医療社団法人ワッフル 事務長の松田邦彦氏に、クリニックにおける事務長の必要性と採用時の留意点についてお話を伺いました。
松田様には、現在公開中の診療所マネジメントEXPOでもご講演いただいています。
診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください
講演タイトル『事務長有り無しの違いと右腕になる事務長の採用要件』
今回は、クリニック経営の成功は事務長にかかっている点についてお話しさせていただきます。
私自身も事務長として過ごした8年半を振り返ったとき、自分の存在価値について自負しております。施設によって事務長の価値は異なりますが、講演を通して、クリニックにはやはり事務長が必要であることをお伝えできればと思います。
また院長先生には、事務長を採用すべきかどうか、採用するときにはどういう人を選べばいいのかについて、イメージしてもらえれば幸いです。
クリニック経営において院長と事務長では、視点や目的にどのような違いがありますか
攻めの院長と守りの事務長で役割を分ける
院長によっても事務長に任せる仕事内容は異なるため、クリニックの数だけ事務長の仕事の範囲は異なります。例えば、事務長でも経営には関わらずに、院長は経営、事務長は実務という風に役割分担しているクリニックもあれば、私のように事務長は現場には関わらずに、経営戦略だけ立てるクリニックもあります。
私の職場の例でみると、事務長である私は医療については素人で、院長はプロの医師という前提があります。
そのため、医学的なアプローチは院長に相談しながら行っていただいて、ヒト・モノ・カネに関するアプローチは、事務長である私が管理やマネジメントをしています。分かりやすく言うと、院長は未来の戦略を、事務長は現在の戦略を立てる感じです。
クリニックの成長を加速させる「デキる」事務長はどのような人でしょうか
仕事に対して真摯であることが大切。時には院長のブレーキ役にも。
一言で言うのなら、真摯な人ですね。クリニックの事務長をされている方の中には天狗になってる人、傲慢な人もいるかもしれません。私自身も、人間なのでミスすることもありますが、素直に謝ることはできます。
あとは、経営と道徳のバランスを保てる人ですね。一般的に、院長は「ここを変えていこう」「こうしたらもっと患者さんが喜ぶんじゃないか」とどんどんアクセルを踏むタイプが多いです。ただ、院長はスタッフと立場が違うので、現場の負担について十分理解していないこともあるため、事務長がブレーキを踏みつつ進めていくことが必要です。
現場には数字を伝えずに道徳的な提案で落とし込む。
私の場合、クリニックの利益がある状態は、自分たちの人徳も積まれていると考えています。ただ利益を数字で考えるのは、事務長と院長が徹すべきだと思います。計画を進める方向性は変えずに、道徳的な言葉を変えて現場に落とし込むこともよく行っています。
例えば、院長と私の間で「クリニックの売上5億を目指す」と考案し、そのまま現場のスタッフに伝えても全く響かないでしょう。私の職場のクリニックは人気でなかなか予約が取れません、「分院を作れば、今困ってる患者さんを助けられる」と言い換えたりできます。「売上5億」という言葉は一切口にせずに、クリニックの数を増やして売上を伸ばせます。
他にも「医師とスタッフを増員して分院を作ろう」ではなく、「クリニックで効率化を図っても、困っている患者さんがまだまだいるので、分院を作ります」という言い方もできますね。
クリニック運営を円滑に進めるための「院長と事務長の関係性」の理想の形を教えてください
基盤にあるのは院長との信頼関係。何でも言い合える間柄を目指す。
院長と事務長の間には、信頼関係が構築されていることが重要です。お互い違う人間であれば視点や立場も異なるので、違う考え方をすることもあるでしょう。そこをどのように真ん中で折り合いをつけるかが、事務長の資質だと考えています。院長の提案に否定ばかりすれば、人間関係も悪くなりますし、肯定ばかりなら、やるべきことができなくなってしまいます。
院長と事務長はお互いにバランスを取りながら、きちんと議論すべきですが、2人の間に尊敬や信頼の気持ちがあるからこそ、話し合いが成り立つわけです。議論が終わったら、仕事帰りに2人でお酒を飲みに行けるような関係性が理想的ですね。
プロフィール
医療法人社団ワッフル 事務長
株式会社ひとのえん 代表取締役
松田 邦彦氏
前職では一部上場企業のコールセンター運営に従事していました。営利を求める仕事スタイルに疑問を持つようになり、8年半前に医療業界へ転職。転職先では医療法人梅華会の構築に奮闘し、現職に至ります。
自社の活動としてドクターマネジメントや医療経営を実施しています。クリニックにおける事務長の存在価値の啓蒙や、事務長からなるコミュニティ「クリニックマネジメントコンソーシアム」を立ち上げ、情報交換の場を提供や質の向上にも注力しています。現在は、事務長の存在価値の見える化を目指して、書籍出版を準備中です。