国が後押しするPHRの標準化とは / 総務省 山崎敬太郎氏


総務省デジタル経済推進室の課長補佐を務める山崎様に、PHR活用についてお話をお伺いしました。
山崎様には、現在公開中の診療所マネジメントEXPOにご登壇いただきます。

診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください

講演タイトル『総務省の医療情報化への取組』
講演では、総務省における医療情報化の取組やそれと密接に関わる5Gの活用例を中心にお話しします。

現在、総務省では遠隔医療やPHRの推進に取り組んでいます。遠隔医療の研究については、医療過疎地のクリニックの先生にとっても参考になると思います。

また、令和5年度より、医療高度化に資するPHRデータ流通基盤構築事業というものを始めます。これまでは、クリニックの先生がPHRを使いたいと思っていても、アナログでやらざるを得ない状況でした。そのため、本研究ではアプリやスマートウォッチなどの各種PHRサービスと医療現場を技術的につなげる、「データ流通基盤」を構築し、PHRが医療にどのように役立つか研究するものです。
この研究結果を踏まえて、PHRより身近に感じていただき、診察の精緻化や医療の高度化のために活用していただければと思います。

なお、医療分野での5Gの活用は、設備投資が可能な大学病院を中心に行われていますが、クリニックの先生にとっても参考になる事例が出てきていると思います。
医療分野における5Gの事例をご覧いただき、皆様のクリニックでの活用法やその可能性についてご理解いただければ幸いです。


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今後、PHRの活用はクリニックでも当たり前になるのでしょうか

医療DXの推進により、クリニックにとってもPHRが身近な存在に
資金面の課題もありますが、やはりPHRは現場の先生に活用していただきたいと考えています。
現在、政府では医療DXに向けて舵を切っており、医療DX推進本部が設置されるなど、推進に向けて各種の取組みが行われていきます。
これまで、医療機関にとっては扱いが難しかったPHRですが、クリニックの先生方も活用法について理解していくことが大切です。今後はPHRが先生方にとって身近で取り組みやすい存在になります。

総務省が取り組んでいる医療情報化について教えてください

遠隔医療やPHR活用のための基盤づくり
遠隔医療はオンライン診療など色々ありますが、総務省では、ICTを使ってロボットを遠隔操作する遠隔手術の研究開発に取組んでいます。
遠隔手術の普及には、医療従事者向けのガイドラインの整備が必要であり、総務省では日本外科学会と協働して、ガイドラインの整備に取り組んでおります。

さらに、医療情報を取り扱う事業者向けのガイドラインも整備しています。事業者は医療機関と性質が異なりますし、医療情報など極めて高度な個人情報を扱うことになります。そのため、当ガイドラインでは、事業者が医療機関に対し、リスクなどの説明をどのように行うべきかについて記載しております。

また、PHRデータの利活用はこれから非常に重要になってくる取組みです。これまで総務省では介護分野でのライフログデータの活用について研究していましたが、今後は医療分野についても研究していきます。

医療DXは普及が進みにくい
総務省は情報通信、いわゆるICTやデータ利活用の面で、医療分野と関わっています。私自身も、医療施設でのローカル5G実証に関わっていますが、始まりが遅かったためか他分野よりもDXの進みが遅いと感じています。
特に、5GなどのICTは、先生方が利便性を感じても、実際に得られるベネフィットや導入コストがイメージしにくいものです。

医療DXを上手く活用している地域や病院を見ると、とりあえずやってみる姿勢が伺えます。コストがかかってしまいますが、導入してみたら大変便利で、色々なことが実現できて良かったという先生の声も多く聞かれます。

今後の展望についてお聞かせください

医療DXの未来の礎を作る
2022年は「医療DX元年」といわれ、いよいよ医療のDXが動き出しました。医療DXが進むと、PHRのような、患者さんの生活習慣や環境要因など、病院外の情報が容易に入手できるので、より精緻な診断ができるようになったり、またより高度な研究にも活用できるなど、今までできなかったことができるようになったりします。一方で、サイバーセキュリティの課題など新たな問題が出る可能性もあります。

私としては、今後も研究開発、データの利活用等の実証やガイドラインの整備等を通して、医療DXが進んだ未来の社会の基盤を作っていくのがミッションと考えています。

医療情報化に身構える必要はない
恐らく今後は、医療現場でのPHRの利活用や5G等を使った遠隔医療もどんどん進むと思われます。クリニックに近いところですと、例えば地域の医療ネットワークが高度化し、カルテの情報だけではなく、画像などの患者情報も地域の医療機関で相互にどんどん共有されるような社会になるかもしれません。電子カルテも広がっていくことでしょう。

医療のICT化により現場にも恐らく変化が訪れますが、医療の質の向上のためのものですし、身構える必要はありません。特に、医療分野はDXが少しずつ進むでしょうし、5~10年後には大きく変わった未来が開いていくと考えられます。

プロフィール


総務省
情報流通行政局 地域通信振興課 デジタル経済推進室
課長補佐
山崎 敬太郎

デジタル経済推進室は、総務省の中で医療分野を担当している部署です。
医療・介護・健康データを利活用するための基盤を構築・高度化することにより、医療・健康サービスの向上・効率化を図り、「医療DX」を推進することを目的としております。また、医療以外にも、地域の課題解決に資するローカル5Gの普及促進を目的に、各種の実証事業を行っております。ローカル5Gや全国5Gなど5G導入の促進に向けて、一定基準を満たした機器の導入に対する租税の優遇措置(5G導入促進税制)についても担当しています。