
クリニック開業における実務的な行政手続きの時系列
クリニック開業の申請は複雑に見えますが、ざっくりと下記の流れで進んでいきます。
- クリニックの工事・設備が完了したら、保健所に「診療所開設届」を提出
- 厚生局に「保健医療機関指定申請書」を提出
- 医療審議会を経て保険医療機関指定へ(保険医療機関指定通知書・医療機関コードが届く)
ここに、「X線」「有床設備」といった設備の申請や、「生活保護」「労災」などの公費負担医療機関の申請、「労働保険」などの雇用にかかわる申請、地域医師会への申請などが必要になります。
また、事業を始めるための税務署への申請、消防法に基づく防災管理者の講習などの事前準備も必要です。
賃貸・ビルでの一般的な申請の進め方は、以下の通りです。
開業半年~5か月前 | ・保健所で開設の事前協議を開始 ・防災管理者講習・事前協議 ・医師会入会申し込み |
4か月前~ | ・厚生局で保険医療機関指定の事前協議を開始 |
2か月前~1か月前 | ・各機関へ申請書類提出(下記一覧参照) ・公的負担医療機関についての事前協議 |
開業月 | ・医療機関コードが届いたら口座開設 ・公的負担医療機関申請 |
申請の流れの全体を捉えつつ、次項から必要な書類をチェックしていきましょう。
保健所に提出する申請書類一覧
提出書類の名前 | 提出先 | 注意点やポイント | 関連する法律 |
---|---|---|---|
診療所開設届(医師または歯科医師個人による開設) |
保健所 |
・開設日から10日以内に提出 ・構造設備基準に適合が必要 ・事前相談(平面図や必要書類の準備)が推奨 ・届出手数料は無料 |
医療法第8条 |
診療所開設届(医療法人等による開設) |
保健所 |
・医療法第7条に基づく開設許可が必要 ・開設許可希望日の15開庁日前までに申請 ・構造設備基準を満たす必要あり ・申請手数料:19,000円 ・開設後10日以内に診療所開設届を提出 |
医療法第7条 |
有床診療所の開設 |
保健所 |
・入院設備の工事完了後に診療所使用許可申請書を提出 ・医療法第27条に基づき都知事の許可が必要 ・病床設置について事前相談必須 ・検査後、許可を得た後に入院設備を使用可能 |
医療法第27条 |
診療用X線装置備付届 |
保健所 |
・装置備付日から10日以内に届出 ・放射線防護図を添付 ・設置後、実査を受ける必要があります |
放射線安全管理法 |
麻酔管理者免許申請書 |
保健所 |
・麻酔診療施設に麻酔施用者が複数いる場合に必要 ・手数料: 4,600円 ・現金またはキャッシュレス決済可能 |
麻薬及び向精神薬取締法 |
感染症指定医療機関(結核)申請様式・手続等 |
所在地を管轄する保健所 |
・原則オンライン申請 ・公費負担医療は指定日以降に実施可能 ・変更内容に応じた手続が必要(例:名称変更、所在地変更) ・辞退後の再申請は遡及願を添付 |
感染症法および結核予防法 |
診療所使用許可申請書 |
保健所 |
・入院設備を設置する場合に必要 ・事前相談と施設基準適合が必須 ・許可後に使用可能 |
医療法第27条 |
巡回診療実施計画書 |
実施場所を所管する保健所 |
・実施日の10日前までに提出 ・提出部数は実施地域により異なる |
医療法関連規定 |
厚生局に提出する申請書類一覧
提出書類の名前 | 提出先 | 注意点やポイント | 関連する法律 |
---|---|---|---|
保険医療機関・保険薬局指定申請書 |
地方厚生(支)局 |
・公的医療保険の適用を受けるために必要 ・社会保険及び労働保険への加入状況確認あり ・記載例(PDF)を参考に記入 ・申請は窓口提出が推奨(郵送も可能) ・手数料: 無料 |
健康保険法第65条1項 保険医療機関及び保険薬局の指定並びに保険医及び保険薬剤師の登録に関する省令第3条 |
保険医・保険薬剤師登録申請 |
地方厚生(支)局 |
・医師、歯科医師、薬剤師が公的医療保険の適用を受けるために必要 ・省令様式での申請が推奨 ・申請書記載例(PDF)を参考に記入 ・手数料: 無料 ・主に勤務される医療機関・薬局を管轄する地方厚生(支)局に提出 |
健康保険法第71条 保険医療機関及び保険薬局の指定並びに保険医及び保険薬剤師の登録に関する省令第11条 |
生活保護指定医療機関申請 |
関東信越厚生局(同時申請の場合) 福祉事務所(指定医療機関のみの申請の場合) |
・保険医療機関と指定医療機関を同時申請する場合は、関東信越厚生局を経由 ・指定医療機関のみに関する申請等は、福祉事務所に提出 ・訪問看護ステーションや助産機関等も福祉事務所に申請 |
健康保険法 |
