クリニック開業で後悔しないために勤務医のうちに決めておきたいこと|梅岡比俊先生に聞く開業準備

クリニック開業で後悔しないために勤務医のうちに決めておきたいこと|梅岡比俊先生に聞く開業準備
この記事でわかること
  • 物件選びや資金計画の前に決めるべき、診療方針・コンセプトの考え方
  • 勤務医のうちから考えておきたい、採用・固定費・組織づくりの視点
  • 梅岡先生が実際に経験した、クリニック開業後の失敗と後悔

クリニック開業では、診療方針や物件・資金だけでなく、医療提供体制の効率化や地域の中での役割を見据えた準備が求められます。かつてのように

「開業すれば自然に患者さんが集まる」
「走りながら整えればよい」


とは言い切れない今、準備の入口で何を整理し、どの順番で判断するかがこれまで以上に重要になっています。

今回は、医療法人梅華会グループ理事長であり、開業医コミュニティM.A.Fを主宰する梅岡比俊先生に、現役院長・経営者の視点から、クリニック開業で後悔しないために勤務医のうちに考えておきたいことをお聞きしました。

梅岡比俊先生(医療法人梅華会グループ理事長)

取材協力:梅岡 比俊(うめおか・ひとし)先生

医療法人梅華会グループ理事長。開業医コミュニティM.A.F主宰。奈良県立医科大学 MBT特命准教授。主な著書に『経営学を学んでいないドクターのための クリニック成功マニュアル』などがあり、クリニック経営や組織づくりに関する情報発信にも取り組んでいる。

奈良県立医科大学卒業後、勤務医を経て、2008年に兵庫県西宮市で梅岡耳鼻咽喉科クリニックを開業。開業当初にさまざまな医院運営上の課題を経験したことをきっかけに、他業種の経営者の考え方やノウハウを学び、クリニック運営に取り入れる。2011年より分院展開を進め、現在は兵庫県・東京都で計9院を運営。2016年には、開業医がクリニック経営を学ぶ場としてM.A.Fを立ち上げ、より良いクリニック運営の普及に取り組んでいる。

令和のクリニック開業で意識すべき時代変化とは?

ゴーリー
ゴーリー

梅岡先生よろしくお願いいたします。
早速ですが、
最近のクリニック開業をめぐる環境は、以前と比べてどのように変わっているのでしょうか。

梅岡先生
梅岡先生

以前のように、開業すれば自然に患者さんが集まるという時代ではなくなってきたと肌で感じています。
特に深刻なのが「初期投資」と「人」の問題です

初期投資の高騰で開業時の資金負担が大きくなっている 

梅岡先生
梅岡先生

物価高や世界情勢などの影響で建築資材が異常な高騰を見せており、初期投資は以前の1.5〜2倍どころではありません
クリニックビルを新築しようとした際、当初設計士からは3億円少しと言われていた見積もりが、蓋を開ければ7億円と提示されたという非常にシビアな事例もあったそうです。

採用競争は、他のクリニックだけが相手ではない

梅岡先生
梅岡先生

さらに人材採用についても、少子高齢化に加えて、今や大手企業が「初任給30万円」を打ち出す時代です。

私たちの採用の競合は他のクリニックだけでなく、こうした一般企業になっています。保険点数が上がらない中で給与水準を引き上げ、さらに「このクリニックで働く意味ややりがい」をどう提示できるかが問われています。

こうした厳しい環境下で生き残るためには、医療DXによる生産性の向上や、自由診療を含めた新しい価値提供など、医師としての技術以上に「経営者としての手腕」が強烈に求められていると感じています。

後悔しない開業計画は、理想の1週間を描くことから

ゴーリー
ゴーリー

開業を考え始めた勤務医が、最初に整理すべきことはどのようなことですか。
物件や資金の検討に入る前に、診療方針、働き方、生活設計、家族との合意など、先に整理しておくべきことはなんでしょうか。

梅岡先生
梅岡先生

物件や資金の話の前に、まずはご自身の理想の1週間を描いてみることをおすすめしています。

どのような医療を提供したいのかはもちろんですが、

家族と過ごす時間をどうしたいのか、趣味の時間はどう確保するのか。
そうした人生全体の優先順位を整理することが大切です。

私自身、開業当初は365日休まず働き、スタッフにも恐れられる「裸の王様」状態でした。
しかし、自分がどうありたいかを突き詰めた結果、人に任せること(権限委譲)の重要性に気づきました。

勤務医時代とは違い、開業すれば働き方は自分でデザインできます。

だからこそ、何のために開業するのか、どんな人生を送りたいのかという本質的な想いや目的を、一番初めに明確にしておく必要があると思っています。 

開業前に考えたい、コンセプトと診療方針の決め方

ゴーリー
ゴーリー

「なんとなく開業したい」という段階から、具体的な準備に進むために必要な考え方を教えてください。

梅岡先生
梅岡先生

具体的な準備に入る前の、なんとなく開業したいと思い立った段階から、ご自身の想いとして明確に言語化しておくべきだと思います。

よく、理念やコンセプトは後からでも…と思われがちですが、これがないと、いざ物件選びやスタッフ採用の段階で必ずブレが生じます


例えばスタッフを採用する際にも、ただ生活のために働く人ではなく、私たちの想いや提供したい医療に共感してくれる人を集めるためには、トップである院長自身のビジョンが不可欠です。

