日本の医療に対する見通しは依然厳しく――医師・研究者400名調査にみる経営課題とAI活用の現在地

日本の医療に対する見通しは依然厳しく医師・研究者400名調査(川野小児医学奨学財団)アイキャッチ

公益財団法人川野小児医学奨学財団は、全国の医師・研究者400名を対象に「医師・研究者の仕事・研究に関するアンケート調査」を実施し、その結果を公表した。

本調査では、日本の医療の将来見通しや経営課題、AI活用の現状などが明らかになっている。とりわけ「病院経営の悪化」や「勤務環境の整備の遅れ」といった結果は、これからクリニックを開業する医師にとっても重要な示唆を含む内容である。

本記事では、本アンケート結果をもとに、クリニック経営の視点からポイントを整理した。

調査期間:2026年1月1日~5日
調査方法:インターネット調査
回答数:400名
※調査結果・画像出典:公益財団法人川野小児医学奨学財団プレスリリースより

日本の医療の見通し「明るい」は15.5%にとどまる

「日本の医療の見通しは明るいと思うか」との問いに対し、「そう思う(そう思う+ややそう思う)」と回答した医師は15.5%にとどまった。一方で、「そう思わない(あまりそう思わない+そう思わない)」は55.3%と半数を超えた。

医療の将来に対する慎重な見方が多数を占める結果である。

Q1.日本の医療の見通しは明るいと思いますか。 [単一回答]
Q1.日本の医療の見通しは明るいと思いますか。 [単一回答]

最大の課題は「病院経営の悪化」

日本の医療の未来についての課題(複数回答)では、

  • 1位:病院経営の悪化(62.3%)
  • 2位:医療従事者の勤務環境・勤務体制の整備の遅れ(55.0%)

がいずれも過半数を占めた。続いて「医療従事者の不足」(44.5%)、「社会保障費の増加」(43.5%)が挙げられている。

経営悪化、人材不足、勤務環境整備の遅れなど、経営基盤に直結する課題への懸念が強いことがうかがえる。
開業医にとっても、診療報酬改定や人件費高騰、人材確保難といった経営課題への対応力が重要であることを示唆する結果である。

Q2.日本の医療の未来について、課題に思うことは何ですか。 [複数回答]
Q2.日本の医療の未来について、課題に思うことは何ですか。 [複数回答]

今後重点的に支援すべき分野は「地域医療」と「デジタル化・AI」

今後重点的に支援・発展させるべき分野としては、

  • 地域医療・へき地医療(23.0%)
  • 医療のデジタル化・AI技術(21.8%)

が他項目を大きく引き離して上位となった。

地域医療体制の強化と並び、医療DX・AI活用が今後の中核テーマと認識されていることがわかる。

Q3. 日本の医療において、今後最も重点的に支援・発展させるべきと考える分野はどこだと思いますか。[複数回答]

医師に求められる資質は「知識・技術」と「コミュニケーション能力」

「今後さらに必要となる資質・能力」では、

  • 医学の知識と技術(50.8%)
  • コミュニケーション能力(49.0%)

が約半数を占めた。
また、「問題解決力」は2024年調査の6位(19.3%)から2026年は3位(27.5%)へと上昇している。デジタル化やAIの進展を背景に、複雑化する医療環境へ対応する力が重視されつつあると考えられる。

クリニック経営においても、医療の質に加え、患者対応力や組織運営上の課題解決力が重要であることを裏付ける結果といえる。

Q4.医師にこれからさらに必要となる資質や能力はなんだと思いますか。 [複数回答]
Q4.医師にこれからさらに必要となる資質や能力はなんだと思いますか。 [複数回答]

医師の約3人に2人がAIを活用、約9割が今後に期待

すでに66.0%が医療・研究でAIを活用

AIの活用状況については、医師・研究者の66.0%が医療現場や研究にAIを活用していると回答した。

主な活用用途は以下の通りである。

  • 診断補助(35.8%)
  • 医療・研究データの分析(30.0%)
  • 臨床疑問の解消(25.3%)

