マーケティングに基づいたクリニック経営とは

齊藤 達矢(さいとう たつや)

妙典さいとう耳鼻咽喉科院長

兵庫医科大学医学部卒業。順天堂大学医学部大学院医学研究科修了。博士(医学)。順天堂静岡病院 耳鼻咽喉・頭頸科 助教、順天堂医院 耳鼻咽喉・頭頸科 助教、順天堂練馬病院 耳鼻咽喉・頭頸科 外来医長を経て、2014 年に妙典さいとう耳鼻咽喉科を開院し、院長に就任する(現在、順天堂大学医学部耳鼻咽喉科学講座 非常勤助教)。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、補聴器適合判定医、補聴器相談医など様々な資格も保有。市川市内の小学校校医としても活動し、地域に密着した医療活動に尽力している。


「私たちは、皆様の心のよりどころとなるような、“ 地域のほっとステーション” を目指すことを理念に掲げています。」

2014 年に千葉県市川市の妙典駅前で開業された「医療法人社団順誠会妙典さいとう耳鼻咽喉科」。同クリニックは開業から約2 年半が経過し、患者数は順調に増加しており、多い日には300 名を超えるようになっている。なぜ、これほど順調に患者数が伸びているのか、その秘訣について齊藤達矢院長に伺った。

ターゲットを絞ったことが成功の要因

―開業時よりスムーズに患者様が増えた要因は何だとお考えですか?

開業前の診療圏調査では、1 日当たり35 名程度という低い数字でした。駅前立地であり、人口が増加している地域にも関わらず、低い調査結果でしたので、開業当初から「マーケティング」に力を入れようと考えたのです。診療所候補地の立地を自分の目で確かめるため、10 回以上は現場に行きましたね。駅から降りてくる地域住民の動きを見て、これは“イケる”と確証を持ちました。また、若い世代が多い地域であることがわかったので、ネットに力を入れようと考えたのです。

診療所経営において、患者数が多いに越したことはありませんので、一般的にはターゲットは広く取りたいと考えてしまいます。しかし、私はあえてターゲットを子供と、その家族を対象に絞ることにしたのです。院内の内装も個人的な好みとしてはシックなものが良かったのですが、子供受けのするフレンドリーな優しいものにしました。その効果もあって、現在の患者構成は子供たちとその親の世代が大半を占めています。

クリニック経営におけるウェブサイト運営の重要性

―マーケティング活動としてどのようなことに取り組まれましたか?

まずは患者様にクリニックの存在を知ってもらうために、Web サイト制作に力を入れました。サイトの構築は、一回作ってそれでお終いではなく、日々手を入れて更新しなくてはいけないと思っています。なので、開業して2 年半が経ちますが、今でもサイトの運営について打ち合わせを毎週行っています。今後は、メインサイト以外のサテライトサイトをどんどん増やしていく予定で、季節ごとに見てもらうコンテンツも増やしていこうと考えています。

私たちは、皆様の心のよりどころとなるような、地域の「ほっとステーションを目指す」ことを理念に掲げています。ですから、できるだけ地域住民が通いやすいクリニックにするために、サイトのデザインや表現についても工夫して、(サイト訪問の)心理的なハードルが低くなるように努めました。特に好評なのは医師の似顔絵イラストです。子供にとって病院は、怖くて行きたくないところです。そうしたイメージをできるだけ払拭しようと思いました。

また、患者さんに、どんな症状の際に受診したら良いのかを伝えることも大切です。ホームページではもちろん、来院された患者さんに副鼻腔炎や突発性難聴などの症状を解説した冊子を手渡ししています。これにより、来院のハードルを下げ、リピートにつながっているのだと思います。

「電子カルテの操作全般をクラークに任せることが可能になり、私は診療に専念できるようになりました。」

事務作業全般をクラークに任せることで診療に専念

―患者さんに対して大切にしていることは何ですか?

できるだけ患者さんが待つことなく受診して欲しいと考えています。患者さんは待たされるだけで「病院は嫌なところ」と思ってしまいますからね。また、患者さんの大切な時間を犠牲にしてはならないと、常に思っています。

そうした待ち時間の問題を解決するために医師の隣にクラークを配置しカルテ入力作業を任せることで、医師が診療に集中してスピードアップを図ることを考えていたので、開業当初よりクラークを配置するためのレイアウトも準備していました。開院後も患者数の増加に伴って「待ち時間は患者さんのためにはならない、どうにかして待ち時間を短縮できないか」と強く考えるようになりましたね。

―クラークの配置・育成はどのように行いましたか?

医局の先輩からクラークの育成プログラムがあることを聞き、早速申し込みました。そのプログラムは、院内の受付スタッフに「カルテの記載方法」「耳鼻咽喉科の診療パターン」「医療用語」などについて教育するもので、まずは4 名のクラークを育成しました。その結果、電子カルテの操作全般をクラークに任せることが可能になり、私は診療に専念できるようになりました。そのおかげで診療時間の短縮も図れましたし、待ち時間の短縮にもなったと思います。

―スピードアップのために他に、どんなことに取り組んでいますか?