私はこれを「B to C(消費者向け)」ではなく、ファンを作っていく「B to F(ファン向け)」と呼んでいますが、患者さんにもスタッフにも選ばれるクリニックを作るためには、最初の段階で自分たちが提供する価値は何かを深く掘り下げておくことが大切だと感じています。

失敗談から学ぶ「診療方針・場所・資金」の設計方法

ゴーリー
ゴーリー

場所、資金、診療方針は、どのような順番で考えるとよいでしょうか。

梅岡先生
梅岡先生

必ず「診療方針(コンセプト)」→「場所」→「資金」の順番で考えるべきです。 

実は私自身、過去に大きなしくじりを経験しています。
芦屋で開業した際、地元で見栄を張ってしまい、家賃の高い駅近物件を無理して借りてしまいました。
結果的にドクターが不在になっても重い固定費だけが毎月かかり続け、大変な思いをしました。

公的医療保険の点数は全国どこでも同じですから、固定費が経営を圧迫するリスクは計り知れません。

また、通勤時間が短い場所がいいといったご自身の素直な生活設計の希望に目をつむって、立地条件だけで選ぶと後悔につながります。

まずはどんな医療を、どんなライフスタイルで提供したいかを固め、それに合った場所を選び、そこから資金計画を立てるという順序が、後悔しないコツだと思います。 

勤務医として働きながら開業準備を進めるには?

ゴーリー
ゴーリー

勤務医のまま準備を進める場合、医師本人が必ず決めるべきことはなんでしょうか。
多忙な勤務の中で自分で決めるべきことや、外部に任せた方がよいことはありますか。

梅岡先生
梅岡先生

多忙な勤務医を続けながらの準備は本当に大変だと思います。
だからこそ、すべてを自分で抱え込まず自分にしかできないことに集中する必要があります。

絶対に自分で決めるべきなのは、クリニックの理念や方向性と、それを共に実現してくれるスタッフの採用(最終的な見極め)です。


ここは人に任せられません。

一方で、税務や労務、細かな内装設計などは、プロである外部の専門家に積極的に頼るべきです。

私自身、過去に労務管理の知識がないまま進めてしまい、労働基準監督署から指導を受けた苦い経験があります。

自分の得意ではない実務領域はプロに任せ、ご自身はどんな組織を作りたいかという本質的な決定に時間を使っていただきたいですね。 

勤務医と院長で変わる、組織を動かす視点

ゴーリー
ゴーリー

勤務医と院長では、日々の意思決定の考え方がどのように変わりましたか。
院長になる前に、経営者としてどのような視点を持っておくべきでしょうか。

梅岡先生
梅岡先生

勤務医時代は、目の前の患者さんを自分の技術で救うプレイヤーとしての役割がほぼ100%だったと思います。

しかし院長になれば、そこにマネージャーとしての役割が加わります。

経営者として大切なのは、クリニック全体の利益の最大化を図り、スタッフやその家族の生活を守ることです。
そのためには、自分がいなくても回る仕組みを作る視点が必要です。

私自身、最初は自分が一番できる、と全てを抱え込んでいましたが、スタッフを信じて仕事を任せることで、組織が何倍もの力を発揮することに気づきました。

「自分一人でやる」から「チームで成果を上げる」へ。この意識のシフトこそが、開業前に持っておくべき一番の経営者マインドだと感じています。

 開業準備で迷わない情報収集の進め方

ゴーリー
ゴーリー

情報過多ともいえる現代の、選択・意思決定のコツ、相談相手の選び方を教えてください。

梅岡先生
梅岡先生

今はインターネット上に情報があふれており、一人で調べていると何が正解か分からなくなってしまうと思います。

迷わないためのコツは、まずは実際のクリニックをたくさん見学することです。

現場の動線やスタッフの表情を見ることで、自分の理想とする形が具体的にイメージできるようになります。

また、相談相手の選び方としては、医療業界の常識にとらわれない他業種の経営者や、成功談だけでなく過去の失敗(しくじり)を赤裸々に語ってくれる先輩経営者を見つけることです。

私が主宰する「M.A.F」もまさにそうした知をシェアする場ですが、リアルな失敗から学べることは本当に多いです。
情報に振り回されず、ご自身の理念というフィルターを通して情報を選択するよう心がけてみてください。

梅岡先生から、これから開業を考える医師へのメッセージ

ゴーリー
ゴーリー

最後に、これから開業準備を始める後輩医師に向けて、最初の一歩としてメッセージがあればお願いします。

梅岡先生
梅岡先生

医師という職業は、もともと非常に高い能力と、人や社会に貢献したいという強い熱意を持った方々の集まりです。

一つの病院の中だけに留まらず、開業という選択を通じて、もっと広く地域社会に価値を提供できる無限の可能性を秘めていると私は信じています。

もちろん、開業すれば思い通りにいかないことや、トラブルに直面することもあります。しかし、それらをスタッフと共に乗り越え、自分たちの手で理想のクリニックを創り上げていくプロセスは、何にも代えがたい喜びとやりがいに満ちています。


一度きりの人生です。不安もあるかもしれませんが、ぜひご自身の可能性を信じて、ワクワクする気持ちを大切にしながら、楽しみながら第一歩を踏み出してください。心から応援しています。 

ゴーリー
ゴーリー

梅岡先生、貴重なお話をありがとうございました!