クリニック開業前から始めるマーケティング戦略の全体像|診療圏調査からSNS戦略まで

ダンドリ 開業準備で差がつく!クリニック開業前後に押さえるべきマーケティング戦略の全体像

クリニックの新規開業では、医療機器やスタッフの手配だけでなく、「患者に選ばれる仕組み」をどう構築するかが成否を分けます。
近隣の競合とどう差別化し、地域住民から信頼される存在として定着するには、マーケティングの設計が欠かせません。

本記事は、「【完全ガイド】クリニック開業の手順と成功へのロードマップ」シリーズの一環として、マーケティングに焦点をあてた実践マニュアルです。

開業準備から開業後の定着期における診療圏調査からターゲティング、内覧会、Web広報に至るまで、開業前後に取り組むべきマーケティング戦略を段階ごとに体系的に解説します。

診療圏調査は戦略設計の出発点

クリニック開業において、最初に押さえるべきポイントの一つが「診療圏調査」です。これは、開業候補地における患者数の見込みや競合状況を数値で把握し、採算性や差別化の方向性を検討するための基礎資料となります。

診療圏調査の基本計算モデル

診療圏調査の中核となる考え方は、以下の式で表される「想定患者数」の推計です。

想定患者数 = エリア人口 × 受療率 ÷(競合医院数+1)

※ここでの「+1」は、自院を含めた総医院数を意味します。

診療圏調査の活用シーン

この診療圏調査は、次のような場面で活用されます:

  • 開業地の選定:複数候補地の収益性を比較する指標として
  • 金融機関との折衝:事業計画書の裏付けとして提示
  • 採算計画の作成:初年度の来院数や売上見込のベース算出

正確な根拠を示せることで、第三者(金融機関・支援業者など)との意思疎通も円滑になります。

半径設定と診療科による違い

診療圏の設定は「1km圏」「3km圏」といった距離で区切るのが一般的ですが、診療科や地域性によって最適な半径は異なります。

診療圏の半径設定と診療科の違い
診療科 一般的な診療圏半径 補足・前提条件
内科・小児科 約1km 徒歩圏・生活導線上での通院が中心。都市部に多い。
整形外科 約2〜3km 車での通院や介護施設からの紹介が前提となるケースが多い。
婦人科・皮膚科 約1〜2km 都市部では1km、郊外では広めの設定が必要。
自由診療系(美容・AGAなど) 広域(市外・県外も含む) MEO・SEO・SNS広告などのWeb集患を前提とする。

加えて、都市部では徒歩・自転車圏が中心、地方では車移動圏まで視野に入れる必要があります。

必要データの取得元と調査方法

診療圏調査に必要な基礎データは、以下のような手段で入手可能です。

診療圏調査に必要なデータと取得方法
データ項目 取得元・ツール 調査・活用方法のポイント
年齢別人口・世帯数 市区町村統計サイト、e-Stat(政府統計ポータル)、国勢調査 診療圏内の人口構成を把握し、ターゲット層(高齢者・子育て世代など)とのマッチ度を分析。
医療機関の所在地と診療科 Googleマップ、医療情報ネット、地域医師会ホームページ 競合数の把握や診療内容の差別化分析に活用。実際の口コミ・評価も参考にする。
受療率(診療科別) 厚生労働省「患者調査」「受療行動調査」 エリア人口に受療率を乗じて、想定患者数を算出。診療科ごとに大きく異なる点に留意。
競合クリニックの特性 各クリニックの公式サイト、口コミサイト(Google、Calooなど) 診療内容・診療時間・強みの把握により、差別化のヒントや自院の方向性が見える。

特にGoogleマップは、競合医院の位置把握やレビュー内容の確認に有効です。
診療科ごとの競合数をカウントし、周囲の医療供給量とのバランスを見極めましょう。

簡易診療圏調査:個人で行うステップ例

  1. Googleマップで半径1km/3km圏の競合医院をリストアップ
  2. 市区町村の統計ページで対象地域の人口・年齢分布を確認
  3. 厚労省の診療科別受療率を参照し、想定患者数を試算
  4. 競合医院の診療内容・評判を確認し、差別化可能性を検討

