した診療といわれることがありますが、新型コロナ感染症のような急性疾患も、十分診ることができます。
地域の住民や患者さんにも、オンライン診療の認知は広まりましたが、普通の診療形態としての定着は図れていません。また、医師よりも患者さんのほうがオンライン診療を受け入れている印象があります。医療分野に限らず、ネット通販やウェブ会議、オンライン講座などが当たり前になってきたからでしょう。
日本の医学会の中枢部は抑制的
オンライン診療に否定的な先生に多いのが、「対面でないと、患者さんとの信頼関係を築けない」という考えです。そのような可能性も否定はしませんが、だからオンライン診療が駄目というのは、論理が飛躍しすぎています。
例えば、精神医学分野では、アメリカではオンライン診療の論文も多く、導入が進んでいます。一方、日本は、「患者さんと信頼関係を築きにくい」「不適切な医療が広がる」など、学会を中心にオンライン診療の導入に抑制的な立場を取っています。
オンライン診療の効果は、論文で医学的根拠も認められています。私の先輩の精神科クリニックの医師はオンライン診療に取り組んでいますが、医療界の中枢はまだまだ抑制的な姿勢といえます。
日本社会は、現状維持バイアスが強く、皆さん我慢強いことも挙げられます。コロナ禍では、自宅待機で亡くなった方も多くいました。オンライン診療が浸透しているイスラエルでは、自宅待機で亡くなった患者さんはほぼいません。
また、日本は地域医療が充実しているので、わざわざ新しいことを始めなくてもいいという考えもあるかもしれません。
どのようなクリニックにオンライン診療の導入を勧めたいですか?
オンライン診療は全てのクリニックにおすすめ
オンライン診療をすると、かかりつけ医機能を強化できます。
通院が不要になれば、患者さんの利便性も上がりますし、生活の様子を把握しやすくなります。
診療形態の幅を広げたい先生は、ぜひオンライン診療に取り組んでいただければと思います。患者さん側が「今のままでいい」と言っていても、少しずつ進めていくうちに、意見が変わるでしょう。
プロフィール
医療法人社団嗣業の会 こどもとおとなのクリニック パウルーム
院長 黒木 春郎氏
昭和59年に千葉大学医学部を卒業後、小児科医になりました。
現在は小児科学会専門医の傍ら、公認心理師、臨床発達心理士の資格を取得し、千葉大医学部の臨床教授を兼務しています。
大学の教官だった頃、大学病院に入院してる患者さんの経緯に関心があり、初期段階で良い対応をすれば重症化が防げるのではと考えました。
医学は、診療の細分化が進んでますが、臓器や疾患といった分類ではなく、子どもやその家族全体を診ることを希望しました。
地域で自分の想いを実現するために、地域のモデルになるような小児医療に取り組もうと考え、2005年に千葉県いすみ市にクリニックを開業しました。
国内でも小児医療の支援が進んでいる地域ですが、小児科医が少なく、医学的な対応だけではなく地域医療の体制を考えるきっかけになりました。
2016年にオンライン診療が可能になってからすぐに自施設で導入しました。当時は、オンライン診療を行っている医師の集まりがなかったので、自院を事務局に「日本オンライン診療研究会」を立ち上げました。
研究会が全国規模になり、日本医師会や厚労省の方々にも来ていただけるようになり、私自身も遠隔診療の委員会に召致されるに至っています。