理念を粘り強く話せば、部下は「主体的に」動いてくれて、組織は良くなるのか?
この連載では、組織を成長させるマネジメント方法のベストプラクティスとして2000社以上が導入し、クリニックにも多数導入されている「識学」を解説していきます。識学の視点で「上司」と「部下」の人間関係に悩む全ての院長に対処法や予防法をお伝えします。
今回のテーマは、「理念を浸透させることのみによって、本当に部下は主体的に動いてくれて組織は良くなるのか」という点を考えてみたいと思います。
プロフィール>
株式会社識学 識学講師
早川拓幹
https://corp.shikigaku.jp
株式会社識学にて組織マネジメントのコンサルティングに従事。日々、経営者に組織マネジメントの原理原則を伝え、実践を支援。
前職では、営業部長として寄り添い型のマネジメントを実践するも、組織の成長や部下の成長という観点で疑問を抱き、苦しんだ経験から日々経営者に識学の重要性を伝えている。
法政大学社会学部卒業。
相談内容:理念を粘り強く話せば、部下は「主体的に」動いてくれて、組織は良くなるのか?
組織に理念は必要か?
そもそも、クリニックに理念は必要なのでしょうか?ズバリ答えは必要です。理念には、日々の仕事の「目標を方向付けてくれる役割」があります。では、「目標を方向付けてくれる役割」とはどういう意味でしょうか?健康のためや美しくなるために、筋トレやダイエットに取り組んだ経験がある方もいるでしょう。筋トレやダイエットは辛く感じることも多く、「なんでこんなことしなきゃいけないんだろう?」と取り組みに対して迷いや不安が生じてしまうことがありますよね。でも、健康になるため、美しくなるためという目的≒理念があるからこそ、迷いや不安が低減し、主体的に取り組めるようになるのです。クリニック運営も同じです。スタッフの迷いや不安を低減させ、主体的に動いてくれるためには理念が必要なのです。ただし、院長として押さえておかなければいけない点があります。
理念浸透には注意が必要
理念が浸透すれば、全てのスタッフが主体的に動いてくれるかというと、そうとは限りません。また、理念だけでマネジメントしようとすると、いちいち一つ一つの仕事において「この仕事は理念と照らし合わせて意味があるのか?」と確認することに時間が割かれ、本来やるべきことに集中できない環境になる可能性もあります。
また、スタッフが院長と同じレベルで理念を理解できるというのは院長の錯覚です。なぜなら、院長とスタッフでは視座が異なるからです。そのため、院長がスタッフに理解してほしい理念とスタッフそれぞれの理念に対する解釈がズレて、結果的に理念のアウトプットとしての行動がバラバラになってしまうということが起こりえます。
それを防ぐために、院長が「スタッフ一人一人の解釈を尊重し、気を配り、意見や思いをしっかり受け止める」といったことをし始めたらどうなるでしょうか?それを繰り返していくと確かにスタッフの満足度は上がるかもしれません。ただし、ある弊害が生まれてきます。
理念浸透の失敗例
本来クリニックのトップである院長がやるべきことは何でしょうか?それは、「スタッフの満足度を上げる」のではなく、「クリニックが市場に対して価値を提供し続け、組織として有益性を発揮し続けること」に力を注ぐことです。
それに反して、経営理念を元にスタッフの自己解釈を尊重し、スタッフとのコミュニケーションを密にとり、受け止めることに時間がとられて忙しくなり、本来やるべき仕事に手が回らなくなってしまっては本末転倒です。これはまさに、院長が市場という組織の外側ではなく、内側ばかりに気を取られ疲弊してしまっている状態です。
理念を目標という形に落とし込むのが院長の役割
当然、自社の理念は全社員が知っておくべきことです。ただし、その本当の意味は作った院長にしか理解できないと割り切ってください。院長とスタッフでは、経験が違うからです。院長がするべきことは、スタッフに理解できるまで理念を丁寧に説明することではありません。理念に近づくための目標をスタッフに設定し、それがクリア出来たら評価することです。「皆さんは、目の前の目標を達成することに全力を費やしてください。それがどう理念に近づいているかは皆さんの視座ではわからないかもしれません。ただし、私が責任をもって理念に近づけます。」
これそこが、組織のトップである院長がするべき発言です。目の前の仕事が理念とどうつながっているかということを考えることに時間を費やすのではなく、一番理念を理解しているリーダーが、目標という形でスタッフに落とし込んで、この目標をクリアすることで理念に近づくという状態にすることが得策です。
スタッフが院長と同レベルでの視点を部下が持つことは難しいと割り切り、やるべきことを明確にズレがない目標という形で設定し、部下が集中できる環境を整えてください。
それをどのような順番で構築すればいいのか?具体的にどのような仕組みづくりがいいのかと疑問に思われた方はぜひご相談ください。