#11 クリニック経営を充実するための医療法人・M S法人活用法
Q .医療法人やM S法人を作ると有利になると聞きましたが本当でしょうか?
A .ケースバイケースです。医療法人・MS法人のメリット・デメリットをよく理解し、自院の目的にマッチするかどうかを確認しましょう。
クリニックの利益が大幅に出るようになったり、業容の拡大を検討するようになると様々な方面から医療法人やMS法人の設立を勧められるようになります。
そんな時には安易に設立するのではなく目的やメリット・デメリットを十分検討するようにしましょう。
医療法人やMS法人を作ると良いことばかりがあるように考えている方がいますが、決してそんなことはありません。
世の中には設立しなければよかった医療法人やMS法人も数多く存在しているのです。
医療法人を設立する目的には節税、分院・介護施設などの開設、医業承継などがあります。
自分は何のために医療法人を設立するのかを明確にし、具体的な情報をもとにその目的が達成できるのかを考えましょう。
どのように考えていけば良いのか説明をしていきます。
節税を目的にするケースの場合
まずある程度以上の利益が出ていることが最低条件です。
利益が出ていないのに医療法人を設立するとお金が不足してしまう危険性があります。医療法人を設立すると節税できる可能性がありますが、以下のようなことに留意する必要があります。
①スタッフだけではなく理事長・理事も社会保険に加入しなければならず、理事報酬が高額になると社会保険料も高額になること。
②複数の理事に所得を分散し、医療法人にも利益を移転しないと節税効果は低いこと。
③理事長・理事が個人で使えるお金は医療法人から受け取る理事報酬のみで、医療法人のお金を個人の家計費などには使えないこと。
④医療法人からお金を借りることはできないこと。
⑤医療法人に蓄積されたお金は退職・解散時にしか個人に戻せないこと。
このようなことを理解した上で、ファミリー・医療法人全体で現状と医療法人を設立した後ではどちらが手元に多くお金が残るのかを判断する必要があるのです。
これを頭で考えてもなかなか理解できませんので、具体的なデータでシミュレーションをします。
まず誰が理事になり、理事報酬をいくらにするのかを決めます。理事報酬が最低いくら必要なのか、家計でいつどれくらいのお金が必要になるのかをライフプランを考えながら明らかにして計算してください。
次に最低理事報酬額を支払った後の医療法人の利益を計算し、今後の経営計画をもとに医療法人に蓄積する資金の適切な額を考え、理事報酬を調整します。蓄積された資金は将来、医業承継時などの設備投資・経営資金、あるいは自分の理事退職金の資金などに充てていきます。
分院・介護施設などの開設をする、医業承継を身内ですることを目的にするケースの場合
分それらの設備投資資金や運転資金を効率よく蓄積することができるので医療法人の設立は有効です。
医業承継の場合は医療法人に蓄積された資産は相続税の対象になりませんので相続対策にもなります。
このような大きなメリットがあるにもかかわらず、理事報酬を多く取りすぎてほとんど資産が蓄積されていないこともよく見受けます。医療法人は設立すれば終わりなのではなく、設立後にいかに活用するのかを考え行動することが大切なのです。
次にMS法人について説明していきます。
MS法人を設立したいというご相談をよく受けるのですが、私は基本的にはあまりお勧めしていません。
なぜならば、これまで本当に有効なMS法人の活用事例をあまりみたことがないからです。MS法人をあたかも魔法の箱のように便利なものだと考えている方がいますが、具体的に何をどのようにするのか、どのようなメリットがあるのかを聞いてみると、答えられる方はあまりいません。具体的にどのようなメリットがあるかわからず夢を見ているような方が多いのです。
MS法人は法的名称ではなく、いわゆる普通の会社のことです。医療機関と取引がある、医療関係の仕事をすることなどからメディカル・サービス法人(MS法人)と呼ばれているだけで特別なものではありません。
医療施設と身内の会社で取引をして、そちらに利益を移転するのでメリットが出ると考えている方がおられますが、医療法人よりも高い税率、消費税課税、適正な価格での取引をしなければならないことなどを考えるとこのスキームではメリットはほとんどないのではないでしょうか。
それ以外にも特別なスキームを使うとメリットが出せるという人がいます。
例えば医療法人のM&Aをする時にMS法人に出資持分を持たせその株を高値で譲渡するような提案を受けたことがあります。税理士さんに確認したところ、これは課税回避行為になるので問題があるとの指摘を受けました。このようなスキームは理論上はできてもやってはいけないことです。
また、またMS法人に自宅を持たせることでメリットが出せるとの提案を受けたことがありますが、具体的なスキーム・データでシミュレーションをしていただいたところ、全く意味がありませんでした。残念ながら世の中にはクライアントのためではなく自分の利益のためにこのような提案をする人がいるのも事実です。MS法人設立の提案を受けた時には、セカンドオピニオンを使って本当に役に立つのかどうかを厳しくチェックしてください。
もちろん、MS法人が全く意味がないということではありません。
稀に単純な節税目的ではなく、相続対策や将来の家族の生活維持のためなどに活用している事例を見ることがあります。
まず何をしたいのか目的を明確にする。
そしてそれを実現するためにどのような方法が有効なのかを考える。その手段の一つとして医療法人やM S法人が有効であれば利用する。そのような考え方を持っていただければと思います。
プロフィール
近藤隆二(こんどう りゅうじ)
1957年生まれ
医業経営コンサルタント
ファイナンシャルプランナー(CFP)
一般社団法人 医業経営研鑽会 副会長
これまでに200件以上のコンサルティングと、50院以上の顧問契約を締結。決めつけを嫌い、さまざまな状況に応じたフレキシブルなコンサルティングを行っている。
クリニック開業後に苦戦する事例を数多く目にしてきた経験から、よい経営の方法を知らない先生のために、セミナー・執筆活動やブログ、動画セミナー、メールマガジンなどを利用し積極的に情報を発信。
院長先生をはじめスタッフも患者さんも幸せになれる、良いクリニックづくりを陰から支えていくことが役割であり使命。
「人が自分らしく自分の人生を生きる」 ことを実現させる手段として、開院を希望するドクター、開業医のための「クリニック経営講座(動画)」を配信中。