地域医療のプライマリーケアにおけるオンライン診療 / 外房こどもクリニック 院長 黒木春郎

外房こどもクリニック 院長、黒木 春郎 様に地域医療のプライマリーケアにおけるオンライン診療についてお話をお伺いしました。
黒木様には、現在公開中の診療所マネジメントEXPOでもご講演いただいています。
※2022年11月1日にCPA EXPOは診療所マネジメントEXPOに名称を変更しました。

診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください

講演タイトル『オンライン診療が切り開く地域医療の最前線』
オンライン診療というものを当診療所でどのように導入して活用してきたか、特に郡部における地域医療のプライマリーケアとしてどうだったかということをご紹介します。
実際に診療所に導入するのにスタッフへの説得はどのようにするべきか、システム面での準備はどのようにするべきかといった内容にも触れつつ、医療DXが進んだ近未来の医療について、現在の医療との対比を行いながらお話しいたします。


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オンライン診療を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

地域医療に新たな展開を生み出せるのではと感じ2016年から導入しました
講演の中でも触れますが、2016年頃に、オンライン診療システムのベンダーさんがいくつか出てきました。
そのサービスの広告を見て、「これは何か地域医療に新しい展開を生み出せるのでは」と直感したことが導入のきっかけです。
導入への準備としては、やはり院内の様々な業務フローが新しくなるので、スタッフとしての心理的な抵抗は少なからずあったと思います。
なるべく日頃の業務の中に自然に導入できるように、最初の方はスタッフとこまめにミーティングを重ねて情報共有することを心掛けていました。
また、実際に患者さんが利用した声や感想をスタッフにフィードバックすることで、スタッフのモチベーション向上にも努めていました。

医師として、オンライン診療のメリットはどんな点だと考えられていますか?

通院負担の軽減と家での様子が伺える
患者さんにとってもメリットになることですが、まず一番大きい利点はアクセシビリティが大幅に改善するため、通院が確実になることですね。
また、患者さんは家庭からオンライン通話システムを繋ぐので、家での生活の様子がわかることもメリットだと思います。特に当院は小児科なので、診療所で診察している時と比べて、ご家族の方含めてリラックスして診療に臨んでいただけているように感じます。

あとはコロナに感染した患者さんをオンライン診療している際に気が付いたことなのですが、ご家族の方も含めて一度で診察できることは非常にスムーズでした。
コロナはオンライン診療以外にフォローする方法が少なく、感染者は入院か在宅での療養の二択となりますが、実質的に在宅療養は医療サービスとは言えないでしょう。
こういった際にオンライン診療があると医療とつながることができるので、コロナがきっかけでオンライン診療を知ったという人はすごく増えたのではないかと思います。

コロナなどの感染症の他に、今後オンライン診療はどのような分野で有効に働くでしょうか?

継続した治療が必要な疾患や、通院負担が大きい患者さんへの選択肢の一つになるでしょう
アレルギー性鼻炎やそれに対する舌下免疫療法など、日頃目立った症状がなくても、継続して治療しなければいけないものがオンライン診療に適していると考えています。

通院ペースが3ヶ月に1回程度になってくると、なかなか症状の変化も見えにくくなりますし、患者さんのモチベーション維持も難しいため、当院では月に1回のペースでオンライン診療対応しています。
患者さんの属性としては、仕事に多忙な方、子育て世代の方、高齢者で外出が難しい方、介護が必要な方など、通院がしにくい方にオンライン診療は向いているのではないでしょうか。

別の切り口で考えるのであれば、オンライン診療はWebを介してお話しするので、プライバシーに配慮できている側面があると言えます。
そのため、外来では話しにくいこともオンラインであればスムーズに悩みを打ち明けられるというケースも考えられるので、メンタルヘルスの領域にも活用の余地がありそうです。

今後医療DXが進む中で、医師の仕事はどのように変わっていくとお考えでしょうか

患者さんの個別性を見極めた診断技術を磨いていく必要があると思います
こちらも講演でお伝えする内容と重複しますが、問診がAIでできるようになっても、正確な診断を下せるようになるまでには至らないと思います。
というのも、患者さんには一人ひとり個別性があり、同じ咳が出るという症状でも単なる風邪か、喘息の発作が起きているのかはわからないからです。
そういった診断の技術といのうはやはり医師が持ち続けるべきで、医師はその部分を磨いていく必要があるのではないでしょうか。
今後DXが発展していけば、脈拍や酸素飽和度、その他生体情報を入手することは技術的には難しいことではなくなるはずです。
そうなると、病気の前段階で何らかの医療サービスを提供できるようになります。
現在は「病気になってから医療サービスを受ける」という順序ですが、「健康増進のために医療がある」という風になっていくのではないかと考えています。

プロフィール


外房こどもクリニック
院長
黒木 春郎 氏

小児科の専門医として、大学で教官をやっていましたが、2005年に地域のプライマリーケアのモデルを作ってみたいと考え、診療所を開設しました。
2016年という比較的早い段階でオンライン診療を導入し、様々な活用方法を試しながら現在に至ります。