
標準型電子カルテとは何か?なぜ注目されているのか
政府主導で進む「標準型電子カルテ」とは?
厚生労働省が推進する「標準型電子カルテ」は、全国の医療機関で患者情報を共有することを目的に整備される、クラウド型の電子カルテです。国際標準規格であるHL7 FHIRに準拠し、医療機関同士のスムーズな情報連携を可能にします。
この標準型電子カルテは、主に200床未満の中小病院や無床診療所を対象とし、診療情報提供書・退院サマリー・健診結果報告書など、3文書6情報の共有を軸に設計されています。
開発を担うのはクラウド企業「FIXER」
2024年4月、デジタル庁は株式会社FIXERに対して、標準型電子カルテの設計・開発を正式に委託しました。同社はクラウド基盤構築に強みを持ち、生成AI「GaiXer」を活用した医療DXの共同研究(順天堂大学と連携)でも注目されています。
FIXERが開発する標準型電子カルテは、2025年度に無床診療所向けの試験運用(α版)を開始予定であり、将来的には全国の中小医療機関に拡大していく方針です。
従来の電子カルテとの違い
比較項目 | 標準型電子カルテ | 従来型電子カルテ |
---|---|---|
提供主体 | 国(開発委託:FIXER) | 各社の民間ベンダー |
対象施設 | 無床診療所・中小病院(200床未満) | 制限なし(大病院含む) |
運用形態 | クラウド型(政府主導) | オンプレ・クラウド型 |
準拠規格 | HL7 FHIR(国際標準) | ベンダー独自仕様が多い |
情報連携 | 全国医療情報プラットフォームと標準接続 | 原則、院内完結型。オプションや別システムで施設間共有 |
機能拡張 | 最小限機能 | 需要別に多機能な製品が多数存在 |
将来対応 | 全国連携・診療報酬改定・AI活用に対応予定 | ベンダーごとに対応方針が異なる |
厚生労働省の狙いと全体スケジュール
標準型電子カルテは、「医療DX令和ビジョン2030」の中核に位置づけられた国家戦略の一部です。
この令和ビジョンは、医療の質と効率の向上を目的に政府が打ち出した総合的なデジタル化政策であり、そこに含まれる「データヘルス改革」は、電子カルテ情報の標準化や全国医療情報プラットフォームの整備といった具体的な制度・技術基盤づくりを担う実行パートです。
2024年度: FIXERが標準型電子カルテのα版システム開発に着手。無床診療所を対象とした最小構成で設計が進められています。
2025年度: α版を用いた試験運用が開始。連携可能な診療所を対象に、限定的な導入で実運用をテストします。
2026年度以降: 共通算定モジュール(診療報酬の自動計算エンジン)を含む機能拡張が行われ、全国医療情報プラットフォームとの本格接続が進められます。
2030年までに: すべての医療機関で標準型電子カルテまたは同等の規格準拠システムの導入完了を目指す国家計画が進行中です。
この計画は、診療報酬改定の効率化、マイナ保険証、電子処方箋など、複数の医療DX政策と連動して進行しており、単なるIT導入ではなく、医療提供体制そのものの変革を促しています。
電子カルテ情報共有サービスとは?
全国医療情報プラットフォームを構成する中核機能のひとつで、医療機関間で診療情報を安全に共有できる仕組みです。2023年度から段階的に運用が始まり、患者の診療履歴を他院でも参照できるようになります。
3文書6情報が共有されることで、重複検査や処方ミスの防止、災害時の適切な医療提供が可能になります。
閲覧にはマイナ保険証を通じた患者同意が必要で、今後は画像やバイタルなど共有範囲の拡大も予定されています。
医療の質と効率の両立を目指す医療DXの中核施策として注目されています。
標準型電子カルテα版の提供開始と今後の展開
こうした全国連携に向けた第一歩として、政府は2025年3月より「標準型電子カルテα版」の提供をモデル事業として開始します。対象は無床診療所で、診療科を問わず共通の業務に対応する最小限の機能を中心に構成されています。
α版は、以下のような特長を備えています。
- 全国医療情報プラットフォーム(電子処方箋、資格確認、電子カルテ情報共有サービス等)とのクラウド間連携
- WebORCAクラウド版とのAPI接続によるレセプトコンピューター連携
- 紙カルテとの併用運用も想定し、移行期の入力負荷を軽減するインターフェース
- 外注検査システムとのJAHIS規格によるデータ連携
- SOAP形式の診療記録や診療情報提供書の電子共有機能
さらに2025年夏には、第2弾としてフル電子カルテ型の機能も順次追加される予定です。
この標準型電子カルテは、国が中核機能を担いつつも、民間事業者が提供する各種オプション機能(オンライン診療、通院支援アプリ、UIの拡張など)とのAPI連携を前提とした設計となっています。これにより、標準化と柔軟性を両立した“プラットフォーム型”の電子カルテ基盤として、今後の医療機関における活用が期待されています。
標準型電子カルテの時代、どんな電子カルテベンダーを選ぶべきか?
