湯沢会計事務所、代表税理士湯沢様に開業医が知っておくべき経営のポイントをお聞きしました。
湯沢様には、現在公開中の診療所マネジメントEXPOでもご講演いただいています。
※2022年11月1日にCPA EXPOは診療所マネジメントEXPOに名称を変更しました。
診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください
講演タイトル『「開業医」成功までのロードマップ』
開業準備から開業後の3年間は開業医としてのベースになる期間であり、ある程度の成功が見えてくる大事な3年間になります。
本講演では、スタート部分のおおまかなイメージを持っていただいて、成功を手にするためのヒントとしていただきたいと思います。
開業医の先生から、どのような相談を受けることが多いのでしょうか?
成長期の3年間は段階ごとに悩みが生まれる
相談されることは、開業の段階によってある程度決まってきます。
例えば、開業前は莫大なお金がかかるのに本当に開業できるかどうか聞かれることが多いですね。
事業は「ヒト・モノ・カネ」と言われていて、要するに設備投資などをしてお金が生まれてくるのは開業した後なんです。だけど、事業を起こす前は逆で、「カネ・モノ・ヒト」です。まずお金を調達して設備投資を行い、人を雇って回収していく形になるので、まずお金が借りれるかどうかという話しになります。
それから、どのぐらいの事業計画で設備投資や事業展開をしていけばいいかを聞かれるわけです。
開業後ですと、患者が来るのか、たくさん来てもらうためにはどうしたらいいか相談されます。
患者数が増えるとスタッフとのトラブルが出始め、マネジメントに関する相談が増えてきます。
だんだん収入も増えて利益も安定してくると、税金が高いので節税をするにはどうしたらいいのかといった相談を受けますね。
経営が安定するまで、3年が一つの目安になります。
どこのクリニックでも開業してから3年間は患者さんが伸びていき、成長の3年間があります。
そのあとはだいたい安定期に向かっていきます。
経営者意識の有無で、開業医人生の歩み方にどのような違いが生まれますか?
経営感覚があるとより大きな成功を掴める
医科は民間の会社に比べて、圧倒的に開業の成功率が高いです。
歯科は競争が厳しいので必ずしも大成功するとは限りませんが、医科に関しては概ね成功できます。なかでも、経営感覚のある先生はより伸びますね。
クリニックは大きな手術もしませんし、患者さんに対して診察、検査、薬の処方、病院の紹介をするのが主な仕事で、病院のように手術をするわけではないので医者としての技量の差はそんなにでません。
ただ、医療法の改正や診療報酬の改定など、対応しなければならないことが様々出てきます。
例えば、新型コロナウイルスが流行った時に多くの先生が新型コロナウイルスに罹患した患者さんを受け入れないなかで、発熱外来を行った先生は今すごく収入が伸びています。要するに、有事のときに右に行くのか左に行くかの経営判断はとても大事です。
多くの先生とお付き合いしてきて、経営感覚のある方は”判断力”がありますね。
正しい判断ができるのは医師自身の力も大事ですが、我々のような情報提供やアドバイスを行う人間の技量も問われます。開業は普通にやっても成功しますが、経営感覚のある先生は、より大きな成功を掴んでいくと感じています。
経営パートナーとなる税理士との上手な付き合い方をお聞かせください
税理士が経営者意識を持って医師と付き合うことが大事
医師が経営のパートナーとして上手く付きあうというのは、正直非常に難しいですね。
というのも、税理士は一般的には事務作業に追われいて、経営者意識を持てている人が割と少ないと思うんです。
私は、社員に経営者意識をもたせるために自分が経営している感覚を伝えていますし、お客さんが抱えている問題や目指しているものに対してどういうお手伝いをすればいいか意識するように言ってます。
私自身は、経営者でもあるので経営者の感覚が分かるのですが、全ての税理士に経営者の感覚を持たせるのは難しいのではないかと思います。
会計事務所と契約している先生方からは、会計処理はしっかりしているけど提案がないとか、相談してもピンとくる答えが返ってこないという相談をよく受けます。
ただし、税理士の側からすると記帳を全くしないで領収書を丸投げしている状態で「相談にのってくれない」と言われてしまうと対応が難しいです。
それは先生だけが悪いのではなく、税理士にも責任があると思います。
税理士がきちんと記帳指導してないために、結果として税理士のやることが増えて忙しくなり相談に乗れていない悪循環に陥ってるところもあります。
税理士が経営者意識を持って医師と付き合うことで、医師にとっても我々にとっても全体としての満足度が上がっていくと考えています。
湯沢先生の今後のビジョンをお聞かせください
変化の波に対応できるサポートが重要な仕事
開業医のパートナーとしての経験やノウハウを、事務所や同業の税理士さん達に伝えていきたいと思っています。
医療の世界は不況にも強く、通常の民間のビジネスと比べると安定しています。
ただ、財源の問題が大きいです。少子高齢化で生産人口が減っていき、日本は税収が今後少なくなることが予測されています。現に国債の発行は、世界の中でも突出して大きく、税収で国の費用をまかなえていない状況です。
そのようななか高齢化で病気になる人が多いことや医療技術の進歩もあり、医療費は年々増えていて実は医療は成長産業と言えます。ただ、国民が平等に良い医療を受けさせるためには、よりお金が必要で財源の問題は解決されていません。2年に1度の診療報酬改定など、いろんな形で医療費を抑えこもうという政策も行われています。
社会の変化にどう対応していくかが、医療機関の大きな問題です。
特に病院は椅子取りゲームのようになっているし、いずれはクリニックでも同様の状況になる可能性もあります。成長産業ではあるもののいろいろな変化の波が来るなかで、その波を乗り越えるお手伝いをしていくことが我々にとっても重要な仕事だと考えています。
プロフィール
湯沢会計事務所
代表税理士
湯沢 勝信 氏
1992年に医療専門特化事務所として湯沢会計事務所を開業し、主に医師・歯科医師の先生方のサポートをさせていただいています。
開業する先生方のご相談を受け、開業場所の選定から資金調達・事業計画書の作成・内装設備、医療機器など各種会社のご紹介や、採用のお手伝い、開業にあたっての広告活動など広く開業に関するお手伝いをさせていただいてます。
責任開業ということで開業が成功しないと我々は開業後に顧問料を末長くいただくことはできないので、責任をもって開業のお手伝いをさせていただいています。開業コンサルタントは開業しておしまいという形が多いと思うのですが、我々は開業前からお手伝いして先生が開業している限り一生お付き合いさせていただく気持ちでやらせていただいています。