    エクセルなどで数値管理すると、金融機関への提出資料にも活用できます。

開業前に構築すべき「選ばれる理由」

診療圏調査を通じて、地域の人口構成や競合状況が明らかになったら、次に行うべきは「誰に選ばれるクリニックにするか」の明確化です。これがターゲティング設計です。

ターゲティングとは「診療方針の軸」を決めること

診療圏調査を通じて、地域の人口構成や競合状況が明らかになったら、次に行うべきは「誰に選ばれるクリニックにするか」の明確化です。これがターゲティング設計です。

ターゲティングとは単に「患者層を決める」だけでなく、それに応じた診療時間、接遇方針、情報発信、導線設計など、経営全体の軸を定める作業です。

例えば、同じ内科であっても以下のように方針が異なります。

ターゲット層別の戦略設計
ターゲット層 具体的な工夫 想定される地域特性
働く世代(30〜50代) 夜間診療・Web予約・LINE通知 都市部の住宅街・駅近
高齢者層 バリアフリー、送迎、家庭医機能の重視 郊外や団地、高齢化地域
子育て世代 キッズスペース・予防接種時間の分離 若年層世帯が流入しているベッドタウン
女性中心 女性医師対応・婦人科併設・相談しやすい環境 都市部や女性人口が多いエリア

このように、ターゲットによって院内設計から予約導線、スタッフ配置、Web発信内容までが変わってきます。

診療形態・診療科ごとのマーケティング戦略の違い

さらに重要なのが、診療科や保険/自費の診療形態により、マーケティング手法そのものが大きく変わるという点です。

保険診療と自費診療の違い

診療形態 主な患者動線 マーケティング手法 特記事項
保険診療(内科・小児科等) 生活圏からの自然流入 MEO・口コミ・診療圏分析・院外看板 通院頻度が高く、地域性が重要
自費診療(美容・AGA等) 比較検討・目的来院 SEO・リスティング広告・LP・SNS 広域集患が前提、価格・症例実績が重視される

診療科別の戦略比較

診療科 主な集患軸 訴求ポイント 補足
小児科 地域口コミ、若年世帯向け発信 予防接種スケジュール、安全性訴求 SNS・ブログでの情報共有が効果的
整形外科 高齢者・施設連携 通院支援、送迎対応 チラシ、地域連携が集患の鍵
皮膚科・美容皮膚科 SNS、SEO 写真での視覚訴求、症例実績 自費比率高め、LPや広告戦略も有効
婦人科 プライバシー・安心感 女性医師・内装配慮・相談しやすさ Web・院内空間の整合性が重要

ターゲット設定に役立つ地域情報の例

以下のような地域特性データを診療圏調査とあわせて活用すると、より実態に即したターゲティングが可能です。

地域指標とターゲティングへの活用
地域指標 意味・参考データ
高齢化率 市町村の年齢別人口統計で確認可能。30%を超える地域では高齢者診療ニーズが高い傾向。
出生数/保育園数 子育て世帯が多いかを把握。小児科・予防接種の需要を測る手がかり。
駅前 or 住宅地 交通導線や生活導線に近いかどうか。働く世代の通院利便性に影響。
商業施設・スーパーの有無 買い物と合わせた受診ニーズの想定(特に高齢者層に有効)。

こうした指標は、市区町村の公開統計やGoogleマップ、地元の再開発計画資料などから把握できます。

開業医が陥りやすい注意点

ターゲットを「幅広く対応」と設定すると、一見リスク回避に見えますが、実際には誰にも響かない無難な設計になりがちです。
マーケティングの基本は「全員を狙うのではなく、誰かに強く刺さる設計」です。

例えば、子育て世代向けに「予防接種は14〜15時に限定」とするだけでも、安心感を提供できます。
同時に高齢者向けに「午前中の早い時間は混雑を避けたご案内」とすれば、二重の差別化が可能です。

ターゲティング設計により選ばれる理由が明確になる

ターゲットが明確であれば、「なぜこのクリニックを選ぶのか」という理由を患者側が自然に理解できるようになります。
これはホームページのメッセージ、院内の動線、スタッフの対応すべてに一貫性をもたらし、信頼とリピートにつながる土台となります。

次章では、こうしたターゲティング戦略を、どのように開業前の広報活動(特に内覧会)に反映すべきかを解説します。

内覧会は認知と信頼のきっかけづくり

開業直前に行われる「内覧会」は、認知拡大のためのリアルな広報手段です。
対象となるのは近隣住民・医療連携先・介護・子育て支援施設・地域の商店など。

目標来場者数と必要印刷物の目安

内覧会の成功は「来場数」と「記憶に残る体験」をどれだけ創出できるかにかかっています。診療科や地域によりますが、目標来場者数は100~300名程度を想定するとよいでしょう。

支援業者や業界の情報を参考にすると、印刷物の必要部数は以下を目安となりそうです。

目標来場者数と必要印刷物
印刷物 推奨部数 備考
院内案内パンフレット 来場者数×1.2倍 予備を含めて用意
医師紹介・診療方針資料 来場者数×1.0倍 信頼構築に直結
診療スケジュール表 来場者数×1.5倍 後日再来院の動機に
クーポン・割引券(自由診療) 任意 目的に応じて活用

