#12 クリニック経営冬の時代に事業承継を検討する
Q .これからはクリニックの承継開業が良いと聞きました。本当でしょうか。
A .ケースバイケースです。様々な個別事情を考え自分にとってメリットがあるのかどうか慎重に検討しましょう。
このところ、クリニックの開院を検討されている先生から承継開業と新規開業とどちらが良いのかというご質問をいただくことが増えました。
新型コロナウイルスの感染が拡大した影響で、クリニック経営の環境が厳しくなっています。
先輩の方々からそのような話を聞き、少しでもリスクをとらずに開院したいと考える先生が増えてきているのだと思います。
リスクを少なくするためには設備投資などの出費を減らすことが有効ですので承継開業の方が有利なのではないかと考えることは大変良いことだと思います。しかし、リスクは設備投資額が多いか少ないかだけで決まるわけではありません。
設備投資額が多くてもそれを回収することができ、必要以上の利益を出すことができれば良いのです。
設備投資額の他にも承継クリニックのある場所や構造、今後の人口動態や競合クリニックの状況、スタッフを継続雇用しなければならない時にはその仕事の能力など、様々な面から承継開業は検討する必要があります。
承継クリニックの現在の業績が悪い場合その要因は何なのか、自分が承継することで業績を上げることはできるのか、自分がのぞむ医療を行うために十分な広さなのか、構造が適していなければ改修は可能なのか、その投資額はいくらなのかなど、個別事情にあわせて様々なことを考えなければなりません。シンプルに言えば、自分の目標を達成できるかどうかを判断すれば良いのです。
承継開業は新規開業の一つの手段と捉え、どちらがより目標を達成しやすいのか、より成果を出しやすいのか比較をしながら検討していきましょう。
そのためには新規開業の経営計画を作ることが欠かせません。
それがないと比較することができないからです。まず自分がどのような医療を行いたいのか、どのようなクリニックを作りたいのかを明らかにして、できるだけ具体的なデータで計画を作りましょう。そして良いと思える承継案件が出てきたらその条件をもとに計画を作り、新規開業の計画と比較してどちらが良いのかを判断してください。
クリニックを承継する時には売手と買手が存在します。売手はこれまで長年クリニックを経営してきた先生で顧問の税理士さんなどが窓口になり交渉をします。しかし、買手、承継する側はこれまでクリニックの経営をしたことがなく、財務諸表などもよく理解できないことが多いでしょう。これでは買手が売手に都合の良い条件で話を進められ不利益が発生する可能性があります。
このようなリスクを防ぐためにも経営について最低限理解することができる新規開業の経営計画を作るようにしましょう。
経営計画は以下のように作っていきます。
1.自分に必要な生活費を明らかにする。
2.どのようなクリニックを作るのか具体的に考える。(コンセプト)
3.具体的なクリニックのイメージを基に情報・データをまとめる
クリニックの広さ・建築費・内装費・家賃
導入医療機器・購入費
スタッフの職種・人数・人件費・社会保険料
診療日・休診日・診療時間・診療日数
診療単価・医材料費原価率・検査料率
借入金額・月額返済額
減価償却費、など
4.情報・データを基に経営計画を作る
売上・利益の計算
手元に残るお金の計算
5.生活費を賄うために1日に診なければならない患者数を算出
6.この患者数を診ることができそうかどうか診療件調査や競合クリニックの状況を見ながら判断する
承継案件が出てきた時には売買価格をベースに新規開業と同じような経営計画を作り、売手の様々な条件を考慮しながら新規開業と比較します。新規開業よりも投資額が安いことだけで承継開業を選択することはやめましょう。いくら安くても必要な患者数を診ることができなければ意味がありません。最初に書いたような様々な視点から判断するようにしてください。
また売買価格が適切かどうかも十分チェックしましょう。
承継物件だから新規開業よりもコストが安いだろうと思うかもしれませんが、そうとも限りません。売手の中には少しでも高い価格で売りたいと思う人もいるでしょう。
また、承継物件の仲介をする業者の中にはできるだけ売却価格を高くしようとするところもあります。業者の手数料は売却価格の○○%としているところがほとんどですので、価格が上がった方が自分たちの利益になるのです。こんな業者が存在しているということも理解しておいてください。
承継を検討する上で売手が提示している価格や条件が適切なものなのかどうか、法律的なリスクがないのかなども判断する必要があります。しかし、これを新規開院を検討している人が行うのは困難です。
クリニックの開院、承継開業を検討する時には信頼できる専門家の力を借りることでリスクを避けられる可能性が高まります。早めにそのような方を探して支援を受けることをお勧めします。
プロフィール
近藤隆二(こんどう りゅうじ)
1957年生まれ
医業経営コンサルタント
ファイナンシャルプランナー(CFP)
一般社団法人 医業経営研鑽会 副会長
これまでに200件以上のコンサルティングと、50院以上の顧問契約を締結。決めつけを嫌い、さまざまな状況に応じたフレキシブルなコンサルティングを行っている。
クリニック開業後に苦戦する事例を数多く目にしてきた経験から、よい経営の方法を知らない先生のために、セミナー・執筆活動やブログ、動画セミナー、メールマガジンなどを利用し積極的に情報を発信。
院長先生をはじめスタッフも患者さんも幸せになれる、良いクリニックづくりを陰から支えていくことが役割であり使命。
「人が自分らしく自分の人生を生きる」 ことを実現させる手段として、開院を希望するドクター、開業医のための「クリニック経営講座(動画)」を配信中。