患者が通いたくなる「ナッジ理論」_『院長が悩んだら聴くラジオ』シーズン2_エピソード117全文書き起こし

患者が通いたくなる「ナッジ理論」_『院長が悩んだら聴くラジオ』シーズン2_エピソード117全文書き起こし

DOCWEB『院長が悩んだら聴くラジオ』この番組は開業医の皆さんが毎日機嫌よく過ごすための秘訣を語っていく番組です。 通勤時間や昼休みにゆるっとお聞きいただけると嬉しいです。

(高山)
おはようございます。パーソナリティのDOC WEB編集長、高山豊明です。

(大西)
おはようございます。パーソナリティのMICTコンサルティング、大西大輔です。

(高山)
院長が悩んだら聞くラジオ、第117回始まりました。

(大西)
よろしくお願いします。今日のテーマは何でしょうか?

(高山)
今日のテーマは、患者の継続受診についてです。

(大西)
今回の令和8年診療報酬改定でも、かなりこの「継続」というキーワードが出てきています。

この背景には患者の層が高齢化が進んできて、病気も急性期から慢性期の病気に変わってきている中で、これまでのように新患をさばくというよりは継続をどう進めていくのか。

それが医療費抑制につながるよねという文脈で、継続受診が今フォーカスされています。

(高山)
では今日は、その患者の継続受診をどうすれば実現できるのかというところを具体的に深掘りしていきたいと思います。

では、この後よろしくお願いします。

(大西)
お願いします。

厚労省の動きとクリニック経営の変化

(高山)
まずは厚労省の動きから確認をしていきたいと思うんですけども。

日本の医療の体制というのは、厚労省の中でも特に診療報酬の改定に色濃く反映されるわけですけども、

今回の改定もまた継続受診を促すような点数配置になっているのかなというふうに思います。

今までとこれからの流れに関しては、生活習慣病の治療から予防というところが大きな流れなのかなというふうに思いながらお聞きしてるんですけども、今後クリニックの先生方は何を意識していけばよろしいんでしょうか。

(大西)
これまでクリニック経営の中で、新患率というのをすごく大事にしてきました。

どれくらい新しい患者と出会えるか。

そのためにホームページもそうだし、いろんなツールを使ってきたわけですよね。

一方で患者がずっと右肩上がりで増える世界というのは、医療費が劇的に上がり続ける世界なので、どうしても厚労省としては、あるいは財務省としては防ぎたいわけですよね。

患者が増えず医療費も上がらずというのが期待する世界。

そう考えると、新しい患者が増えないような施策、新しい患者に対する評価が低くなってくるということが今見えてきてる世界です。

その時に考えられたのが、じゃあ1回来た患者が2回、3回、4回と継続して来るほうがクリニック経営が安定するんじゃないかということで、
この治療から予防へという考え、あるいは病気を早めに発見することで医療費が逆に下がってくる。

ということから考えると検診なんかがそれにハマるのかもしれない。

そんなところに厚労省はフォーカスを変えてきてるなという感じはします。

(高山)
長年にわたって徐々にそういう流れというか空気感を出してきたんじゃないかなと思うんですけども。

実際、内科の先生方は生活習慣病の管理を取って継続受診を進めている最中かと思いますが、実際のところ継続する患者と途中で離脱してしまう患者っているじゃないですか。

継続受診と離脱の予兆

(高山)
その状況というか、以前の回でも話題になったCRMという考え方ですね。
1人の患者さんの履歴をしっかり追っていって、

受診してなければ「次いつ来ますか」と声掛けをしたりとか、そういったことにつなげていくのがCRMという仕組みの話なんですけども。

実際離脱する患者って、予兆があると思うんですよね。

それをまず会話の中でキャッチをして、ここから離脱しないようにということでコミュニケーション取ることも必要かなと思うんですけど。

例えば予兆に関して考えてみると、来院間隔が空き始めてるなとか、あとは血圧の記録の手帳とか服薬記録が全然書かれてなくて、もしくはすごく殴り書きで適当になってるとか。

「これさっき書いただろ」みたいな、まとめて書いてるみたいな。

あとは自分自身のことなのに「先生の言う通りにします」みたいな感じで、すごく軽い感じでお任せになっちゃうみたいな。

そんなような傾向があると、離脱してしまうのかななんて思うんですけど、実際のところよく見ますか、こういう状況。

(大西)
私自身もそうだと思うんですけど、自分への健康へのベクトルが合ってるときって意識すると思うんですよ。

ちゃんと薬を飲んだり、ちゃんとデータを取ったり。

ただそのベクトルって、何かのきっかけでパツンと逆向きに向かうとか。例えば来院間隔が空き始めたというのは、基本的には「まあいいか」というどこかそこに原因があったり。