2016 年春からは、さらなるスピードアップを目指して、混雑する曜日は、医師2名による2 診体制をとっており、クラークはそれぞれの医師に配置しています。

また、非常勤医師が電子カルテを操作するのは、教えるのも、慣れるのも難しいのですが、クラーク運用を採用することで、この負担がほとんどなく、非常勤医師が診療に専念できています。クラーク運用は、このように非常勤医師の電子カルテ操作のサポートとしても有効なようです。今後は、医師の増加に合わせて、さらにクラークを育成し、最終的には常勤医師2 名、クラーク4 名体制にする予定です。

さらに、問診を受付でしっかりとることも、診察時間のスピードアップにつながっています。できるだけ、受付で患者さんの症状のヒアリングを行い、私がすぐに診察・処置に取り掛かれるようにすることが重要だと思います。そうすれば、患者さんにとっても同じことを何度も聞かれないし、診察時間が速くなるので、待ち時間も減っていくと考えます。

加えて、診察は速くても患者満足度が下がらないように、受付、看護師、医師の役割分担を明確にして対応しています。現在、14 人のスタッフがいますが、そのうち5 人を受付に配置し、積極的に問診をとってもらっています。 問診票(図1 を参照)も初診用、再診用(ひと月以内、ひと月以降)と毎回、精密な問診が取れるようにしています。

齊藤医師は、問診票についても工夫することで、診療時間の短縮や、患者さんの利便性の向上につな げている。右の問診票を見ても分かる通り、部位ごとに発症時期が分かるようにしたり、症状を選択式にして答えやすくしたりするなどの工夫が施されている。

「地域から支持されるクリニックになるためには、患者さんとのコミュニケーションが大切だと思います。対話を持ちながら丁寧に対応することが、地域から信頼いただけるクリニックを作るためには必要と考えています。」

患者とのコミュニケーションを重視する

―そのほかに、具体的な工夫はありますでしょうか?

「風邪は耳鼻科で診ます」と駅の看板などでお知らせしたことも、患者増につながっています。風邪は通常は内科を受診すると思われますが、そこを耳鼻科でも診てくれるんだとアピールすることで、患者さんの意識が変わったのだと思います。

また、風邪の患者が多いことでスピードアップにもつながっています。これは、選択と集中の問題なのですが、自分の専門を明確にすることと、クリニックで対応困難な患者さんは紹介状を書いて、周辺の総合病院に紹介することにしたのです。ここでも、紹介状は患者さんが帰るまでに作ることを実践しています。そうすることで、紹介状を受け取るだけに、別日に来られることのないようにしています。

―どのような診療スタイルのクリニックを目指していますか?

私どもの理念にあるように“ 地域のほっとステーション” になれればと思います。そのためには、患者様との距離を縮めるために、威圧的にならないことと、優しく丁寧に話すこと、通院回数をなるべく少なくすることを実践しています。あまり長期間通い続けるのも大変ですし、頑張って通おうとしても、医師やスタッフの雰囲気が良くなければ、きっと患者さんも通うのが嫌になってしまうと思うんです。

また、お子さんの治療に関しては、親御さんにも病気をしっかり理解していただいて、生活上、気を配っていただくことも重要です。そのため、特殊な治療をする場合には、疾患説明用の冊子などを使って、少し時間をかけて説明しています。

もう一つ非常に重要なこととして、地域から支持されるクリニックになるためには、患者さんとコミュニケーションが大切だと思います。コミュニケーションには、様々な方法があります。当院で取り組んでいるホームページやリーフレットもその一つです。来院する前、来院中、来院後、コミュニケーションはずっと続いているんです。その一瞬一瞬を、対話を持ちながら丁寧に対応することが、地域から信頼いただけるクリニックを作るためには必要と考えています。

最後になりますが、スタッフにも非常に恵まれていると感じます。本当にいいメンバーが集まってくれました。だから、スタッフが辞めてしまうような状況が一番のストレスになります。結婚や妊娠など、どうしてもクリニックのスタッフは入れ替わりがありますので、できるだけ患者さんの対応の質を損なわずに、そして、スタッフの負担にもならないように、適正と思う人員配置よりも少し多めの体制にしていますね。


妙典さいとう耳鼻咽喉科

市川市の妙典駅に直結した耳鼻咽喉科。最新の設備はもちろんのこと、キッズルームも完備。ベビーカーや車イスでもそのままクリニックに来院できるなど、快適で清潔な環境の下、スタッフ全員が心のこもった診療に努めており、地域に密着した経営によって地元住民からの信頼が厚い。

  • 住所:〒272-0111 千葉県市川市妙典4-2-12
  • TEL:047-390-3387
  • アクセス:東京メトロ東西線「妙典」駅徒歩30 秒

妙典さいとう耳鼻咽喉科 Website

http://saito-jibika.com/