標準化対応と開発継続力があるベンダーを選ぶべき理由
標準型電子カルテはあくまで「最小限機能」の提供にとどまるため、全医療機関にとって最適とは限りません。厚労省は既存の電子カルテベンダーに向けて、API連携用のモジュール提供も予定しており、今後の選定ポイントは「標準化対応力」にあります。
ベンダーの対応力で特に注目したい点を以下にまとめました。
① 全国医療情報プラットフォームへの接続構想に対応しているか
全国医療情報プラットフォームでは、
「3文書6情報」
(診療情報提供書、退院サマリー、健診結果などの文書と、アレルギー・処方情報などの基本データ)を起点に、医療機関間でのデータ共有を段階的に広げていく方針です。
この連携には、HL7 FHIRという国際標準規格でのデータ形式への対応が求められます。電子カルテがこの仕様に準拠しているかを確認しましょう。
※ 標準型電子カルテだけでなく、民間の電子カルテベンダーでも対応可能です。
② 厚労省が開発中の「API連携用モジュール」への対応見込みがあるか 厚労省は、既存の電子カルテ製品にも全国連携を可能にするAPIモジュールを順次提供予定です。これにより、標準型に限らず民間製品でもデータ連携が可能になります。
- API対応の開発方針があるか
- 公式にFHIR準拠を表明しているか
- モジュール組み込みの実績やロードマップが公開されているか
③ 診療報酬改定や制度変更時のアップデート対応が迅速か 電子カルテ導入後も制度改定や診療報酬対応へのアップデートが必要です。今後は厚労省が共通算定モジュールを提供する予定で、柔軟な更新体制を持つベンダーかどうかが鍵となります。
- 過去の診療報酬改定時の対応速度・方針
- 継続的な開発チーム・体制の有無
- サポート窓口やFAQ更新頻度なども評価ポイント
安価に見える標準型電子カルテも、追加オプションによりコストがかさむ可能性があり、将来的な運用の柔軟性・安全性を確保するためには、ベンダーの「開発継続力」が不可欠です。
クリニック経営を合理化するには?電子カルテだけではない全体最適の視点
これらを部分的に導入するのではなく、「自院の診療スタイルや人員体制に最適な構成とは何か?」を全体設計から考えることで、導入製品同士の“つながり”も強化され、結果として運用の手間・コスト・ミスが減ります。
また、選定するシステムやベンダーについては、電子カルテ単体の機能だけでなく、他システムとの連携性や、自社開発による継続的なアップデート対応力にも注目することが大切です。これらの要素は、標準化や制度改定が進む中での長期的な安心・拡張性にも直結します。
たとえば以下のような周辺業務も、経営効率を大きく左右します。
- 受付・会計の効率化
電子カルテと連携する会計システム(レセコン)をどう選ぶかはもちろん、予約システムやセルフレジなど、受付対応の省人化ソリューションを組み合わせることで、待ち時間の短縮と人的リスクの軽減が図れます。 - 在庫・物品管理の最適化
小さなクリニックでも導入が進むのがクラウド型在庫管理システム。使いすぎ・発注ミスを防ぐことで、医療材料の無駄を抑えられ、収益改善に直結します。 - 患者関係の維持と向上
電子カルテの外にある情報、たとえば予約履歴やキャンセル理由、LINE連携などを可視化できるCRM(顧客管理)ツールを導入すれば、再診率や患者満足度の改善にもつながります。
まとめ:標準型電子カルテに注目しつつ、今できるベストな選択を
政府主導の標準型電子カルテは今後確実に普及しますが、全ての施設に適しているとは限りません。クリニックにとって本当に必要な機能・サポート体制を見極めたうえで、標準化にも柔軟に対応できる体力あるベンダーを選ぶことが、合理的な経営につながります。
今すぐ電子カルテを導入するにしても、待つにしても、まずは「自院の業務に何が必要か」「誰と連携すべきか」を整理し、資料請求や製品比較を通じて最適な選択を行いましょう。
参考
令和5.12.26標準型電子カルテベンダー向け説明会資(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001183270.pdf)
令和7.1.31第3回標準型電子カルテ検討ワーキンググループ資料(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001392965.pdf)
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