国内初 医師向けオンライン診療手引書が完成

慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室の岸本泰士郎専任講師らの研究グループは、患者が自宅にいながらインターネット回線を通じて医師の診療を受けることができる「オンライン診療」(注1)を行うための手引書を国内で初めて完成させ、Webサイト上で公開した。

精神科領域において、オンラインでも安全かつ高い質の診療を提供するのが目的。
2018 年 4 月からオンライン診療の一部が保険診療として認められるようになったが、開始するための手順や診療の質を保つための医師向けの手引書はなかった。国内初の手引書の完成した事で、精神科だけでなく多くの診療科でオンライン診療を広がれば、さまざまな理由で通院しづらかった患者が医療をより受けやすくなる。

1.手引書作成の背景

テレビ電話等を用いた遠隔医療(注 2)は、2018 年 4 月に医師がテレビ電話で患者を診察する「オンライン診療」の一部が保険診療として認められた。しかし、遠隔医療を法令に従って正しく開始し、安全かつ診療の質を保ちながら提供するための医師向けの手引書(ガイドブック)はこれまでは海外にしかなく、国内普及への課題となっていた。

そこで、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室の岸本泰士郎専任講師らの研究グループが、アメリカ遠隔医療学会(ATA)の協力を得ながら、医師・法律家・技術専門家らと協議を続け、安全で質の高い精神科の遠隔医療を目的とした精神科領域における医師向けの手引書を作成。2016 年度~17 年度に実施された日本医療研究開発機構(AMED)の委託研究の一部として作成された暫定版を発展させる形で完成させた。

2.手引書の概要

手引書は、診療、法律、技術に関する 3 セクションから構成。
診療のセクションでは、遠隔医療を開始するための準備事項、診療の質を保つためのポ
イント、プライバシー保護、緊急時の対処法などについて明記している。医師がそれぞ
れのポイントが満たされているか確認できるチェックリストも設けた。

法律、技術のセクションでは、それぞれ遠隔医療に関連する専門的事項について、医師
が理解しておくべき点についてまとめている。
手引書は Web サイト上で公開されている。(https://www.i2lab.info/tebikisho

3.成果と意義・今後の展開

厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(2018 年 3 月発出)をは
じめ、遠隔医療に関連する法令やガイドラインは数多くあるが(注 3)、膨大かつ難解で、医師が全てを理解するのは困難なことが課題だった。また、これらの法令やガイドラインは、診療内容に根差した医療の質を保つための工夫については触れられていない。今回、手引書の完成により、精神科医療従事者が、遠隔診療を始めやすくなり、安全で質の高い医療を届けやすくなる。

また、手引書が他の診療科の手引書作成の参考となり、遠隔医療が広まることにつなが
れば、様々な診療科の患者にとって遠隔医療がより身近なものになる可能性がある。
手引書はWebサイト等で公表されるほか、最新の事情を反映し定期的に改定していく
ことで、より質の高い遠隔医療を提供していくことが期待される。

【用語解説】

(注1) オンライン診療:遠隔医療のうち、医師ʷ患者間において、情報通信機器を通し
て、患者の診察および診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為をリアル
タイムで行う行為。
(注2) 遠隔診療:情報通信機器を活用し、離れた 2 地点間で行う健康増進、医療、介
護に関する行為。
(注3) 遠隔医療に関連する法令やガイドライン:厚生労働省、総務省、経済産業省から公表されている、医療情報の保護、管理、通信方法等に関する各種ガイドライン、
医師法、医療法等がある。