#7 クリニックの決算書は経営の羅針盤
Q .クリニックの決算書は年に一度見れば良いでしょうか?
A .クリニックの決算書は少なくとも月に一度は確認してください。課題を早期に発見し対策を打つことが重要です
クリニックの決算書は大変重要なものです。
法律上は税金を計算するために作られるものですが、経営者である院長先生にとっては経営の状態を正確に把握し、課題を見つけ、対策を打つために欠かせない経営の羅針盤のようなものです。医療の世界で言えば健康診断の結果表のようなものだと思ってください。
健康診断の結果が出ると、すぐに内容を確認して、問題がある場合には治療をしたり、再検査をするなど対策を打ちます。しかし、クリニックでは決算書ができても状況を正確に把握せず課題を発見できないため対策が打てていないことがよくあります。その結果、経営状態がどんどん悪化していることがよくあります。
このようなことを防ぐために大切なことが二つあります。
1.院長先生自身が決算書を読み解いて理解できること
一つ目は院長先生自身が決算書(損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書)を読み解いて理解できるようになること。
まず一つ目の決算書を理解することについて説明します。
決算書はクリニック経営の健康診断書のようなものです。
医療の世界では健康診断の結果から患者さんの健康上の問題が何なのかを把握する力が必要とされます。これと同じようにクリニック経営の健康診断結果である決算書から課題が何かを読み解く力が経営者である院長先生には求められるのです。
多くの院長先生はこの決算書を苦手としています。
その原因は、専門用語が多く複雑そうに見える、決算書の作り方がよく分からないことなどでしょう。しかし、細かいところまで知る必要はありません。
健康診断では先生は検査の仕方など細かいことは分からなくても、アウトプットされたデータを読み解いていますね。
これと同じように、決算書の作り方や仕分けの仕方などが分からなくてもデータを読み解く力があれば良いのです。決算書を理解するために、簿記を理解しなければならないと考えている方がおられますが、経営者である院長先生には必要ないことだと思います。
(もちろん勉強されても良いのですが、その時間と労力を他のことに使う方が有効だと思います。)
また、決算書のことは税理士さんに任せているので自分は分からなくても大丈夫という方がいますが、それでは経営は危ういです。
これは健康のことは医者任せにしている患者さんの考え方に似ています。経営の最終責任は税理士さんにとってもらうことはできません。経営者である院長先生が最終責任者になりますので、まずは自分がこれでいいだろうと納得できるレベルまで決算書を読み解く力を備えてください。
2.毎月決算書を確認すること
もう一つは少なくとも月に一度以上は月次決算書を確認し、課題がないかどうかチェックして必要に応じて対策を打つことです。
生活習慣病の患者さんの治療をイメージしてみてください。
生活習慣病の患者さんは放置していると健康状態が悪化する危険性があるので定期的に医療機関を受診し、検査や問診などを行い定期的に状況を把握します。問題がなければ現在の治療や生活スタイルを継続し、問題があれば何らかの対策を打ちます。クリニック経営は生活習慣病予備軍の人の治療に似ています。
放置していると気がつかないうちに経営状態が悪化してしまう危険性があるので定期的に月次決算書で状況を確認する必要があるのです。
経営状態は大体感覚でわかるという方もいますが、売上の傾向などは何となくわかっても細かいところまで全体を把握するのは困難です。
一つの事例で考えてみましょう。
期末に決算書を確認したところ、経費が大幅に増えていて利益が昨年と比べて減っていることがわかりました。
原因は人件費の増加で、人員数は増えていないので残業代が大幅に増えているが原因だとわかりました。残業代が増え始めたのは期の初めの頃で院長先生はこのことに気付いていませんでした。月次決算書を確認していれば、変化に早く気づき、原因を明らかにし、対策を打つことで利益の減少を防ぐことができたかもしれません。
これは一つの事例ですが、他にも様々な経営状態を悪化させる兆候が見えることがあります。
月次決算書を確認することで経営状態の悪化を防げる可能性が広がるのです。医療の世界の早期発見・早期治療が有効であるという考え方と同じですね。
現在の新型コロナウイルスの感染拡大など、これからの時代はどのような変化があるのか想像もつきません。そのような時にこそ月次決算書を継続して確認することの重要性が増してくるのだと思います。
決算書には結果は表されていますが、その原因は書かれていません。原因がすぐにわかることばかりではなく、多くの場合は絞り込みをすることが困難です。原因を探るためには決算書の他にも経営データを継続して把握していく必要があります。どのようなデータをとっていけば良いのか、今後の講座で詳しくお伝えして参ります。
プロフィール
近藤隆二(こんどう りゅうじ)
1957年生まれ
医業経営コンサルタント
ファイナンシャルプランナー(CFP)
一般社団法人 医業経営研鑽会 副会長
これまでに200件以上のコンサルティングと、50院以上の顧問契約を締結。決めつけを嫌い、さまざまな状況に応じたフレキシブルなコンサルティングを行っている。
クリニック開業後に苦戦する事例を数多く目にしてきた経験から、よい経営の方法を知らない先生のために、セミナー・執筆活動やブログ、動画セミナー、メールマガジンなどを利用し積極的に情報を発信。
院長先生をはじめスタッフも患者さんも幸せになれる、良いクリニックづくりを陰から支えていくことが役割であり使命。
「人が自分らしく自分の人生を生きる」 ことを実現させる手段として、開院を希望するドクター、開業医のための「クリニック経営講座(動画)」を配信中。