クリニック運営に役立つ分院展開―組織を大きくするメリット / 耳鼻咽喉科サージクリニック老木医院 老木浩之氏


医療法人hi-mex耳鼻咽喉科サージクリニック老木医院の理事長を務める老木浩之氏に、分院展開の秘訣や実例についてお話を伺いました。
老木様には、現在公開中の診療所マネジメントEXPOにご登壇いただきます。

診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください

講演タイトル『分院展開で押さえるべきツボと実践例』
講演では、分院展開のポイントについてお伝えします。
分院展開をする上で、一番の課題となるのが分院長の雇用です。医師は他のスタッフよりも扱いが難しいので、苦労することもあるかもしれません。
特に、私は人材育成に注力しておりますので、理由や方法についてもお話しいたします。

開業医が分院展開する場合、経験者から話を聞く機会は少なく、業者と進めるケースが多いです。私の経験談をクリニックの分院展開を検討される上で活かしていただければ幸いです。


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先生が分院展開を始めたきっかけについて教えてください

分院展開により本院の手術件数の安定化を図る
当院は耳鼻咽喉科のクリニックで、本院では短期滞在手術に取り組んでいます。
私の場合、手術件数を安定的に確保するために分院展開を始めました。開業から20年以上経った現在では、2つの分院があり、本院では週3日を手術日とし、年間450件以上の全身麻酔手術を行っています。

振り返ってみると、10年おきに分院展開をしてきましたが、当初はもう少し早い分院展開を考えていました。2つの分院展開では、当初医師の確保ができずに出遅れてしまいましたが皆で力を合わせて現在に至ります。

クリニックの分院展開はどのようなメリットがありますか?

ドミナント戦略で地域での存在感を示せる
分院展開では患者さんの取り合いを避けるために、自院同士をあまり近くに作らないのが常識ですが、当院では、駅前の好立地を確保できた2つの分院は結果的には3院とも互いに近い距離になりました。本院は手術を主に行う施設になってもよいと考えていたので、診療圏のバッティングは覚悟の上でした。

コンビニエンスストアのドミナント戦略のように、あえて店舗を集中させることで、知名度や占有率を上げられます。はじめからドミナント戦略を狙っていたわけではなかったのですが、3院の地域での存在感は大きく、その効果は出ているように感じます。実際に、競合となる新規の医院は長らく出現していません。

組織を大きくすれば、マンパワーの基盤を強化できる
分院展開をすると、クリニックの組織も大きくなります。1つのクリニックを経営するのであれば、スタッフ数はせいぜい10人程度です。ここでスタッフ1人が欠勤すれば、人的資源が10%分落ち、残りの9人でカバーしなければなりません。

一方、分院展開をして、全体のスタッフ数が20人になれば1人欠勤しても失われる人的資源の損失は5%に食い止められます。当院はスタッフ数が50人程いるので、1人欠勤しても人的資源の損失は2%。他のスタッフで難なくカバーできます。産休中のスタッフも常時2人くらいおりますので、人的なメリットも大きいです。もちろん、これは3院が近接しているからこそのメリットです。

また、本院と分院で診療時間や休診日を変えています。
「明日は本院が休みだから、分院で治療を受けよう」「今日は分院へ行き、次回は職場から近い本院へ行こう」など、患者さんの都合で使い分けしていただいています。

先生が目指す理想の医療と実現のための取り組みをお聞かせください

人材の流動化を安定させると、クリニック経営がしやすい
グループ全体の安定した経営を理想とするのなら、大分達成できているかと思います。スタッフが辞めたり、新しく入ったりと、医療系の人材は流動的ですが、安定化を図ればクリニック経営がスムーズになると考えています。
私自身も、医師を含め質の高い人材をスタッフとして配置したいと常に考えています。

分院展開を検討している先生に伝えたいことを教えてください

分院長の採用が一番の課題。医師は他のスタッフ以上にままならないことも。
分院展開をする上で分院長の雇用は一番の課題であり、出発点でもあります。
分院長がいての分院展開なので、離職された場合、人材を確保できなければ分院の存続も危うくなります。つまり、分院長が職場に合わせて動いてくれるということは期待できないので、分院長の個性に合わせて運営側が臨機応変に対応するしかありません。
とはいえ、一定レベルの診療力は不可欠でなので、その見極めは大切です。診療力に目をつぶることはできません。あとは興味深い医療があればできるだけ支援し、気持ちよく働いてもらうことを心掛けています。

幸い分院長にも恵まれ、分院展開後も問題はみられていません。分院を作るだけでも苦労を伴いますが、それ以上に分院長の採用にも力を入れることが大切です。

プロフィール


医療法人hi-mex耳鼻咽喉科サージクリニック老木医院
理事長
老木浩之氏

大阪府和泉市にて耳鼻咽喉科医院を開業しています。
2001年に開業し、その後分院を2院展開しました。
開業から20周年の節目に、記念事業としてクリニック経営に関する著書を出版。
開業医としてクリニック経営をする中で、苦労や失敗など私自身の経験を盛り込んでいるので参考になれば幸いです。