日本病院経営支援機構、理事長 豊岡 宏様にクリニック経営における事務長の役割についてお話をお伺いしました。
豊岡様には、現在公開中の診療所マネジメントEXPOでもご講演いただいています。
※2022年11月1日にCPA EXPOは診療所マネジメントEXPOに名称を変更しました。
診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください
講演タイトル『クリニック経営における事務長の役割』
私は「病院経営のプロ」であり、また「医療機関経営における事務長の役割は、病院でもクリニックでも基本的には同じ」と考えています。
しかしながら、それでも今回、「クリニック経営における事務長の役割」講演を引き受けるのに際し、事前に、開業5年目の無床診療所の院長先生から「『病院とクリニックの違い』から導かれるクリニック経営のポイント」、開業30年目の有床診療所の院長先生から「『病院とクリニックの違い』 及び『有床診療所と無床診療所の違い』から導かれるクリニック経営のポイント」、この道40年のMR(医薬情報担当者)の方から「『どこよりも多くの患者さんが来るクリニック』になる為の20ヶ条」を、それぞれヒアリングしました。
非常に興味深い内容でしたので、講演の中でそれを述べるとともに、その3つからエッセンスを抽出して「クリニック経営のあり方」としてまとめ、そこから導き出した「クリニックにおける事務長の役割」を結論として述べています。
クリニック経営における院長と事務長の役割分担はどのようなものでしょうか
事務長に求められる役割は3つあります。
医療機関においては、院長のヒエラルキーの下、事務長はこれを助けて、その足らざるを補い、医療機関の経営・運営を全うさせていくことがその使命であり、このことは病院でもクリニックでも変わりません。
しかし、雇われ院長以下の多くのスタッフがいて、その役割分担で組織として経営や医療に取り組む仕組みになっている病院と異なり、クリニックの多くは、オーナー院長の個人商店的な性格を持ち、また医師やスタッフの数も少ないことから、クリニックの経営・運営上のリーダーシップや診療における院長への依存度は、病院とは比較にならないほど高く、またそうでなくてはクリニックはやっていけません。
従って、そういうクリニックにおいて事務長に求められる役割は、
(1)院長がリーダーシップを取れる様、また院長がそのリーダーシップの下で、必要な施策を展開していける様、院長から指示又は相談があった時にはそれに何でも適切に対応できる「忠実な実行者及び優秀なアドバイザーとしての役割」
(2)院長の業務負荷を軽減してより診療業務に専念してもらうために、必要な時には院長に代わって、スタッフの労務管理や医療事務を含む事務処理業務を実行できる「パフォーマンスの高い実務者としての役割」
(3)上記(1)(2)の前提となり、また少人数であるがゆえにその必要度が高くなる職員間のコミュニケーションを心掛け、その人間関係を良好に保ち、情報収集をする努力を欠かさない「風通しのよい職場風土を作るコミュニケーターとしての役割」の3つであると考えます。
クリニック院長の右腕となる事務長の資質を教えてください
良好な人間関係を構築し、診療等、院長にしかできないことに専念できる体制を整備していける人材。
クリニックの多くはオーナー院長の個人商店的な性格が強く、スタッフも少なく、その経営がうまくいくかどうかは院長のリーダーシップ・勤勉性に多くかかっています。
そのようなクリニックで院長の右腕となるべき事務長に求められるのは、(1)院長との良好な人間関係を構築して、これを助け(2)院長が医療等院長しかできないことにより専念できるような体制を整備していくことになります。
そのため事務長には、(1)院長へのリスペクトを常に忘れず(2)人柄は謙虚で院長に寄り添い、院長を立てる形で仕事をやる
(3)最低、医療事務と簿記3級の資格は保有していて医療以外の仕事は何でもでき、またやるような勤勉な人材が望ましいと考えます。
またそのような人材であればクリニックだけでなく、病院の事務長でも十分務まると思います。
