保険証利用などで注目を集めているマイナンバーカード。カードと個人情報の連携に賛否両論がある中、医療分野にどのような影響があるのでしょうか。今回は、東京工業大学科学技術創成研究院で准教授をされている小尾高史氏に、マイナンバーカードによる患者本人確認についてお話を伺いました。
小尾様には、現在公開中の診療所マネジメントEXPOにご登壇いただきます。
診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください
講演タイトル『オンラインで患者本人確認はできるのか?-マイナンバーカードとオンライン診療-』
講演では、マイナンバーカードの話を交えながら、医療における患者本人確認の重要性についてお話します。
これまで、患者情報は個々の医療機関にありましたが、今後はあらゆる情報の連携をしなければいけない時代が来ます。そして、患者さんの医療情報のデータベースを参照するとき、本人確認が前提となります。
また、現時点でも、オンライン診療時の本人確認に関する通知が厚労省からされていますが、従来のやり方は課題が多いのが実情です。
マイナンバーカードについては、一部の機能がスマホに搭載されるようになり、上手く活用すれば、患者さん側の書類準備の手間が省けたり、なりすまし予防にも役立ちます。
本講演が今後のクリニック運営の参考になれば幸いです。
マイナンバーカードでの本人確認メリットを教えてください
10年後の未来のために、今から準備が必要
マイナンバーカードの保険証利用は、現時点では不要かもしれませんが、医療の電子化を見据える上で、今から準備を進めなければなりません。10年後やその先の医療を考えると、マイナンバーカードなどで電子的に本人確認をできる仕組みは必要です。
例えば、今後の人口減少に伴い地方のクリニックが減れば、地域の大きな病院の診療とオンライン診療を組み合わせる可能性もあるでしょう。オンライン診療で本人確認をせずに患者さんを診るのは、やはりリスクがあります。マイナンバーカードの保険証利用が叶えば、本人確認はもちろん、電子処方箋もしやすくなるメリットもあります。
日本は医療DXが遅れているといわれていますが、どのような影響があるとお考えですか?
日本は医療制度が情報化の足かせに
医療情報という側面からみると、遅れているというよりも、医療制度が原因でうまく回っ部分が多いのではと思います。政府はかかりつけ医制度を進めていますが、こちらも思ったように広まっていません。
例えば、ヨーロッパの国々では、地域ごとに受診できる医療機関が指定されていることが多いですが、日本はフリーアクセスが基本です。自由に医療機関を選べるのは、患者さんにとっても医療機関にとっても良い制度といえるかもしれませんが、医療情報の取り扱いの観点からみると、良い事ばかりではありません。
検査データや撮影画像、処方箋などの医療情報が、医療機関ごとに分散的しており、患者さん本人も自身の医療データがどこにあるのかを把握することが難しい状況になっています。
本当の意味での医療DX浸透には時間が必要
近年は医療DXが注目されていますが、病院やクリニックが単独で取り組むだけでは、患者さんへのリターンは限定的です。医療情報の利活用は社会全体のサービスとして提供されてこそ、有効活用ができるものです。
特に日本の場合、不信感からか医療情報を一元的に集めることに対して、反対される方も多くいます。海外では、本人の同意の上で医療データを集め、診療に活かされていますが、日本はまだまだ難しいかもしれません。
厚労省では、電子カルテ情報の連携を進めていますが、すべての医療機関を巻き込んで実施するのは、相当な時間がかかるでしょう。
研究を通して実現させたい医療の姿を教えて下さい
PHRを活用すれば個別に健康増進ができる
PHR(Personal Health Record)の利活用のための取り組みが非常に重要と考えています。日本人の平均寿命は約84歳ですが、健康寿命は10年ほど短くなります。寿命を全うするまでの10年間に病気を抱えれば、患者さんのQOLも下がりますし、国の医療費もかさみます。
反対に、健康寿命を平均寿命に近づけられれば、患者さんは幸せな老後を送れます。健康寿命を延ばすために、患者さん自身の医療情報を活用できれば、病気の予防につながる可能性もあります。PHRの研究を通して、疾病予防に貢献できればと思います。
とはいえ、PHRのビジネスモデルが明確になっているわけではなく、誰が仕組みを作って、資金を回して維持するのかという問題があります。現在もさまざまな検討が進んでいるので、様々なリソースを活用しながら、予防医療に取り組んでいきたいです。
プロフィール
東京工業大学科学技術創成研究院
小尾高史 氏
大学では、医療分野の画像処理やデータ解析の研究、一般的な情報セキュリティやネットワーク情報の基盤や仕組み作りに取り組んでいます。研究の応用先は医療分野になるので、医療情報の取り扱いや患者本人確認にフォーカスしています。