地区医師会に提出する申請書類一覧
提出書類の名前 | 提出先 | 注意点やポイント | 関連事項 |
---|---|---|---|
医師会入会申込書 |
地区医師会(大学医師会を含む) |
・日本医師会会員になるには、都道府県医師会会員である必要あり ・入会手続きは地区医師会で行う ・入会審査前に日本医師会と情報を共有 |
日本医師会、東京都医師会、地区医師会 |
母体保護法指定医師指定申請書 |
地区医師会 |
・新規申請: 10,000円 ・再指定申請: 5,000円(失効後6ヵ月以内の申請が必要) ・申請は所属の地区医師会へ提出 |
母体保護法、指定医師制度、地区医師会一覧 |
労働基準監督署に提出する申請書類一覧
提出書類の名前 | 提出先 | 注意点やポイント | 関連する法律 |
---|---|---|---|
労災保険指定医療機関指定申請書 |
労働基準監督署 |
・労災保険の療養給付を行うための申請 ・必要書類例: 1. 労災保険指定医療機関指定申請書 2. 病院(診療所)施設等概要書 3. 開設許可証の写し など ・指定期間: 3年間(自動更新あり) |
労災保険法施行規則第11条第1項 |
保険関係成立届 |
労働基準監督署 |
・従業員を1人でも雇用する場合に必須 ・新規事業開設や支店設置時に提出 ・必要な記載内容: 1. 事業所の所在地・名称 2. 労働保険の成立年月日 3. 雇用保険被保険者数 ・提出は原則事業所単位で行う |
雇用保険法 |
税務署に提出する申請書類一覧
提出書類の名前 | 提出先 | 注意点やポイント | 関連する法律 |
---|---|---|---|
個人事業の開業届出書 |
所轄の税務署 |
・事業開始日から1か月以内に提出 ・e-Taxまたは書面で提出可能 ・本人確認書類の提示が必要(e-Taxの場合は不要) |
所得税法第229条 |
青色事業専従者給与に関する届出書 |
所轄の税務署 |
・青色申告者が専従者給与を経費に計上するために必要 ・提出期限: 該当年の3月15日まで ・添付書類: 給与規程の写し(必要時) |
所得税法第229条 |
給与支払事務所等の開設届出 |
所轄の税務署 |
・事務所等の開設、移転、廃止の際に提出 ・開設後1か月以内に提出 ・個人事業主の場合、「個人事業の開業届出書」を代用 |
所得税法第230条 |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請 |
所轄の税務署 |
・給与支給人数が常時10人未満の事業主が対象 ・年2回の納付にまとめる特例制度 ・提出期限: 特になし |
所得税法施行令第164条 |
都道府県税事務局に提出する書類一覧
提出書類の名前 | 提出先 | 注意点やポイント | 関連する規定 |
---|---|---|---|
個人事業開始申告書 |
各都道府県の主税局または県税事務所 |
・必要書類は「個人事業開始申告書」のみ ・特定の事業(建設業、運送業など)は別途許認可書類が必要 ・提出方法: 持参、郵送、またはオンライン ・開業届の控えやマイナンバーを添付すると便利 |
各都道府県税条例(例: 東京都税条例) |
消防署に提出する書類一覧
提出書類の名前 | 提出先 | 注意点やポイント | 関連する規定 |
---|---|---|---|
消防計画書 |
管轄の消防署 |
・クリニックの規模や用途に応じて必要 ・添付書類として、建物の平面図や設備仕様書が求められる場合あり ・提出後の審査期間を考慮して早めの準備が必要 ・不備があった場合は再提出が必要になることがある |
消防法第8条、消防法施行規則 |
まとめ
この記事は、主に東京都の情報をもとに作成されています。一部の書類は地域によって書式や提出先が異なる場合がありますので、開業予定地の該当窓口に事前にご確認ください。
また、スムーズでトラブルのない開業を迎えるために、早めに窓口へ相談に行き、手続きや必要書類をしっかり確認しておきましょう。
参考:
東京都公式ホームページ保健医療局
東京都医師会公式ホームページ
厚生労働省東京労働局公式ホームページ
消防庁公式ホームページ
国税庁公式ホームページ
書籍【クリニック開業を思い立ったら最初に読む本 著:岸辺宏一 中澤修二・田邉万人・高橋邦光 編:医業経営研鑽会】
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DOCWEB編集部(一般社団法人 DOC TOKYO)
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