事務長や事務職にこれから求められる役割や取組みを教えてください
創意工夫を凝らし積極的に経営に寄与し、マネジメントを担っていくことが求められます。
これからの医療機関経営においては、年々厳しくなっていく経営環境の下、事務長には、理事長・院長を支え、経営を維持・向上させていくために、これまでの「単なる事務の長」から脱して、自ら広く医療機関全体の経営を見据え、「医療機関経営の方法論」を身に着けた「医療機関経営のできる事務長」として、創意・工夫を凝らしながら積極的に経営に寄与し、そのマネジメントを担っていくことが求められます。
また、事務職にあっては、自らもまた医療機関経営に関与していくべく、これまでの事務処理中心の医療職の下請け的な業務から脱却して、自院の経営課題を自ら発見し、データ分析などを駆使し、医療職とコミュニケーションを取りながら主体的にこれを解決していくようになることが期待されます。
将来、日本の医療は、どのような姿になると思われますか
院長、事務長がそれぞれの役割へ、よりシフトしていくことが望ましいと考えます。
日本では、昔から「医療機関の経営は理事長・院長等の医師の経営者が担うもの」とされ、その下にあって事務長の多くは事務処理を管轄する「単なる事務の長」的な存在でした。
しかしながら、長年にわたる診療報酬の切下げ等により悪化する医療機関の経営環境や地域医療構想や感染対策や働き方改革への対応など、医療機関が対処しなければならない課題は今や目白押しで、本来、スぺシャリストである医師の経営者だけでは十分に対応できなくなっています。
また診療報酬が今後更に切り下げられることはあっても上がることが望めない中にあっては、所与の条件の中で「いかに収入を増やしてコストを減らし、医療機関の経営を維持向上していくか」というマネジメントの持つ意味が非常に大きくなってきますが、そのマネジメントは、本来、広範な知識・経験を要する、ジェネラリストである事務長の得意分野でもあります。
従って、これからの医療機関経営では、理事長・院長の下にあって、それをマネジメント面で支える事務長の役割がより大きくなり、その分、理事長・院長等の医師の経営者は、「医療機関の理念を高く掲げて、医療職を束ね、地域医療・医療安全・感染対策・医療高度化等で医療機関を引っ張る」という医師の経営者にしかできないことに、よりシフトしていくことが望ましいと考えます。
そうなっていく最大のカギは「医療機関経営のできる事務長」の育成にありますので、近い将来、「病院経営者・事務長育成塾」の受講生の中から次代の医療機関経営を担う人材が輩出して日本全体の医療機関経営を牽引していくようになること、それが今の私の夢です。
プロフィール
日本病院経営支援機構
理事長
豊岡 宏 氏
私は鉄鋼会社の出身ですが、その傘下の企業立病院の経営再建に派遣されたことがきっかけとなって、それ以降の20年間、「病院経営再建を請け負うプロの事務局長」として、全国各地の病院で、その経営改革・再建・改善に取り組んできました。
事務局長として直接経営再建を達成したのが4病院、その時、同時並行的に引き受けて支援・経営再建したのが2病院ですが、今は経営コンサルタントとして、全国各地の12病院で、その経営改革・再建・改善の支援業務に従事しています。
そうした全国各地の病院での経営改革・再建・改善を実施してきた過程で、「医療機関には、その経営を支え、経営が分かる、経営ができる幹部職員の教育・育成が必要だが、今の日本にはそれをやってくれる教育機関が無い」と痛感したことから、3年前から「病院経営者・事務長育成塾」を開設して自ら「次代の医療機関経営ができる事務長・事務職」の育成に乗り出しています。
具体的には、毎年、全国の公私の診療所を含む医療機関から数十名の受講者を募り、①私が過去20年間の経営改革・再建の経験から得た医療機関経営・運営のための具体的実践的なノウハウ・知識・スキルを「医療機関経営の方法論」として、成功例を引きながら教え、また、②受講生にお互い切磋琢磨・情報交換・相談し合える仲間作りの場を提供するため、学校方式の「毎月1回・1回1日7時間・1年間12回の研修会」を、今はコロナ禍ですから、オンライン方式で実施しています。