はじめに
新型コロナウイルス拡大により緊急事態宣言が再度発出され、
引き続き病院やクリニックなどの医療機関では、厳しい経営状況が続いています。
医療機関を取り巻く経営環境の変化をテーマに4回に渡ってお送りしています。
患者減少時代に重要なこと
前回、長引くコロナ禍の影響から、患者の受診が減っている病院・クリニックが多いことを説明しました。現在、都市圏には3回目となる「緊急事態宣言」が発令されており、再び受診控えの様相が出てきています。また、感染症対策が一般化し、その結果、インフルエンザやかぜ症候群などの季節性疾患が劇的に減っています。このような「患者減少時代」に重要なのは、患者との良質な関係づくりであり、いかに患者をリピートさせるかが大切です。
再受診率に注目する
コロナ以前では、クリニックにとって「新患率」が重要な指標でした。
しかしながら、コロナ禍では患者減少時代。クリニック経営で重要な指標は「再受診率」に変わってきているのです。
開業当初は新規患者の比率が多いのは当然ですが、開業して時が経つにつれて、新規患者の比率は下がっていきます。患者が右肩上がりの時は、おそらく新規患者をどう増やすかという議論ばかりして来たのではないかと思います。新規患者を増やすために、広告やホームページを見直すなど、コストをかけて、患者を増やしてきたのだと思います。
しかし、現在のようになかなか新しい患者の獲得が難しくなった時は、既存の患者に目を向ける時が来ていると言えるでしょう。
新規患者と再来患者の関係
クリニックの患者数は、「新規患者」と「再来患者」の合計です。
毎月、「新規患者」が一定程度来ることは、蛇口をひねり水が溜まる様子をイメージしてください。その水は、毎年大きな貯蔵タンクに溜まっていきます。このタンクに溜まった水は毎月、再来患者として再びリピートされることになります。ここには循環が行われています。
しかしながら、この貯蔵タンクは残念なことに「穴」が空いています。必ず外に漏れ出しているのです。
その理由は、ライバルクリニックへ移ってしまったり、転居されたり、自ら治ったと判断し、来なくなるなど様々です。この穴を完全にふさぐことはできませんが、穴を小さくすることは可能です。
コロナ禍では、新規患者の蛇口が過去のようには開いていません。蛇口が締まっている状態で、このままでは毎月の患者数は当然減っていってしまうのです。そこで、貯蔵タンクの穴をしっかり埋め、再来患者からの循環を起こすことを考える必要があるのです。
再来患者を増やすには?
さて、穴を埋め再来患者を循環させるにはどのようにすればよいのでしょうか。
マーケティングの定説では「新規顧客」の獲得コストに比べ、「顧客をリピート」させるコストは10分の1で済むと言われています。これは言い換えれば、広告やホームページの見直しのようなコストのかかる戦略ではなく、コストをかけずに工夫することで十分患者を増やすことが可能だと言えるでしょう。
次回の目安、次回の予約を取る
まず、穴の原因から考えていきましょう。
原因の一つは、一回受診した患者が次回なぜか来なくなるという問題です。これは患者自身が自己判断して、治癒したと思い、来院しなくなる行動です。
この行動はコロナ禍で「できるだけ受診を控えたい」と考える患者心理のもとで起きやすいのではないでしょうか。本来継続治療が必要な患者が来なくなることは重症化につながり、大変危険です。次回、受診が必要な患者を確実に再受診していただくためには、医師から「なぜ、もう一度受診が必要なのか」をしっかり伝える必要があるのです。また、患者が行動に移せるように「目安」となる日時を何らかの形でお伝えしなければなりません。紙にメモを書くのか、目安の日時を印刷してお渡ししても良いでしょう。
さらに患者が次回も受診を確実にさせるためには、次回の予約を取るのが最も有効です。予約とは、患者とクリニックとの約束ですから、予約することで「再び受診しよう」とする行動力が強まるのです。
不満・不安を減らす
次に、穴の原因のもう一つ、「ライバルクリニックへの移動」を考えてみましょう。
これは患者のクリニックに対する不満そして不安がもたらしています。
クリニックの不満は、多くの患者満足度調査によると
・1位:「待ち時間」
・2位:医師、看護師、受付「スタッフの対応(説明)」
常にこの二つが上位を占めています。
これら不満が多ければ多いほど、患者の来院の意思を弱めてしまいます。不満を解消できなければ、他院への浮気につながってしまうのです。
また、不安を減らすことも大切です。現在のクリニックに対する不安は、感染症の恐怖であり、慢性的に起きている待合室の混雑でしょう。感染対策をしっかり行い、予約システムなどで待合室の混雑を回避するなどをして、患者が安心して受診できる環境を作り出す必要があるのです。
関係性づくり
もう一つ重要な視点は、患者が再び来院するかどうかは、患者とクリニックとの関係性にかかっているという事実です。
関係性が高ければ、再受診の確率は高まっていき、関係性が低ければ他医院へ移る可能性が増えていきます。この関係性は、患者とクリニックのコミュニケーション頻度(密度)と利便性に関係しています。
コミュニケーション頻度を高めるためには、定期的にクリニックからメッセージを送れるようにする必要があります。メッセージのネタは、医師の変更や診療時間の変更、ワクチン接種、新しい医療機器の導入など、クリニックから発信することはたくさんあるでしょう。クリニックから定期的に情報を発信するためには、LINEなどSNSの活用が有効です。プッシュ的に利用できるメディアを活用すると良いでしょう。
また、患者が来院しやすい環境を作り出すことも大切です。
例えば、予約システムやWeb問診、オンライン診療などの導入を行い、患者の受診リスクを最小限にして受診ハードルを下げる必要があるのです。(次回に続く)
プロフィール
大西大輔 (おおにし だいすけ)
過去3000件を超える医療機関へのシステム導入の実績から、医療系の公的団体を中心に講演活動および執筆活動を行っております。また、診療所・病院・医療IT企業のコンサルティング行っています。
2001年 一橋大学大学院MBAコース修了
2001年 医療系コンサル会社に入社
2002年 医療IT総合展示場「メディプラザ」設立
2007年 東京、大阪、福岡の3拠点を管理する統括マネージャーに就任
2016年 コンサルタントとして独立し、「MICTコンサルティング」を設立
2018年 MICTコンサルティング株式会社を設立(法人化)
2019年 一般社団法人リンクア(医院教育)を設立