診療支援だけでなく、データ解析や情報収集など幅広い用途で活用が進んでいる。

Q5. 現在、AIを医療現場や研究にどのように活用していますか。[複数回答] 
Q5. 現在、AIを医療現場や研究にどのように活用していますか。[複数回答] 

今後のAI発展への期待は89.7%

後のAI発展について「期待している」と回答した医師は89.7%にのぼる。

特に期待が高い分野は、

  • 画像診断の精度向上・病変の早期発見(62.3%)
  • 診断の標準化(40.0%)
  • 医療データの解析・活用(34.5%)

であった。

一方で、不安や課題としては、

  • 誤診時の責任の所在が不明確・法整備が追い付いていないこと(43.3%)
  • 診断における信頼性の担保が難しいこと(39.3%)
  • 導入・運用コストの負担(35.3%)
  • 情報漏洩等のセキュリティリスク(34.0%)

が挙げられている。

AI導入は期待と不安が併存しており、法整備や責任分担、セキュリティ体制の整備が今後の論点となる。

Q6.今後の医療・研究におけるAIの発展について、期待していることは何ですか。 [複数回答]
Q6.今後の医療・研究におけるAIの発展について、期待していることは何ですか。 [複数回答]

Q7.今後の医療・研究におけるAIの発展について、不安や課題に感じていることは何ですか。 [複数回答]
Q7.今後の医療・研究におけるAIの発展について、不安や課題に感じていることは何ですか。 [複数回答]

医学研究の課題は「研究費不足」が最多

日本の医学研究のレベルについては、「高い(高い+やや高い)」が39.0%、「普通」が37.3%であり、約8割が「普通以上」と評価している。
しかし、研究環境の課題としては、

  • 研究費が不足していること(63.3%)
  • 長期・基礎研究には資金が十分に配分されないこと(50.8%)
  • 研究に関わる人材が不足していること(43.8%)
  • 研究時間の確保が難しいこと(40.8%)

が挙げられ、資金面・人材面の課題が顕在化している。

臨床と研究を両立する医師にとって、時間と資金の制約は引き続き大きなテーマである。

Q8.日本の医学研究のレベルは世界と比べて高いと思いますか。 [単一回答]
Q8.日本の医学研究のレベルは世界と比べて高いと思いますか。 [単一回答]
Q9.日本の医療研究について、課題に思うことは何ですか。[複数回答]
Q9.日本の医療研究について、課題に思うことは何ですか。[複数回答]

まとめ:経営強化とAI活用の両立が今後の鍵に

本調査からは、日本の医療の将来に対する慎重な見方が広がっている実態が浮き彫りとなった。一方で、今後重点的に支援・発展させるべき分野として「地域医療・へき地医療」や「医療のデジタル化・AI技術」が上位に挙げられ、現場の医師・研究者が構造的課題の克服と技術革新の両立を強く意識していることも明らかになった。

とりわけ「病院経営の悪化」や「医療従事者の勤務環境・勤務体制の整備の遅れ」が大きな課題として認識されている点は、開業を目指す医師にとっても重要な示唆である。今後のクリニック経営においては、安定した経営基盤の構築、人材確保と持続可能な勤務体制の整備に加え、AIやデジタル技術の戦略的導入、さらにはセキュリティや法的リスクへの対応を含めた総合的な運営体制の構築が求められる局面にあるといえる。

本調査は、医療現場の課題認識と技術革新への期待を同時に示すデータであり、今後の地域医療政策や医療DXの進展、さらにはクリニック経営の高度化の方向性を読み解く上で、重要な指標の一つとなりそうだ。

【企業情報】

会社名:公益財団法人川野小児医学奨学財団
理事長:川野幸夫(株式会社ブルーゾーンホールディングス・株式会社ヤオコー代表取締役会長)
所在地:〒350-1124 埼玉県川越市新宿町1-10-1
設立:1989年12月25日
事業内容(概要):研究助成、奨学金給付、小児医学川野賞、医学会助成、小児医療施設支援、ドクターによる出前セミナー、医師・地域連携 子ども支援助成