ICT時代を生き抜くかかりつけ医のあり方 / 東京都医師会 目々澤肇氏

講演公開日:2023/4/9

東京都医師会の理事を務める、目々澤肇様にICTについてお話いただきました。

診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください

講演タイトル『ICT時代を生き抜くかかりつけ医のあり方』
講演では、国が行っている医療ICT化の取り組み、東京都医師会による医療情報連携ネットワークの構築、そしてICT導入の実現に向けたクリニックへのフォローアップについてお話します。診療所マネジメントEXPOで過去にも講演をしていますが、最新のトレンドを織り交ぜてお話できればと思います。

コロナ禍により、ICT導入が急進して東京都医師会が目指していた世界に近づいている一方で、予想外のことが進んでいる状態でもあります。ICT導入は民間ベースの方が速く進みますが、国が関わるようになったことで、かえってペースが落ちた印象です。
クリニックの診療は、病院に患者紹介したりすることも多く、一施設で完結することはほとんどありません。ICT導入は先生にとって煩わしい面もあり、新型コロナウイルス感染症のHER-SYSへの入力に、疲弊している先生も多いでしょう。
他院の医師と関わりのある先生はもちろん、ICTを苦手に感じている先生にも聞いていただければと思います。

東京都医師会でも取り組まれている、ICT導入を推進するに至ったきっかけについて教えてください

ICT化が注目される前から電子データ管理に尽力
1患者1カルテを意識するように

私が取り組んでいた脳卒中の研究では、動物実験のデータをまとめる必要がありましたが、当時はパソコンがなく、メモリテープが回る大きい機械を使用しており、作業が追いつかなかったことを覚えています。パソコンが登場してからは、当時発売間もないノートパソコンでBASIC言語でプログラムを作成し実験データを入れて解析を行っていました。

このように、医療の世界は電子データの管理なしではやっていけません。電子カルテが導入される以前には、患者さんの処方箋についても、オーダリングや電子カルテが導入される以前に大学の外来には教授担当の患者さんをフォローする医師がおり、彼らの負担を減らすためにPCから処方箋を出せるようにしました。

電子カルテが普及した今考えているのは、診療情報提供書や紹介状を電子的に作成することです。医師にとって患者情報はその場で把握したいものですが、患者さんが複数の病院にかかっていると、重複処方に気づきにくい点あります。

次第に、重複診療を防ぐために、1人の患者さんについて1つのカルテを確認し、複数の医師が知恵を寄せ合いながら診療したいと感じるようになりました。一方で、県境をまたぐと電子カルテを閲覧できない問題も知り、色々模索しているときに、東京都医師会からお誘い受け、現在の課題として取り組んでいます。

ICT導入によって目指している「医療の未来」はどのようにイメージされていますか

医療個人情報の共有化が躍進
患者さんと顔の見える関係も大切

私がイメージしているのは、患者さんのスマホには医療情報が入っており、医師が電子カルテを開けばこれまでの診療データを一覧できることにより、最適な診療の選択を行えるような未来です。また、医師が誤った判断をしたらアラートが鳴るなど、AIも関わってくるでしょう。

ただ、医療個人情報の共有化には規約が話題になりますが、個人情報の保護を重視するあまり、患者さんが不利益を被ることはあってはならないと思います。医療個人情報は医師間で共有していくべきだと思いますし、そのようなコンセンサスを国内で作っていかなければなりません。東京都医師会の医療情報検討委員会では、2年ごとに各診療科の医師や有識者を集めて検討をしていますが、答申にも同じ事が書かれています。

もちろん、電子化に一辺倒するのではなく、基本にあるのは患者さんと医師が1対1で顔のみえる関係を維持していくことです。その上で他院の医師にも診療情報が確認できるような情報データの管理ができる未来を目指して、行動できればと考えています。
また、電子カルテのネットワークにつながっていない医療機関でも、患者さんがスマホがあれば診療情報を共有できるようになれば、安全性が高まるのではないかと考えています。

今後の地域のかかりつけ医のあり方はどんなものでしょうか

医療サービスの提供の仕方が個々で異なるからこそ、
新たなクリニックのあり方が求められる

全ての医療機関が同じ方法でサービスを提供できるわけではありません。例えば、コロナ禍により発熱患者の診療には導線を分ける必要がありましたが、入口を増やせないクリニックは、発熱患者を受け入れるには、別途時間を設けなければなりません。そうしたことから、発熱時にかかりつけ医に診てもらえないという問題が発生しました。

また、最近ではWEB予約も増えていますが、風邪や腹痛の患者さなど、1人当たりの受診時間がだいたい決まっているクリニックなら成り立ちます。ですが、私のように慢性頭痛や認知症を診ていると、1人の患者さんを診るのに15~20分はかかります。
そうなると、他の患者さんに待合室で待っていただく必要があり、そこへ予約診察の患者さんが入れば、不満に感じる患者さんも多く、自院のWEB予約をあきらめました。

このように、すべてのクリニックが同じやり方をできるわけではなく、施設によって医療サービスの提供の仕方は異なります。自院を風邪など急性期疾患を診るクリニックにする方法もありますが、それでは地域の皆さんのためにならないでしょう。

医療サービスの提供の仕方が異なる面からも、今後は1人のドクターだけで患者さんに対応するという従来のあり方は見直しが必要だと思っています。

個人的に参考にしたいのは英国のかかりつけ医制度
イギリスにはGP(General Practitioner)という登録医制度があり、地域内の1つの診療所が患者さんの囲い込みをし、小規模の医療圏として機能しています。
イギリスは、日本のように各診療科がバラバラに開業しているのではなく、さまざまな診療科の医師が1つの診療所で働いているので、ある程度の対応が可能になります。
現在の日本のような医療のフリーアクセスはある程度維持していくべきものではありますが、私個人の意見としては、1人の医師ではなく複数の医師が患者さんを診療していくイギリスのモデルは、たいへん参考になるのではと考えています。

プロフィール


東京都医師会 理事
目々澤醫院 院長
目々澤 肇氏

東京都医師会で情報担当の理事をやっております。
専門領域は認知症や慢性頭痛で、江戸川区北小岩で神経内科クリニックを開業しています。
神経内科は救命救急をはじめ、複数の医師と関わる診療領域であるため、以前から医師間のネットワークについて重視していました。
東京都医師会では、医療機関のICT導入や医療個人情報連携ネットワークの構築の推進に取り組んでいます。