ノベルティの選び方と渡し方の工夫

ノベルティはクリニックの印象を左右する重要な要素です。渡し方まで含めて「体験」として設計することで、患者接点を強化できます。

ノベルティの選び方と渡し方
ノベルティの種類 おすすめ例 渡し方の工夫
実用品系 マスクケース、除菌シート パンフレットと一緒に手提げ袋で渡す
季節性ノベルティ 夏:うちわ/冬:カイロ 季節感の演出・SNS投稿素材にも活用
子ども向け キャラクター文具、シール 保護者と一緒に渡し「笑顔写真」を誘導
高齢者向け 爪切り、ポケットティッシュ 受付時に声がけしつつ配布

また、内覧会の様子は後日WebやSNSで発信し、開業後の信頼形成につなげましょう。

開業後は「情報発信の仕組み化」が鍵

開業後は診療業務が中心となるため、広報・集患に使える時間は限られます。
そのため、情報発信の「仕組み化」を行い、少ない工数で集患効果を高めることが重要です。

具体的には以下の施策があります。

開業後の情報発信施策
施策名 概要と活用ポイント
MEO対策 Googleマップにおける上位表示を目指し、ビジネスプロフィールの管理や口コミ対応、定期的な写真更新を実施。
SEO対策 「地域名+診療科名」などで検索されやすいWebサイト構成を行い、ブログ記事で定期的に情報発信を行う。
SNS活用 美容系はInstagram、内科・小児科などはLINE公式など、診療科や患者層に合わせて媒体を選定し発信。
Web広告(SEM) AGAや美容皮膚科など自由診療に向いており、即効性を狙ってターゲット層を絞り込んだ広告配信が可能。

これらを内製で行うか、外部業者に委託するかは、開業医の業務負荷やコスト感に応じて検討が必要です。

MEO運用における口コミ返信マニュアル(簡易版)

Googleビジネスプロフィールに投稿される口コミには、原則すべて返信するのが望ましい対応です。以下に代表的なパターン別の簡易マニュアルを示します。

口コミ返信マニュアル
口コミ内容 返信例(テンプレート)
高評価(★5) ご来院ありがとうございました。今後とも安心して通っていただけるよう努めてまいります。
一般的な評価(★3~4) 貴重なご意見ありがとうございます。より良い環境づくりを進めてまいります。
否定的な内容 ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。個別に対応させていただきますので、よろしければご連絡ください。

SNS投稿スケジュール例(週1×3媒体)

SNSは開業前からの継続運用が理想です。以下は最低限のスケジュール例です。

SNS投稿スケジュール例
媒体 投稿頻度 内容例
Instagram 週1回 院内の雰囲気、医師の紹介、季節の装飾などの写真投稿
Facebook 週1回 内覧会情報、診療時間のお知らせ、地域イベントとの連携情報
X(旧Twitter) 週1回 短文で診療案内、健康豆知識、予約状況などを発信

投稿には「クリニック名+地名+診療科」のハッシュタグを付け、検索性を意識します。写真はスタッフの顔が写らない範囲で「リアルな日常感」を演出するのがポイントです。

継続的な発信のための自動化・外部連携

開業初期はとくにリソースが限られるため、情報発信を継続するには「自動化」や「定型化」が有効です。

  • 予約システムからLINE配信と連携し、リマインドや案内を自動化
  • Googleビジネスプロフィールの口コミ返信テンプレート活用
  • SNS投稿を週1回分まとめて予約投稿
  • ホームページ更新・ブログ執筆を専門業者に依頼

マーケティング活動を「人手で頑張る」のではなく、「仕組みとして回す」発想が、長期的に安定した運営へとつながります。

おわりに

クリニック経営において、集患・認知・信頼は診療の質と同じく重要な柱です。
診療圏の見極めから差別化、内覧会、Web対策、そして自動化まで、開業医が実行可能な施策を段階ごとに整理しました。

マーケティングは専門的すぎて取っつきにくい印象もあるかもしれませんが、「知っていれば得をする」構造になっています。
本記事が、開業を目指す医師の方にとって、合理的な判断材料となれば幸いです。

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この記事の執筆監修者

DOCWEB編集部(一般社団法人 DOC TOKYO)

DOCWEB編集部は、2016年の設立以来、一貫してクリニック経営者の皆さまに向けて、診療業務の合理化・効率化に役立つ情報を発信しています。
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