医療DX推進の現状と今後の展望について / 千葉大学医学部附属病院 部長・特任准教授 竹内公一

千葉大学医学部附属病院、竹内様に医療現場でのDX推進の現状と千葉大学病院での取り組みについてお話をお伺いしました。
竹内様には、現在公開中の診療所マネジメントEXPOでもご講演いただいています。
※2022年11月1日にCPA EXPOは診療所マネジメントEXPOに名称を変更しました。

診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください

講演タイトル『医療DXの今』
パーソナルヘルスレコードという概念について、医師の皆様が考え直せる機会にしていただければと考えています。

電子カルテとパーソナルヘルスレコードが混合してしまっているケースが散見されるので、その辺りをすっきりさせたいです。
また、オンライン診療や遠隔診療がもう一歩進むためには、医師の課題もありますが、患者さん側の問題にもしっかりと向き合う必要があります。
そんな患者さん側の問題に対処するため、地域スマートコンソーシアムという組織を立ち上げました。
この地域スマートコンソーシアムが何を目指しているのかについても紹介できればと思います。


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現在の医師を取り巻く環境における課題はどんなものがありますか?

医師の働き方改革の推進というキーワードについて盛んに議論されていますが、個人的には慎重に着手していくべき問題だと感じています。

なぜなら、これまでの医療は医師の献身的な働きによって支えられてきた部分も多く、その部分を全て良くないことと断じるのは違和感があるからです。
一方で、医師の働き方改革が議論されているのは「合理的に医師を配置する」、「医師が提供する医療を最適化する」必要性があるから、というのも事実だと思います。
どんな患者さんも、働きすぎで忙しい医師に治療を受けたくはないですよね。
その辺りは実際の現場状況も考慮に入れながら、フレキシブルに取り組んでいくべき課題だと考えています。

例えば、医師が特定の地域に偏在してしまっているという課題に対しても、一概には線引きすることは難しいと考えています。
確かに、単純な患者数との比較の上では医師の数が過剰に見えることもあるかもしれませんが、実質的に医師が余っているということは考えにくいです。
また、新しく開発された医療技術などを導入しようとすると、新たに施設を作らなければいけないケースも多いです。
ですが、医師の数が過剰に見えてしまう地区には、新たな医療施設を作るということができません。
そうなると新しい有用な医療技術が完成されても、医師の数が過剰な地域は逆に取り残されてしまうという格差が発生します。
このように医師の足りない地域、数字上は多く見える地域という区分で無理やり線引きしてしまうと、様々な問題が起こりやすくなるでしょう。
医師の偏在対策については、横断的・広域的に現状を捉えながら進めることが重要になると考えています。

千葉大学病院でのDX施策事例や、今後の展開についてお聞かせください。

元々千葉大学病院では、医療情報管理やセキュリティ対策に注力していました。
そんな経緯もあり、オンライン診療を初めとする遠隔診療をなかなか推進できませんでした。
よって、コロナ禍においてどのように患者さんに安心して治療や薬を提供するかという点に関しても、従来通りの電話とFAXで乗り切ってきました。
この2年間あまり推進できなかった反省を踏まえ、従来DX推進は情報部門の管轄でしたが、この度患者支援部門が主導となり様々な取り組みを開始した段階です。
手始めにオンライン診療はセカンドオピニオンや認知行動療法など、自費診療を中心に取り組んでいます。
まずはそんな通院が難しい症状の診療を統合しつつ、保険診療にも馴染む形にしたいです。

また、難病治療についてもDoctor to Doctorの遠隔治療を活用して取り組みたいです。
難病治療は、患者さんが家の近くのかかりつけの病院に通院しながら、難病の専門医の診療を受けることが理想だと考えています。
その際に、かかりつけ医の存在が非常に大きなポイントとなるはずです。
かかりつけ医は難病について精通している必要はありませんが、難病患者さんが円滑に治療を受けていくための管理方法などは学ばなければなりません。
何にせよ一人の医師・一つのクリニックでは解決しないことなので、複数のクリニックと巧みに連携を取る必要があります。
支援の体制は千葉大学病院主導にて構築するので、開業医の方々も是非積極的にその輪の中に入ってきて欲しいですね。

プロフィール


千葉大学医学部附属病院 患者支援部 部長・特任准教授
竹内 公一 氏

医療を患者さんに円滑にお届けするための仕組み作りや研究を行なっています

自治医科大学卒業後、小笠原諸島の母島にて僻地医療を経験しました。
その後脳血管周囲マクロファージ、記憶生理学などの基礎医学に進んだのち、現在は病院経営・医療政策に関わる業務に携わっています。

所属している患者支援部の主な業務内容としては、千葉大学病院が提供する医療を、患者さんに円滑にお届けするための仕組み作りや研究を行なっています。
勤務中には白衣を着ることもありませんし、診療の場で患者さんと会話することもないです。

具体的な業務の例を挙げるとすると、この2年間はコロナ禍によって医療現場も様々な影響を受けましたよね。
千葉大学病院においても、コロナウィルスの感染が疑われる患者さんへの対応のため、一般診療を縮小しております。
そんな環境のなかで、直接的に診察や診療を行うのではなく、「どのような体制を整えればより多くの患者さんに医療を提供していけるか」を研究することが、患者支援部の仕事です。