あとキャンセルですよね。
仕事が忙しい時はどうしてもキャンセルが増えてしまうので。

当然仕事が忙しいために来院間隔が空き始める。

手帳とかお薬が飲めなくなってるのも、生活リズムが変わったのかもしれない。

で最終的には「とりあえず薬だけください」みたいな投げやりな態度になるというのは、クリニックのあるあるだと思います。

これをどう止めるのかということをちゃんと意識しないと、おそらくもう来なくなっちゃうかもしれないですよね。

(高山)
患者側としても、だんだん行きづらくなりますよね。

(大西)
怒られるからね。

「ちゃんと手帳に書いてくださいよ」って言われた時に、人間の心の状態で「うるさいな」と思う時もあるじゃないですか。

(高山)
そういう人もいれば、傷つくじゃないですけど、できてない自分に嫌気がさすとか自信を失うみたいな感じありますからね。

(大西)
結局よく透析の先生に聞くんだけど、ほとんどの人がそういうきっかけから始まってきてるんだよねって言うんですよね。

要は「まあいいか」って投げやりな態度が継続していくうちに糖尿病が悪化して透析になってしまう。

その時に透析になった後ではもう間に合わないんですよ。
もう引き返せない。

ここから始まるのは週3回の透析の治療なので、もうこれは地獄ですよ。

だからそうならないためにも、患者さんは早く糖尿病の状態とか高血圧の状態でなるべく継続して治療していく。

そういうふうに先生たちもわかっています。

患者も多分わかってるんです。

でもできないのが人間なんじゃないかなというのが僕の考えかなと思います。

継続の壁をどう乗り越えるか

(高山)
元々医者通いが嫌いな人もいますし、相当嫌いな人と「まあ行ってもいいかな」っていう人と。

好きな人はあんまりいないかもしれないですけど、自分の健康にすごく興味があって積極的に行くべきだと思ってる人がいるので、いろんな患者さんがいますからね。

(大西)
そこでこれは日本の大きな問題ですけど、「診察時間3分、待ち時間3時間」みたいな揶揄があるわけですね。「3時間待ちの3分診療」。

(高山)
昔からというか、昔言われていた感じですね。

(大西)
これは大袈裟だけど、1時間待ちの3分診療はありうる。

例えばそのクリニックがちょっと遠いところにある場合、基本的には1日仕事になっちゃうんですよね。

そうするとその1日を犠牲にしてまで行く価値があるか。って考えると足が遠のくんだろうなという感じがするんですよね。

(高山)
特に仕事しないと収入が入ってこないようなタイプの働き方をされている方に関しては、もうマイナスですからね。

(大西)
今日の時給、日給がなくなっちゃう。

そう考えると、これまでのやり方、要はリスク管理的なやり方はもう限界が来てるから。

ちゃんとやらないと病気になりますよとか、こうしないとこんな大きなマイナスが起きるんですよなんてことはもう通じないのかな。

ナッジ理論の活用

(高山)
どうすればいいんでしょうね。

(大西)
そこがポイントとして、「日常に組み込む」ということだと思うんですよね、医療を。

(高山)
患者の日常に医療を落とし込んでいくということですか。

(大西)
落とし込んでいく。

もっと言っちゃうと受診をするというよりは、実は日々の毎日の過ごし方のほうが実は大事で。

それを報告に行くとか、擦り合わせをする場所。

例えば僕なんかもコンサルタントやってるので、月に1回ミーティングをして擦り合わせをするわけですよ。

その時にいいコンサルタントの使い方は、ちゃんと実行していて、そのチェックのために僕がいる。

(高山)
めちゃめちゃよく分かります。

(大西)
逆に下手な使い方は、毎回毎回同じことを繰り返して。

(高山)
進んでないから、また前回の振り返りから始まって、その場でした考えないみたいな現象がありますね。

(大西)
コンサルティングフィーがもったいないんですよ。

僕らいつも言うんだけど、「今日課題が出てそれを実行に移して、次は、その実行した結果を再考します」と。

これがPDCAサイクルなので。

この1ヶ月間の過ごし方がうまくいかなかった。

来ても意味がないですと。

はっきり言って帰りますよね。

(高山)
それ患者さんに求めないといけないのが結構難しい気がするんですけど、患者さんにはどうやって伝えれば習慣化になりそうですか。

(大西)
ここで経済学の「行動経済学」という新しい学問が出てきていて、経済学と心理学を組み合わせた学問なんですけど。

最近有名なのは「ナッジ理論」という理論なんだけど、ナッジっていう人が経済学のノーベル経済学賞を取ったんですよね。

その時に言い出したのがゾウの事例を言ったのよね。

ゾウさん、子供を前に歩かせる時に、鼻を引っ張るの?お尻を押すの?って言った時に、どっちもやっぱり強制なんですよね。

ナッジ理論の考え方は、お尻をちょんと突くんだって。

で、ちょんと突きながら行くと、子供は安心感、「あ、こっち歩きゃいいんだな」と言いながら歩く。

要は強引に引っ張るのではなくて、ちょっと小突くようなものがナッジっていう考え方になるので、

どうやったら習慣の中の一部として血圧手帳書くとか、お薬を飲むとか、運動をするっていうことができればいいのかなということを話し合う必要があるのかなというのが僕の考えかなと思います。

(高山)
ナッジ理論面白いですね。

今ちょっと調べてみたら「肘で軽く突く」という意味だということで、相手の自由を奪うことなく、望ましい選択を自然に取れるよう後押しする「仕掛け」のことだということなんですけど。

