クリニックを守る就業規則のポイント / 社会保険労務士法人NAGATOMO 長友秀樹


社会保険労務士法人NAGATOMO代表社員、長友秀樹様にクリニックを守る就業規則のポイントについて伺いました。
長友様には、現在公開中の診療所マネジメントEXPOでもご講演いただいています。

診療所マネジメントEXPO講演内容をお聞かせください

講演タイトル『クリニックを守る就業規則のポイント』
以前はクリニックの経営において、労務管理を細かく要請されることはなかったと思います。
ただ、今の時代は労使関係がドライになってきており、職員の権利は非常に厳正に要求されるようになっています。
そんななかでクリニック側としても要求を言われるがままに認めるのではなく、何が権利で義務であるのか職員に何を要求できるのか伝えることが大切です。

職員の定着率が高いクリニックや職場の雰囲気がいいクリニックは、労務管理が明確になっていると感じています。
決して労働条件が他と比べて特別良くなくても、自分たちはどのような労働条件で働くのか事前にわかっていれば安心して働けます。なので、就業規則や雇用契約書をきちんと作っていくことが、結果的には職員さんの定着にもつながっていくと思います。
今回の講演が一つのきっかけになればと思います。


診療所マネジメントEXPOログインページへ

就業規則に関して、クリニックからどのような相談を受けることが多いですか?

クリニックの主張を守るためご依頼をいただくことが多いです
クリニックの経営は一般の会社とは異なる点が多いといえますので、クリニックの特徴に合わせた就業規則を作ってほしいというご要望が多いです。依頼の具体的なきっかけとしては、過度な権利主張する職員さんがいて対応に困っているのでクリニックの主張が守られるような就業規則を作ってほしいと言ったものがあります。
また、問題行動が多い職員さんや言うことを聞いてくれない職員さんに対して、注意をしたいということがきっかけになることも多いですね。注意はするけれども聞いてくれない職員さんがいる場合に取るべき対処に関する根拠となりえるルールを作っておきたいということで、就業規則作成のご相談をいただくことがあります。

就業規則が無いと、どのようなデメリットがあるでしょうか?

就業規則の未整備がトラブルにつながる
就業規則が無いと職場のルールが曖昧な状態になるので、ルールや自分の権利を確認しておきたい職員さんは不安を抱えながら働くことになってしまいます。あとは、ルールが明確化されていないことで、言った言わないというようなトラブルも招きやすいです。
さらに、場当たり的な対応でをしてしまうと職員さんによって扱いの差が生まれ、公平感を欠くことになって後々トラブルを引き起こす可能性もあります。就業規則にルールをしっかり書いておけば「就業規則を読んどいて」で済むわけですし、職員さんも疑問に思うことがなくなりトラブルも未然に防げると思います。

就業規則を作成しているクリニックの割合は、どのぐらいだと感じていますか?

就業規則が機能していないクリニックが圧倒的に多い
統計が無いので実像としてはわかりませんが、私の肌感覚としては、就業規則がきちんと作られているクリニックは全体の2割ぐらいな気がします。
就業規則を作成していない、もしくは作成はしているがその存在が忘れ去られていたり、昔作ったきりその後は何も手をつけられていなかったりと就業規則が機能していないクリニックが圧倒的に多いと思います。

社労士に就業規則の作成を依頼すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?

確かな知識に基づいて正しく就業規則を作成できる
就業規則は院長先生ご自身で作ることもできますが、適切なものを作るのはなかなか難しいと思います。
というのも、就業規則には法律で記載が義務づけられた項目がいくつもあり、まずは必要なことが網羅されているのか認識できていなければいけません。最初から法定記載事項がクリアされているひな形を選んでいただければいいのですが、最新の法律改正に対応していない古いひな形を選んでしまうと法定記載事項を満たせていないことになります。

就業規則は各クリニックの事情に合わせて作るものですが、任意で定めて良い事項もあるので塩梅が難しくなってきます。
法定記載事項や任意の記載事項を正しく知っていないと、変更してはいけないところをアレンジして法律違反になる、逆に独自で定めていいのに変更していないと言うことが起こりかねません。
適切な就業規則を作れるという点が、知識を備えた社労士に委託するメリットになると思います。

就業規則を作成する場合、どのような社労士さんに依頼するといいでしょうか?

クリニック事情に精通した社労士への依頼がベスト
クリニックの事情に詳しい方に頼むに越したことはないです。
社労士は業種にかかわりなく就業規則は作れますが、作成の過程で「他院さんはどうなのかな」「他院さんとかけ離れたことはしたくない」など、いろいろと気になることや思うことがでてこられると思います。
他院さんの一般的な水準を知っている方だと、「ここはクリニックの一般的な水準で決めましょう」「ここは他院さんよりも優遇しましょう」などクリニックの事情に合わせて最適な判断ができます。

また、「他のクリニックでは、こういう規定も入れてますよ」と言うような、院長先生自身が気づいていない提案をされる可能性もあります。ですので、クリニックについて詳しい方に依頼するメリットはあると思います。

プロフィールを教えてください


社会保険労務士法人NAGATOMO
代表社員
長友秀樹 氏

当社は社会保険労務士事務所でクリニックから寄せられる労務相談や職員さんの入退職に伴う手続きの代行、給与計算などを行っています。

顧問業務をメインにしておりまして、その中では先ほど紹介した業務に加えて顧問先様の就業規則の作成も行っているのですが、こちらに関しては顧問外のお客様から単発でお引き受けすることも多いです。特に最近注力しているのが、働き方改革に伴う医師の労働時間規制に関する取り組みです。
現状は医師の時間外労働の上限はないですが、2024年から医師の時間外労働に関する上限規制が始まることになっています。
病院としてどのように対応していこうかと話題になっている問題で、施行まで残り2年を切ってきたこともあり、我々への要請も強まってきている状況です。

医師の労働時間を単純に規制すると、例えば医療過疎の地域や救急医療の現場で医師が働けなくなったら患者さんをどうするのかという問題がでてきます。医療機関側としては、いわゆる医療崩壊を招くのではと懸念しているわけです。我々社会保険労務士は労働基準監督署とは異なる立場に立って、どう関わっていくのか考えなければいけません。

地域医療を守りながら法律も守っていく方法がないのか、病院側に寄り添って一緒に解決策を見出していくことが我々に課せられた役割だと思っています。頑なな法律論を押し付けるのではなく、医療機関や医師に寄り添ってサポートしていくべきだと考えております。