クリニックで考えれば、この仕掛けってどんなことが考えられそうですか。

(大西)
例えば細かい話で言うと、予約を忘れないために前日にちゃんとメールが届くのもナッジですね。

(高山)
CRMの1番お家芸というか基本ツールですね。

(大西)
その時にマジックを忍び込ませて。

この日に連絡が来た時に、慌てて血圧を打っちゃあもう間に合わないですよね。だから1週間前に1回、前日に1回。

で1週間前のメールには「頑張ってますか?」っていうメールが行く。

(高山)
応援してもらえると人って頑張れたりしますからね。

(大西)
1日前は「明日お待ちしてます」って送る。

(高山)
歓迎されてると「じゃあ行こうかな」ってなりますもんね。

(大西)
その時に、そこがなんか機械的に「明日は予約日です、必ず来てください」だとナッジじゃない。

(高山)
「分かってるわい」って話になりますね。

(大西)
「明日お会いできることを楽しみにしています」って送ってあげると、待っててくれてるっていう何か気持ちが込められていたりとか。

手帳の記録とかお薬とか飲めてますか?って言ってあげると、「あ、やべえやべえ、やらなきゃ」となる。

要はここにポイントは「褒める」っていうことなんですよ。

(高山)
ご褒美がないと進まないですよね。こういうのって。

(大西)
僕らもよく人を動かすためのいくつかの方法で「危険」とか「リスク」とかっていうのが一般的に考えられる。

例えば朝起きれない人は目覚ましをつける。

目覚ましがあまりにも効かない人は、1個2個も3個もつけるとかするんだけど。

起きることでいいことがあるのであれば、そっちは優先される。

なんていうのがナッジの考え方かなと思います。

(高山)
あとはスマホの世の中になっているので、自動的に何か記録ができたりとか、毎日ポップアップが訪れて何か促してくれるとか、そういったことも仕組みとしてはいいですよね。

(大西)
最近流行ってるのは「歩いたらポイントになって、そのポイントがお金に変わる」みたいのも最近流行ってるアプリですね。

(高山)
そこ医療となかなか結びつきづらいかもしれないですけど、そういうのを一緒に取り組んであげるような、それこそ背中を押してあげてもいいかもしれないですね。

スタッフの巻き込みと寛容さ

(大西)
その時に、これは次回話したいけど、先生1人の力じゃもう限界があるなという感じがして。

いかにスタッフさんを巻き込んでこれが実現できるかっていうのが鍵になる。

(高山)
受付した時に「あ、誰々さん、ちゃんと来れましたね、お待ちしてました」って受付の人が言うと、やっぱり患者さん喜ぶんですよね。

これ禁煙外来とかでよくやってる技ですね。
看護師さんが大体4週間、5週間チャレンジするんですけど。

禁煙外来って1回失敗すると保険が適用にならないので、1年間またできないんですよ。

チャレンジが。

だからなんとか4週間、5週間で(成功)させてあげたいので、かなりメンテナンスが必要なんだけど、声掛けがすごく大事で。

「大西さん吸ってないですよね」なんていう声掛けはダメなわけですよね。

(高山)
もし吸ってたらドキッとしますけど。

頑張ってたら「いやいややってるよ、ちゃんと」ってなりますもんね。

(大西)
その時に「1週間頑張れたじゃないですか」って拍手してあげるとか。
「来週も頑張りましょうね」と。

この性善説、性悪説の時に患者さんを悪者にするとダメなんですよ。

患者さんを性善にしないといけない。

これが、ある意味ナッジが考えたことなんだろうなと思います。

(高山)
とはいえ人間なので、忘れちゃったりとか忙しくてできなかったりという、歯抜けになってしまうこともあるじゃないですか。
測定とか記録とかが。

それを許容してあげる、ある程度。

「完璧じゃなくていいですよ」みたいな声掛けも、すごく患者として楽になると思うんですけど。

医療的には許されることなんでしょうか。

(大西)
許されます。

別に1日測らなくたって大して変わらない。

よく言うんですけどダイエットもそうなんだけど、1日もし食べちゃったら、翌日頑張ればいいんですよ。

1日で防げるなら、今日はご褒美。

これがダイエットの世界でのご褒美の日を作って、その日はめちゃめちゃ食う。

でも明日から頑張る、みたいな。

1つの患者さんに言うのは「手帳が端切れでもいいし、お薬が飲めない日もあるでしょう。ただ平均化して飲めてればいいよ」というふうに、自分を責めない方法がいいなと僕は思うんですよ。

(高山)
ということで、今日「ナッジ理論」という言葉が出てきましたけども。

ぜひご興味持たれましたら一度調べていただいて、それをクリニックの運営の中でとか、ご自身の会話の中でどう落とし込んでいくのかということについて、ぜひご一考いただければなというふうに思いました。

ということで次回は、特定健診の受診率をどう上げていくのかということについて語っていきたいと思います。

それでは続きは次回にします。
本日もありがとうございました。

(大西)
ありがとうございました。